決意
俺は確か、何かを口走ったような気がした。いや、《口走った》のだ。その『可能性』が『確信』に変わるのには、時間を必要としなかった。だって、その後の「えっ!?」を、隣に座る かな も言ったのだから。
「そ、そんなに焦ってるの?」
「いや、過去の記憶はまた後でもいいと思ってるんだが…」
わからん!のジェスチャーを出した。
「…もしかして、多重人格?」
「いやナイナイ。第一それハブシッ!?」
と、よくわからん声を出して、俺は転んだ。
「いってーな!」
と、起き上がり、踏んでしまった丸いものを見る。
それは一昔前のカプセル型のガチャであった。
「…ッかし〜な〜、こんなとこに落ちてなかった気がするんだが?」
と、不思議に思う。
「不注意なだけじゃない?」
と、呆れ顔で言う かな 。
「まあいいけ、どっと」
「ちょっと、ネツ!?勝手に開けちゃダメでしょ!」
と、やけに硬く閉めてあるカプセルを開けた俺を注意する かな 。
「いいんだよ、こんなとこに捨てるものは」
と、中身を見て、ゾッとした。
『A:かな を選ぶ
B:かの を選ぶ
C:両方を切り捨てる』
こう書いた紙一枚しかなかった。裏も見るが、書いてなかった。
俺がゾッとしたのは、さっきから後ろで喚く『かな』と、かな の妹の『かの』が同時に書いてあることにあった。
「ねえ、何があったの?」
と、俺から髪を持ってかれた。
「…ねえ」
まあ、不審に思うのも無理ないか。だって、その紙には…
「白紙だったなんて、残念だね」
はあ?何言ってんだ、このお嬢様は?
覗いて見ると、書いてはいるが、
「そんなに覗いても、何も出ないよ?」
と、不思議がる かな を見て、即時で…
俺にしか見えない文字
…だと思った。
「かな。その紙、くれないか?」
と、お願いする。
「別にいいけど、何に使うの?」
「まあ色々と」
「ふ〜ん、まあいいけど」
と、無事手元におさまった紙を、俺は眺める。
一体何が起きるのかは分からない。ただ…
………かな と かの に何かがあり、それを止めないと行けない気がする。
「何深刻な顔してるの?笑えてくるんだけど」
と、我慢ができなくなった かな は笑い出した。
だが、かな は嘘が下手だ。
かな は本当に笑うと、床で周り出すからだ。
たぶん、この空気が絶えられなくなったのだろう。事実、こっちも疲れてきたので、また今度にした。この『周る かな』のことは言わないで無視した。
「たく、だらし無いわよ、ネツ!」
「お前が男気ありすぎるからだろ!」
と、何とか帰ってきたが、あの内容にはまだ引っかかるところがある。
『A:かな を選ぶ
B:かの を選ぶ
C:両方を切り捨てる』
かな にはああ言ったものの、これの使い方も意味も知らない俺には、考えつかなかった。ただ……
俺は三分の一、すなわち『B』と『C』の間を…
折って
折って
折って
折って
折って
折って…
いい感じになった折り目からきれいに
破り
『C』を丸めて
捨てた。
そして、はっきりと
「俺は切り捨てない!」
「…切り捨てるのも大事、だよな?」
「そ、そうですわ、ね?」
「まあ、さすがにあれはね〜」
と、一致した意見を言うのは…
「折角の回復祝いだから、何かお菓子作るよ!」
と張り切ってた かな の料理は気になってた時、横で『LOVE光線』を向けて座る かの が、ワナワナと震え出して、目を逸らした。
(そんなにヤバいのか?)
と思い、反対側で座る 綺羅 さんを見たが、流石のポーカーフェイスも青ざめる。この時、
(あ、死ぬかも)
と、確信した。だって、あの笑顔な 綺羅さん が青ざめたらそう思うだろ。
「流石の私も命の危機を感じましてよ」
「まあ、姉LOVEなお前でも怖れるとは、余程なんだな…それに、 綺羅さん もこうだし」
と、自室を鍵で閉めるくらいだから。
「わ、私はこれで…」
「かの〜、味見してくれな〜い」
ピューーーーーン!!
ドアが大きく開いた。かな は助走を付けて、
ビュン!ガシッ!
悲鳴がした気がしたが、俺は気配を消しつつ逃げた。どこへ?もちろん外へ。