フェイズ3
・今日のカード紹介。
爽「今日のカード紹介。お相手は、作者に『よく負ける主人公』と言われている夢咲 爽と――」
みき「作者に『初心者だけど伸び城が大きい』と言われている花園 みきがお送りいたします」
爽「紹介するカードは、《竜王 イグドラシル》だ!」
みき「あれ? 夢咲君も竜王ってカードを持っていませんでしたか?」
爽「ああ、あれは《竜王 メイルシュトローム》だね。他にも青には《竜王 シュトロム》だとか、《竜王 ノア》だとか……、まぁ、それはともかく。《竜王 イグドラシル》は、強力な足止め能力と、高いパワーを持つカードだよ」
みき「竜王はカード名のスケールが大きいですね。嵐に、ノアの箱舟に、北欧神話の大木ですか」
爽「竜王は一部の例外を除いて災害の名前がつくんだ。イグドラシルは災害じゃないけど……」
みき「レーヴァテインに焼かれて、神様の時代は終わってしまうんですよね……」
「出撃ステップ、2体目の狩人を出撃。メインステップ、狩人の効果を使用する。四葉のパワーをプラス2、そしてパワーを上げた四葉でイクリプスを攻撃!」
イクリプス7→4
「そんなもん、痛くもかゆくもないぜ」
「そうか? その油断が敗北を招かなければいいな」
「何だと!?」
大野先輩を逆上させかけるが、鷹野先輩は無視して自分のターンを再開する。
「そのままソウルステップ。手札から4枚、デッキから1枚をイグドラシルだ」
大野先輩は焦っている。場の主導権を握っているのは大野先輩だが、鷹野先輩に3ダメージしか与えられていないのだ。対して彼はイクリプスの効果でライフは残り7。イクリプスがいるのでまず無いが、直接攻撃を食らえばそれだけでゲームが終わってしまいかねないのだ。
鷹野先輩は最後まで冷静を保っている。ずっと劣勢なのにものすごい精神力だ。
「俺のターン! 『出撃ステップ』で《氷牙 アイスピック》を出撃。……今度こそ四葉を倒してやる。アイスバーンとアイスピックで狩人を倒せ!」
狩人3→2→0
……なんか、狩人ずっとかませ犬だなぁ……。
「さあ、イクリプス! お前の出番だ! 四葉を倒せぇ!」
今度は鷹野先輩もどうしようもないようだった。
四葉3→0
「これで終わらせるぜ! 2体目のイクリプスをセット。ソウルに6枚置いてターン終了だ」
インターセプトが発動すれば、連続攻撃は防がれてしまう。厳しい展開だ。
「……お前は一つ間違いをしている」
鷹野先輩は誰にでもなく――どう考えても大野先輩に言っているのだが――つぶやいた。
もちろんそれに大野先輩が反応する。
「なんだよ」
「俺は四葉を守っていたのではない。お前を四葉を倒すことに集中させただけだ。そして、これがその証拠だ。俺のターン、《竜王 イグドラシル》を出撃させる! イグドラシルの効果を使用! 出撃時、コストを支払うことで相手ユニットを待機ゾーンに戻す!」
「な、なんだと!?」
《竜王 イグドラシル》 色:緑 所属:ナチュラル・ドラゴン コスト:9 パワー7
効果:[自動(このカードの出撃時)]コストX このカードの出撃時、コストを支払っても良い。払った場合、コストX以下のソウルを持つユニットを全て待機ゾーンに置く。
「4コストを支払い……、大野のユニットを全て待機ゾーンへ」
「な!? 俺の場のモンスターが!?」
「お前の待機ゾーンにはインターセプトを持つユニットがいるが……一撃で終わらせれば何も問題は、無い! イグドラシルで大野を攻撃!」
「対抗策が、無い……。俺の、負けだ」
そう言うと、大野先輩は椅子に深く腰掛けた。
「よっし。これでパンは僕の――」
拍手の音がする。後ろを振り向くと梓さんが手を叩いていた。
「よい勝負だった、ごちそうさま。……で、なんで戦っていたのかい?」
ん、なんだ? 今、「ごちそうさま」って言わなかったか?
固い動きで大野先輩と鷹野先輩が梓さんの方を向く。
「「ここにメロンパンが置いてなかったか?」」
梓さんはキョトンとして答えた。
「ここにあったメロンパンなら私が頂いたが。何か問題でもあったか?」
梓さんは首を傾げて良く分からないという表情する。が、俺と花園さんは、滝のように冷や汗を掻いていた……。ゆらりとした動きで二人の先輩が立ちあがり、そして同時に叫ぶ。
「「ちーーーー! ひーーーー! ろーーーーっ!!」」
「なんだ!? なんだね、二人とも!?」
「「勝負だッ!! 千尋ッ!! 許さねえッ!!」」
「勝負? いいよ、面倒だから二人とも同時にかかってきなさい」
「「今日こそぶっ倒す!!」」
そう言って先輩方が勝負を始めてしまった。
「……今日は俺たち二人で特訓するか」
「そうですね。今日もお願いします夢咲君」
俺たちも席について勝負を始める。
これが俺たちの日常だった。
ちなみに勝負の結果は二面打ちという高等テクニックの上、一軍を使っていないのにもかかわらず、梓さんが二人を終始圧倒して、勝利を収めた。……合掌。