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特別、「好きな人」とか「彼氏」とか欲しいと思ったことはないが、
自分の周りで徐々にカップルが出来てきたので焦っているのだろうか?
そんな考えが一旦頭をよぎったが、馬鹿馬鹿しいと深い溜息をつく。
そこでようやく、授業がもう終わりにさしかかっていることに
気付いた。
***
「じゃあね~!!バイバイ、柚葉ー!」
「バイバイ、みーちゃん」
愛想笑いを顔に貼り付け、僕はにこやかに教室から出て行く
みーちゃんを見送った。
結局、僕は二人の初デートにはついて行かなくて良いことに
なった。必死に「二人の邪魔はしたくない」ということを言い続け、
説得した結果、みーちゃんは納得してくれたようで、爽やかに部活へと
向かっていった。
そんなみーちゃんを見送った僕は、いつもの通り自分のカバンを
背負い、図書室へと向かった。
***
僕たちが通うこの学校、「若葉中学校(通称;若中)」は、緑に囲まれた
どこにでもありそうな普通の中学校だ。
校舎は4階建てで、壁の塗装はところどころ剥がれてしまっている。
生徒数は350人弱。割合的には男子の方が少し多い。
制服は、女子がセーラーで男子が学生服。至って普通。
問題児はいるが、不良校というわけではない。
天才はいるが、学力トップというわけではない。
どこにでもある中学校。
それが、この学校の生徒たちの、学校に対する見方。
***
図書室の戸を開けると、大好きな本の優しい匂いがした。
そんな中で、本を読む一人の女の子が視界に入った。
肩から流れ落ちる優しげな栗色の髪。
赤く、厚みのある唇。
伏せがちな長くカールした睫毛。
雪のように白い肌。
きっと、世間一般の方はこんな子の子ことを「美少女」と呼ぶだろう。
まさに、その言葉がピッタリと当てはまってしまう美人。
10人が彼女の横を通り過ぎたら、10人が思わず後ろをふり返ってしまうような
そんな美貌を持つ彼女は――――……
「あ、柚葉」
何故か、僕の親友だ。
この絶世の美少女の神無月心と、普通を絵に描いた
ような平均女の僕が親友であることはこの学校では、結構有名なこととして
みられている。
その為、先輩・同学年問わず、色んな人間から「どうして親友なの?」という質問
をされたことが数え切れないほどある。
どうして親友なのか。
そんなこと、きっと僕が一番知りたい。
「ごめん、ちょっと遅かったよね」
「いやー?全然だよ」
言って、にっこりと笑顔を見せる心。
そんな心の笑顔が大好きで、自然に僕の口元にも笑みが浮かぶ。