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番外編:上位種のお話

 注意! まだ本編に登場していないキャラクターが出てきます。特に意味はないので気にせずお読みください。

 放課後、TCG同好会に集まった俺達五人は――、せっせと拡張パックを開ける作業をこなしていた。


 部長いわく、月に一度のボックス開封会だという。


 部室に入った途端に、梓さんから新弾の拡張パックである『はじまりの戦い』を渡された。


「梓さん、これを貰ってもいいのか?」


「正確には部の備品だから開けた人のものではないぞ。だが、お互いが会えたカードを渡しあい、自分のデッキを強化することはひいてはこの部のためだからな」


「要するに、開けたカードでデッキを強化しろと?」


「そういうことだ」


「5ボックスも……どこからそんなお金出したんだ」


 確か、ここはまだ同好会なのでほとんど部費は出ていないはずだ。


「自腹だが、何か文句でもあるのか?」


「「自腹!?」」


 俺と花園さんの声が重なった。


 確かにそれだけのお金を稼ぐ方法が彼女にはあるが……、そこまで部での優勝にこだわる理由は何なのだろうか。


「みんなで楽しんで強くなれば私のことはどうでもいいんだ。人の好意は素直に受け取りなさい。部長命令だ」


 そう言われて俺たち二人は自分たちの席に着く(先輩の真正面だ)。


 先輩たちは一足先にボックスを開封していた。


「ん、《竜王 ムスペルヘイム》か。千尋、いいボックスを買ってきたな」


「おっしゃ、これで切り札が揃った! 千尋、ありがとな!」


「……二人とも、ありがと」


 ……梓さん、この二人の先輩の前では女の子らしいしぐさを見せることがある。聞いた話だが、この三人は幼馴染だそうだ。


「花園さん、俺たちもボックスを開けようか」


「……いいのかな? これって部長の自腹なんだよね」


「気にしたら負けだ。気にしたら」


「そう……」


 花園さんはそう言うと危なっかしい手つきでパックを開封していく。あ、そんな開け方したらカードが折れるって……。


 その後は五人全員が無言でパックを開ける作業に集中していた。時々、「ファーストレア、なかなかだな」「だぶったぁ!?」「騎士様、かっこいいです……」という呟きが聞こえてくるが、基本的に、外の運動部の声が聞こえてくるくらいの静けさだった。


 数分後、花園さんの見つけた一枚のカードが静寂を破ることになる。


 きっかけは花園さんのほんの些細な一言だった。


「これ……、凄いです。他のカードよりキラキラ光っています。綺麗ですよ」


 そう言って花園さんが一枚のカードを俺たちに見せてきたのだ。

 

 そのカードの名前は《救世主 セイクリッド・セイカ》。


 …………、…………は?


 ガタン! という椅子を蹴飛ばす音が部室に四回響いた。花園さんを除く全員が、勢いよく立ちあがったのだ。




    「「「「 な に そ れ ! ? 」」」」


 四人の声が同時に重なった。


「セイクリッド・セイカ? 初めて聞いたぞそんなカード!? ネットでも噂すら聞いたことが無いんだけど!?」


「俺の持っているカードよりもすごく光ってねえか!? 加工、力入れ過ぎだぞ!?」


「俺のデータベースにも載って無い……一体何なんだそのカード……」


「私は聞いたことがある……。このカードゲームにはレア度の低い順から、サードレア、セカンドレア、ファーストレア、ヒーローレアとグレードアップしていくものだが、ごく稀にセイヴァーレアというものが存在するらしいと。私も実物を見るのは初めてだ……」


 上から、俺、大野先輩、鷹野先輩、梓さんだ。


「花園さん、ちょっとそのカード貸してくれないか?」


「いいけど……」


 花園さんは四人の異常なテンションに完全に引いていた……。……ごめんよ、でも、それがカードゲーマーの宿命なんだ、見たことのないカード見ると、つい気になってしまうんだ……。


 《救世主 セイクリッド・セイカ》 色:黄 所属:セイクリッド・セイヴァー コスト7 パワー5


 効果:???


「所属:セイクリッドセイヴァー? 初めて聞く所属なんだけど、セイクリッドナイトの上位種か?」


「恐らくそうだろうね。私の仮説だが、このカードはアリスが『お姉さま』といっていた人物だと思われる」


「は? あれはギネビアではないのか?」


「夢咲君と部長の話についていけません……」


 花園さんはなぜか涙目だ。


「いや、小説版セイクリッド・ブレイカ―では、アリスはギネビアのことを『ギネビア様』か『王妃様』と呼んでいたはずだ」


「! そういえばそうだ! ならこのカードはかなりのキーキャラクターだよな」


「そうだな、名前の関係上、小説版の最後に出た『奈落王』と呼ばれるカードとも関係がありそうだ」


「……か」


「「か?」」


 ゆっくりと俺たちは花園さんの方を向く。彼女は……珍しく怒っていた。


「返してくださいー! それは私のカードです!」


「ごめんな、仲間外れにするわけではなかったのだけど……」


 そう言ってセイカを花園さんに返す。


「もう、いいですよー」


 ふくれっ面だが一応許してくれたようだ。


「なあ、花園さん。そのカードをデッキに入れて、勝負してみないか?」


「は、はい。分かりました」


 花園さんは多少慌てた手つきでセイカをデッキに投入する。


「夢咲君、お願いします」











 数時間後。


 夕焼けに染まる部室に、机に突っ伏した死体が五つほど出来上がっていた。


 ……つまり俺たちなのだが。


 原因は《救世主 セイクリッド・セイカ》にある。セイカを投入したデッキを使った花園さんと勝負をしてみたが、所属:セイクリッド・ナイトを持たないのでデッキ本来の動きすらまともにできずゲームが終わってしまった。……それが惨劇の始まりだとは露も知らず。


 どう考えても花園さんのデッキでは相性が悪いということなので、先輩たちと俺はセイカを主軸にしたデッキを一から構築しようとした。そして完成したデッキにセイカを順番に投入してスパークリングをしたのだが……最終的にどのデッキも全く動かずに負けてしまったのだ。


 連戦した俺と花園さんは勝負に疲れて、先輩たちは構築に疲れて一人、また一人と机の上に倒れていく。そしてこの状況が出来上がってしまったのだった。


「無理……、五色すべてを場にそろえるなんて無理だから……」


 という梓さんのつぶやきがすべてを物語っていた。


 そう、セイカの効果の発動条件は赤青緑黄黒の色がすべて場にそろっていることだったのだ。現在はほぼ、不可能に等しい。


「…………、……帰ろうか」


 梓さんのその一言で今日の部活はお開きとなった。……全員、声を出す体力すらなくなっていた。


 《救世主 セイクリッド・セイカ》は部員の満場一致で部室に大切に飾られることになる。そのカードが使われる日が来るのはもう少し、先のお話。

 と、いうわけでセイクリッド・ナイトの上位種と思われし、セイクリッド・セイヴァーについてのお話でした。

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