フェイズ2
「え? ……夢咲さん?」
ドアを開けた俺の目の前にいたのは、花園さんだった。
「何故ここに? というより何故俺の名前を?」
彼女は、クラスメイトということ以外に接点が全くない俺のことをなんで知っている?
「それは……」
そう言って、彼女は目を逸らした。
なんで花園さんみたいな、カードゲームと縁がなさそうな人が――。
「それは彼女が仮入部を希望しているからだよ」
思考に割り込んで聞こえてきた声、振り返ると扉の前に一人の女性が立っていた。
「梓さん……」
「ここでは梓先輩と呼びたまえ。一応は上級生だ」
背が高く、漆のように黒い髪は肩辺りまで伸ばしている。初めて『梓さん』とあった人は十中八九凛々しい人だと答えるだろう。
「自己紹介がまだだったな、花園さんは初めまして、夢咲君は久しぶり、私は梓 千尋という。この部活『TCG同好会』の部長をしている物好きだ」
「は、初めまして」
花園さんは完全に委縮している。まあ、インパクトのある人だからなあ。
「ここの部員は3人しかいなくてな。団体戦の優勝を目指しているのだが、三人では2回戦あたりがやっとなんだ。二人が入ってくれれば6人になるから助かる」
「梓さん、なんで5人じゃないんだ?」
「ああ、それなら君達が来る前に入部届けを出した新入生がいるんだ。ただ『家の手伝いをしなければいけないので時々しか来れません』と言われてしまったが。……そんなことより訊くが、二人はトレーディングカードゲームをやったことがあるか? 夢咲は知っているが」
「俺は出来るのは梓さんなら知っているよな。……花園さんは?」
花園さんを見てみると、ただでさえ小さな体がさらに小さく見える。
「私は初めてです。……正直に言いますとデッキは持っていますが、ルールすら分かりません」
「見せてもらっても良いか?」
花園さんが恐る恐る持っていたデッキケースを梓さんに渡し、彼女はそれを確認する。
梓さんの顔がだんだんと面白いことを見つけたそれになっていく。なんでだ。
「……そういうことか。夢咲君、君の技量を見てみたい。花園さんにルールを教えてあげなさい。君や私がやっている物と同じものだ」
花園さんは俺や梓さんと同じセイクリッド・ブレイカーを始めようとしているのか。とりあえずアドバイスができるよう、花園さんのデッキを見せてもらおうと……。
「ただし、花園さんのデッキの中身を確認しないで始めるんだ」
その言葉に、俺は思わず梓さんの方に振り返る。
「梓さん、それは無理がある!」
「だからこそ、だ。……もしかすると彼女は君の宿敵かもしれないぞ……」
「……え? 今、何を言ったんですか?」
梓さんが最後に言った言葉は良く聞こえなかった。俺と梓さんのやり取りに花園さんがおろおろとしている。
「それは後でのお楽しみだ、夢咲君。……さあ、二人とも机に座りたまえ」
花園さんの初めてのカードゲーム、一体どんなカードを使うのだろうか。
……この先に起こる出来事を、俺はまだ知らない。