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「何を読んでたの?」
自然と、心の手元に目がいく。
心が持っていたのは、表紙にリンゴの写真が付いている
文庫だった。
タイトルは「本当の恋を知った日」。
携帯小説か何かでありがちなネーミングだな、と思った。
「携帯小説を書籍化したものなの」
僕の考えなんてお見通し、とでも言うように
心が僕の目を覗き込んでいた。
「ふーん、やっぱり。でも珍しいね」
「ん?何が?」
「心も携帯小説とかって読むんだ?」
僕の言葉に苦笑しながら、心は持っている文庫を
手渡してきた。
それを受け取り、きちんと読むのではなく、パラパラと
ページをめくっていく。
「あんまり得意じゃないんだけどね」
「だよね。」
「でも……その本は全然抵抗なく読めちゃうの」
へー、と大して興味なさ気に呟く。
僕はライトノベルなどは読むが、どうしても携帯小説は
好きにはなれなかった。
「どんな話?」
「ふふふ、自分で読んでみたら?」
「読む気ないから聞いてるの~」
ただ字を眺めただけの本を心に返す。
受け取りながら、心は「読めばいいのに……」と
笑った。
「主人公がね、友達の女の子に恋をしちゃうって話なの」
「……つまり……百合ものってーこと?」
「まぁ……言うなれば、そう……かなぁ」
「それで?その主人公と友達はどうなるの?」
僕の問いかけに、心は寂しげな笑顔を浮かべて答えだした。
主人公はどこにでもいる中学生。
その主人公には大好きな幼なじみの女の子がいた。
可愛くて優しい幼なじみは、みんなの人気者で……ある日
そんな彼女に彼氏が出来た。
そこで、やっと主人公は自分の本当の気持ちに気付く……。
そこからはケンカもあったり、自傷行為とかのシーンもあったりと
一携帯小説的な内容となる……らしい。
「んー……なんか……微妙……?」
「ちゃんと読んでみたら良さが分かるって!貸すよ?」
「読みたくなったら言うよ。その時は貸して」
ぶーと口で言いながらむくれる心が、ものすごく可愛く感じた。