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三題噺もどき5

土曜休み

作者: 狐彪

三題噺もどき―はっぴゃくはち。

 




 玄関を開けると、柔らかな風が吹いていた。

 春風と見紛うようなそんな温かさを含んだ風。

 雲ひとつない空もあいまって、思わず春が来たのかと。

「……さむ」

 まぁ、そんな訳もなく。

 柔らかな風に混じる冷たい冬風に、一気に現実に戻される。

 日が照っているから、あまり防寒具を着こむと暑くなりそうではあるが。

 いい加減、昼間だけやけに気温が上がるのを辞めて欲しい。

「……」

 耳元では、イヤホンからお気に入りのプレイリストが流れている。

 片方しかつけていないので、少々外の音が邪魔でよく聞こえなかったりするが……あまり音量を上げて何かあっては困るからな。

「……」

 首に巻いた薄めのマフラーを、鼻先まで覆えるように調整する。

 肩にかけていた斜め掛けの鞄が後ろに行っていたので、それを前に持ってくる。

 手袋は自転車を漕いでいると、熱くなる上に手がかゆくなるのでしていない。

「……」

 屋根もカバーも何もない、野ざらしにされた私の愛用の自転車の元へと向かう。

 愛用なんて言うが、特に愛着は持っていない。ただの通学用の自転車でしかないし、そこら辺にあるママチャリと同じだ。

「……、」

 中学の頃から使っているので、少し硬くなったロックに苦戦する。少々コツがいるのだ……よし。ロックを外し、スタンドを上げる。

 ……毎度思うが、よくこんな野ざらし状態で、4年も保つものだ。

 タイヤがパンクした時はその手の店に持って行ったことがあるが、それ以外は特にメンテナンスのようなものはしていない。たまに空気を入れるくらい。

「……」

 特にブレーキの効きが悪いなんてこともないし、ライトも手動ではあるが問題はない。

 ……なんで手動かって、安い自転車を買った結果でしかないが。もっといいのがあるだろうと思うが、まぁ、我が家はそんなに余裕があるわけではない。らしい。妹はいいものを買ってるけど、アイツは変なこだわりがあるからどうせ駄々をこねたのだろう。

「……」

 駐輪場から抜け出し、自転車にまたぎながら、鞄を再度持ち直す。

 ちなみに。

 こうして通学用の自転車に乗っているが、別に今日は学校に行くわけではない。

 そもそも制服でもない。適当に見繕った冬用のズボンとパーカーを着ている。

 ……いつもなら、土曜授業があるのだが、今日は、先輩方にとっては大切な日だからな。

 今日明日、二日間かけて、共通テストというモノがあるのだと。

「……」

 来年の今頃には、私も受けているのだろうか。まぁ、我が校は推薦で受かっていようとなんだろうと、強制的に全員参加だからな。就職組は違うが、そもそも就職をする人は学年に1人か2人しかいない。……共通テストもタダではないのに。

「……」

 まぁ、そんな先輩がたの今後を左右するような大事な日に、何をしているのかというと。

 家に誰もいないし、宿題はある程度終わってしまったし。

 特にすることもないので、たまには出かけてみようかと、外に出た次第だ。

 大抵は家の中でゴロゴロしているのだけど、今日はなんとなく外に出たい気分だった。それだけだ。

「……」

 それに、比較的天気もいいし、筆箱の中身を整理したところ、消しゴムがなくなりそうだったので、それをついでに百円ショップにでも買いに行こうかと思いたった。

 明日でもいいのだけど、明日はどこに買い物に行くかも分からないし、いつ行くかも分からない。日曜日は母も休みなので、少し遠くまで行くかもしれないし。

「……」

 もっと、私が幼い頃や妹も幼かった頃は、家族で遊園地にいったり、公園に行ったりしていたのだけど。

 もうそんな歳でもないし、妹は2人とも部活で忙しい。土曜日は私も午前中は授業が入ったりするし、母も仕事の時はあるし。

「……」

 この、土曜日が休みというのは、なんとも言えない気分になる。

 昨日まで、毎日のようにあっていた人とぱたりと、会えなくなる。

 2日待てば会えるけれど、その2日がやけに長く感じる。

「……」

 あの子と話している時間がとても楽しい。

 あの子と並んでいる時間がとても愛おしい。

 あの子の呼ぶ声が、今すぐにでも聴きたい。

「……」

 きっと、気のせいだろうけど。

 ただの気の迷いだ。

「……」

 それを紛らわせるように。

 自転車のペダルを踏みこんだ。











 お題:春風・消しゴム・遊園地

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