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朔夜~月のない夜に  作者: めけめけ
第3章 流転
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第57話 集結

「どういうことだ」


 長く伸ばした髪の毛を後ろで結わき、闇に溶け込むような暗い色をしたシャツにズボン。肌の色の白さが不気味なほどに目立つ。ひ弱そうに見えて、目は爛々と輝き、唇が異様に赤い。その口元は左右非対称に歪んでいた。笑っているようにも見え、泣いているようにも見え、或いは怒りに引きつっているようにも見えた。


 テオドールの足元には、4体の人狼の屍が横たわっていた。そのうち二つは頭を強烈な打撃によって砕かれ、一つは首をへし折られ、もう一体は胸を潰され、心臓が抉り取られていた。


「我々が駆けつけたときにはすでに人の気配はなく、何者がこのようなことをしたのか……」

「そうではない。手を出すなと言ったはずだ」

「はっ?」


 テオドールの視線は、アベルの家に向けられたいた。

「ちょっかいを出すからこういうことになる。俺様が行くまで、手を出すなといわなかったか。この馬鹿どもが!」


「俺たちは何もやっちゃぁいないぜ。テオドールの旦那」

 そう答えたのは、テオドールよりもさらにひょろっとした優男であるが、その表情からはいかにも小物であることがうかがえる。目は泳ぎ、両手を無意味に動かしながら、強い者にはとことんへつらうような態度。テオドールは、その男の胸倉を掴み、鼻と鼻がくっつくほどに顔を近づけ男に向かっていった。


「徹底させろ! アレには手を出すなとな!」

 言い終えて男を突き飛ばし、テオドールは周りを注意深く見渡し、鼻に意識を集中させた。突き飛ばされた男は、その勢いのまま狼の姿へと変身し、その場を立ち去った。


「誰だ! 誰の仕業だ! くっ、この臭い。知っているぞ。俺は知っているぞ!」

 テオドールの鼻は人間のそれであって、それでない不気味な動きをしている。

「人の臭い。あの女の臭い。火薬、銃の臭いはハンターのものだが、しかし・・・・・・」


鋭い目は地面に何かの痕跡を見つけたようだった。


「この大ききく、そして力強い足跡・・・・・・、おのれグスタフ! 俺様の邪魔をしようというのか!」


 テオドールは咆哮し、怒りに身を任せて人狼へと変身した。

「獲物の横取りは許さんぞ。グスタフ。アレは俺の獲物だ」

 テオドールは激しい咆哮を繰り返しながら、グスタフの足跡を追った。それはまっすぐとフォンrティーヌ邸へと続いていた。


 グスタフは、その巨体を闇に浮かべるように、静かに、そして動力のある船のように力強く町の中を歩き進んでいた。何者も近寄ることができないような覇気が、まっすぐに前に向けられている。

 一見して背中は無防備に見えるが、グスタフの背中はあまりにも大きく、まるで断崖絶壁を眺めているような気にさせる。

 望む者あれば好きにすればいい。ただ、失敗をすれば命を落としかねない。そう無言の圧力をかけているようであった。


 我は、闇の眷属なり。我、月の灯りとともにその姿を獣と変え、地を走り、闇を切り裂き、血を求めるなり。我の血は、神の理に叛き、闇に生き、光を忌み嫌うものなり。


 未だ満たされることのない魂の器よ。


 乾ききってしまうか。或いはあふれ出してしまうか。


 我は見届けねばならぬ。


 そして聞かねばならぬ。


 魂の叫びを。


 闇に落ち、闇に溶け、朽ちることも許されず、暗黒にさまよう魂が我を呼ぶ。


 闇は闇を呼び、暗き願いは、時を超え、大地を越えて、川を下る。


 それは人の心が低きに流れるように、上流は激しく、下流では大きな流れになる。


 我は、闇の眷属なり。


 我の進む先に闇あり。


 我は、闇の眷属なり。


 我を追う者もまた、闇の使者であるのか。


 語るに足らず。知るにあたわず。


 しかし……。


 グスタフは不意に足を止め、後ろを振り返った。


「テオドールが来ているな。奴の瘴気は鼻につく。出来るだけかかわりたくはないものだ」


 グスタフは周囲に強い殺気を放った。


 一瞬空気の流れが止まり、たまらず一頭の狼がうなり声を上げた。

「邪魔だ! うせろ!」


 グスタフの覇気に押され、狼は退いた。


「あそこか・・・・・・」

 グスタフの視線の先には、フォンティーヌ邸が静かに佇んでいた。

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