夏休み編③消えた友達
ついに、『遊戯機装ギアフォース』のアニメが終わってしまった。
歯車廻とラスボスとの最終決戦。
熱かった。
人々の希望を力へ変えて放たれた、サンライザー最後の一撃。
画面いっぱいに広がった黄金の光は、今でも目の奥に焼き付いている。
カッコよかった。
本当に感動した。
だからこそ、この気持ちを今すぐ誰かに話したかった。
――ユウヤに。
俺はいつもより少し早く家を飛び出した。
学校へ向かうまでの短い時間でもいい。
あの最終回について、思いっきり語り合おう。
そう決めていた。
ユウヤの家のインターホンを押す。
いつもなら、少し待てば『おー、開いてるぞー!』と気の抜けた声が返ってくる。
だけど。
『はい、どちら様ですか?』
「……え?」
聞いたことのない声だった。
ユウヤの母親の声じゃない。
もっと年配の、老婆の声。
一瞬、家を間違えたのかと思った。
でもそんなはずはない。
何度も遊びに来た家だ。
見間違えるわけがない。
「あの……ユウヤ君いますか?」
インターホンの向こうで少し沈黙が流れる。
『ユウヤ?』
不思議そうな声。
『そんな子知らないよ。ちょっと待ってて』
ガチャリ、と扉が開く。
出てきたのは、見たこともない老婆だった。
「え……あれ?」
混乱する俺をよそに、老婆は穏やかに目を細めた。
「隣の常磐城さん家のキョウヤ君かい? 今日は学校じゃないのかい?」
「おばあちゃん……誰?」
「秋田よ、秋田。冗談でしょ? 忘れちゃったの?」
玄関横の表札へ視線を向ける。
そこには、知らない名前が刻まれていた。
ただそれだけのこと。
なのに、胸の奥が妙にざわついた。
「よかったら家に上がっていくかい?」
訳が分からないまま、俺は頷いていた。
靴を脱ぎ、家へ入る。
内装は何も変わっていなかった。
見慣れた居間。
テレビの位置。
廊下の傷。
全部そのままだ。
なのに。
何かだけが、決定的に違っていた。
「良かったらその柿食べてって。庭の木が実ってきたんだよ」
差し出された柿を受け取り、俺はぼんやりと眺める。
季節はもう、夏の終わりだった。
「おばあちゃん、ありがとう」
俺は柿を机に置き、小さく尋ねる。
「……もっと家の中、見ていってもいい?」
「いいよぉ。キョウヤ君の気の済むまで見ていきな」
間違いない。
ここはユウヤの家だ。
一緒にテレビを見た居間。
ゲームで笑い転げた部屋。
背中を洗い合った風呂場。
梅の木が植えられた、日当たりのいい庭。
全部覚えている。
全部、本物だ。
……違うのは。
表札と。
そこに住んでいる人間だけ。
ユウヤの物だけが、どこにもなかった。
服も。
おもちゃも。
ゲームも。
まるで最初から存在しなかったみたいに、綺麗に消えている。
「ねぇ、ばあちゃん」
自分でも驚くほど掠れた声だった。
「ここに、ユウヤって男の子が住んでたはずなんだ」
老婆は困ったように首を傾げる。
「知らないねぇ。私はそんな子、聞いたこともないよ」
学校へ行っても同じだった。
先生も。
クラスメイトも。
誰一人として、ユウヤのことを覚えていない。
まるで最初から存在しなかったかのように。
気付けば、『ギアフォース』のブームは終わっていた。
学校では今、新しく始まった『バトル鉛筆』が流行っていた。
鉛筆を転がして戦う単純な遊び。
教室ではその話題でもちきりだ。
俺も第一話を見た。
かなり面白かったと思う。
きっと玩具も流行るんだろう。
流行りは、いつだって変わっていく。
遊びも。
アニメも。
人との出会いも、別れも。
全部。
……でも。
出来ることなら。
バトル鉛筆も、あいつと一緒にやりたかった。
俺は、この突然の別れを受け入れなきゃいけないのか。
「ユウヤ……」
誰にも届かない声が漏れる。
「お前、一体どこに行っちまったんだよ」




