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追放された俺、装備を全部奪われたけど “名もなき木の棒”が最強だった  作者: Y.K
第1章 屈辱と名もなき木の棒

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1/11

役立たずは数に入らない

 鑑定水晶の光が、ふっと消えた。

 それだけで、ギルドホールの空気が一段冷える。


「……は?」


 パーティリーダーのガルドが、間の抜けた声を出した。

 水晶と、俺――ノイル=レインを交互に見比べ、眉をひそめる。


「受付、壊れてるんじゃないのか?」


「い、いえ……正常です」


 受付嬢は水晶を覗き込み、言葉を選ぶように続けた。


「冒険者名、ノイル=レイン。

 鑑定結果――スキル欄、全項目……判定不能です」


 一拍遅れて、失笑が起きた。


「ははっ、判定不能だってさ」


「才能ゼロどころか、空白かよ」


「半年も面倒見てたってマジ?」


 面白がる声が、あちこちから飛ぶ。


 ガルドは大げさに肩をすくめ、深いため息をついた。

 まるで、ずっと我慢してきた被害者みたいな顔で。


「……なあ、ノイル」


 妙に穏やかな声だった。


「正直に言うぞ。

 俺たち、最初は期待してたんだ」


 隣の魔法使いが、同意するように頷く。


「鑑定不能?

 もしかしたらレアスキルかも、ってな」


「でもさ」


 ガルドは言葉を切り、俺を見下ろした。


「半年だ。

 半年一緒にやって、結果がこれだ」


 指が向けられる。


「戦闘中は突っ立ってるだけ。

 魔法は遅い。

 剣は振らない。

 判断も遅い」


「それで本人は“考えてます”のつもりらしい」


「怖いよな、ある意味」


 誰かが笑った。


「努力もしないし」


「危機感もない」


「焦ってる素振りすらない」


 言葉が、楽しそうに積み重なっていく。

 反論しないのをいいことに。


「才能がないのは、まあ仕方ない」


 ガルドが、諭すように言った。


「でもさ、才能がないなら、必死になるのが礼儀だろ?」


 胸の奥が、ひやりと冷えた。


「それすらしないってことは……」


 ガルドは首を傾げ、薄く笑う。


「正直、

 仲間だと思われてないって自覚、ある?」


 その場に、誰も反論しなかった。

 誰も止めなかった。


 ――そこで、ようやく声が出た。


「……っ、ふざけるな……!」


 自分でも驚くほど、喉が熱かった。


「俺だって……!

 好きで失敗してきたわけじゃない……!」


 視線が集まる。


「本気出せって言われて、

 その通りにして、

 それで全部うまくいかなかっただけだろ……!」


 一瞬、空気が止まった。


 次の瞬間。


「言い訳すんな」


 ガルドが、吐き捨てるように言った。


「結果がすべてだろ?」


 その一言で、何かが完全に折れた。


「結論だ」


 ガルドは仲間たちを見回す。


「今日で終わりだ。

 ノイル、お前は追放だ」


誰も俺を見なかった。

笑っているやつも、興味なさそうなやつも、

視線だけは、きれいに逸らしていた。わ


 まるで、当然の処理みたいに。


「……ああ、そうだ」


 思い出したように、付け足す。


「装備は全部置いてけ」


 一瞬、意味が分からなかった。


「それ、パーティの共有物だろ?」


 腰の剣。

 防具。

 ポーション。


 どれも、命を預ける装備だ。


「ソロになるんだから必要ないだろ」


 当然の顔で言う。


「どうせ使いこなせないんだし」


「身軽でいいじゃん」


「生き延びられたら、だけど」


 くすっと笑いが漏れた。


 俺は、何も言わず剣を外した。

 床に置くと、金属音がやけに大きく響く。


 防具を外し、

 ポーチを置き、

 空になった腰を見下ろす。


 そのとき、足元に転がっていたものが目に入った。


 倉庫整理用の、ただの木の棒。

 武器としても数えられていない、名前もない棒。


「……それは?」


 誰かが言った。


「薪代わりだろ」


「持ってっていいんじゃね?」


 ガルドは興味なさそうに肩をすくめた。


「好きにしろ。

 どうせ武器にもならん」


――持っていくな。

そう言われている気がして、俺は一瞬だけ手を止めた。


 俺は黙って、その棒を拾った。


 軽い。

 頼りない。

 ささくれだらけ。


 ――なのに。


 握った瞬間、

 重心が、今の俺にちょうど合った。


「……気のせいか」


 そう思うことにして、棒を脇に抱える。


「……これで全部です」


「助かる」


 ガルドは満足そうに頷いた。


「じゃあな、ノイル。

 死ぬなよ。まあ、無理だろうけど」


 笑いが起きた。


 ギルドホールを出ると、外は馬鹿みたいに晴れていた。


 装備はない。

 金もない。

 手にあるのは、名もなき木の棒一本。


「……やっと終わった」


 そのとき、視界の端に、淡い文字が浮かぶ。


《名もなき木の棒》

――評価不能


 ギルドを出て、少し歩いたところで足が止まった。


 頭が、まだ追いついていない。

 怒りも、悔しさも、全部混ざって、胸の奥でぐちゃぐちゃだ。


 ノイルは、手の中の木の棒を見下ろした。


 軽い。

 細い。

 どう見ても、武器じゃない。


「……これで、どうしろってんだ」


 自嘲気味に呟いた、そのときだった。


「おい」


 背後から、低い声。


 振り返ると、男が三人。

 革鎧に短剣。

 冒険者というより、街慣れした追い剥ぎだ。


「さっきギルドから出てきたよな?」


「装備、全部置いてきたみたいじゃん」


 視線が、あからさまに値踏みしている。


 逃げ道は、もう塞がれていた。


 喉が鳴る。


「……悪いが、金はない」


「知ってるよ」


 男の一人が笑った。


「だから、命で払えって話」


 ――終わった。


 そう思った瞬間。


 カチリ。


 小さな音がした。


「……?」


 ノイルは、反射的に視線を落とす。


 手の中の木の棒が――

 ほんのわずかに、短くなっていた。


「……は?」


 持ち替えた覚えはない。

 削った覚えも、もちろんない。


 なのに、

 さっきより、明らかに握りやすい。


「おい、何ボーッとして――」


 男が踏み込んできた。


「待っ――」


 言葉より先に、身体が動いた。


「え、ちょっ……!?」


 自分でも理解できないまま、腕が振られる。


 ガンッ。


 乾いた音。


 次の瞬間、

 男の手から短剣が弾き飛ばされた。


「――っ!?」


 悲鳴より早く、ノイル自身が固まった。


「……今の、俺?」


 頭が真っ白だ。


 でも、棒は――

 ぴたりと、手に収まっている。


 まるで、

 最初からこの長さ、この重心だったかのように。


「な、なんだそれ……!」


 残りの二人が、距離を取る。


「棒だぞ!?

 ただの棒だろ!」


 その言葉に、ノイルも同意しかけた。


 ――その瞬間。


 棒が、しなった。


「……え?」


 直線だったはずの形が、

 叩くのに最適な、緩やかな曲線に変わっている。


「ま、待て待て待て……!」


 理解が追いつかない。


 だが、追い剥ぎは待ってくれなかった。


「やれ!」


 二人が同時に突っ込んでくる。


 次の瞬間――


 ドンッ。


 衝撃が、腕を通して伝わった。


 一人が吹き飛び、壁に叩きつけられる。


 もう一人は、

 棒が一瞬だけ面を持った形になり、

 突進を正面から止められ、そのまま地面に転がった。


 静寂。


 ノイルは、立ち尽くしていた。


 息が荒い。

 心臓が、うるさいほど鳴っている。


「……勝った?」


 声が、震えていた。


 足元には、動かない男たち。


 視線を手元に戻す。


 木の棒は、

 もう元の、頼りない姿に戻っていた。


「……なんだ、今の」


 震える指で、握り直す。


 怖い。

 理解できない。


 でも――


「……生きてる」


 それだけは、はっきりしていた。


 ふと、頭をよぎる。


 ギルドで見た文字。


《名もなき木の棒》

――評価不能


「……そういうことか」


 理解したわけじゃない。

 納得したわけでもない。


 ただ、ひとつだけ確信があった。


「……これ、俺が強いんじゃない」


 ノイルは、棒を見つめる。


「お前が……おかしいんだ」


 返事はない。

 当然だ。


 それでも、手放す気にはなれなかった。


 ノイルは深く息を吐き、歩き出す。


 追放された。

 装備も、仲間も、居場所も失った。


 ――それでも。


「……悪くない」


 少なくとも、

 死なずに済む道は、残っている。


 路地を抜け、ノイルは大通りに戻った。


 さっきの出来事が、まだ現実感を伴っていない。

 棒を握る手だけが、じんと熱を持っている。


 ――そのとき。


「……ノイル?」


 聞き覚えのある声がした。


 振り返ると、そこにいた。


 ガルド。

 そして、元パーティの面々。


 全員、装備は整っている。

 数もいる。

 ついさっきまでの自分なら、目を逸らしていた光景だ。


「生きてたのか」


 ガルドは、少し驚いた顔をしたあと、すぐに笑った。


「まあ、運が良かったんだろうな」


 仲間の一人が、くすっと笑う。


「その棒で?」


「冗談だろ」


 視線が、ノイルの手元に集まる。


 木の棒。

 相変わらず、頼りない見た目。


「忠告してやる」


 ガルドが、腕を組んで言った。


「今なら、まだ引き返せる」


「ソロでやっていくには、お前は――」


 その言葉は、最後まで続かなかった。


 カチリ。


 ノイルの手の中で、棒が音を立てた。


「……?」


 ガルドが、眉をひそめる。


 ノイルは、自分の手元を見ていた。


「……またか」


 理解しているわけじゃない。

 でも、さっきと同じ感覚だ。


 棒が、わずかに伸びた。


 剣よりも短い。

 だが、明らかに――武器の形。


「なに、やって――」


 ガルドが剣に手をかける。


 その瞬間。


 ノイルの身体が、前に出た。


「っ!?」


 ガルドの剣が、途中で止まる。


 正確には――

 弾かれていた。


 木の棒が、刃の根元を打っている。


 次の瞬間、剣が地面に転がった。


 静寂。


「……は?」


 ガルドが、自分の手を見る。


「な、なにをした……?」


 ノイルは答えなかった。


 答えられなかった。


 自分でも、よく分かっていない。


 ただ、棒が――

 今の距離に、今の相手に、最適だった。


「ま、まぐれだ!」


 ガルドが声を荒げる。


「数が違う!

 お前一人で――」


 言い終わる前に、

 後ろで仲間の一人が倒れた。


「――え?」


 別の仲間が、動こうとして、止まる。


 足元を見て、顔色が変わった。


 棒が、一瞬だけ分かれ、道を塞いでいた。


 逃げ道が、ない。


「な、なんだよ……これ……」


 誰かが、声を震わせる。


 ノイルは、息を整えながら立っていた。


 煽る気はない。

 勝ち誇る気もない。


 ただ――


「……さっき言ったよな」


 初めて、口を開いた。


「俺は、役立たずだって」


 ガルドの喉が、ひくりと動く。


「……違う」


 ノイルは、首を振った。


「数に入ってなかっただけだ」


 それだけ言って、棒を下ろす。


 形は、もう元に戻っていた。


 ただの木の棒。


 だが、誰も笑わなかった。


「……ノイル」


 ガルドが、震える声で言う。


「話が……」


「もう、いい」


 ノイルは、背を向けた。


 足音が、背後から消えていく。


 誰も、追ってこなかった。


 ――数が、足りなかった。


 ノイルは、大通りを歩きながら、手の中の棒を見る。


「……最強、か」


 タイトルみたいな言葉が、頭をよぎる。


 まだ、実感はない。


 でも。


 追放された俺は、もう弱くはなかった。


続きが気になったら良ければブックマークでも…!

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