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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

鬼人

作者: 足利尊家

色んな話を書いていて、箸休めみたいな感じで書きました。

プロレスや格闘技が好きで、怖い話系まとめサイトが好きな人向けですw

 「おい雷、また変なサイト見てるのか」

巡業に行くバスの中で、イヤフォンを付けて動画サイトを見ていた雷は、前の席の先輩レスラーから声をかけられた。

 大崎雷はプロレスリング・アークの新人レスラーで、高校卒業後に一年の練習生の生活を終えて、先日初試合を終えたばかりのジュニア選手だ、高校時代はアマレス・グレコローマンスタイルでインターハイベスト4の実績がある。

 恵まれた体格で、そのまま大学に進学すればオリンピックの強化選手に選ばれていた位の選手だった。

だが雷は子供の頃からの憧れのレスラーがいる『アーク』のドアを叩いたのだった。

 メインイベントに出る様なスターレスラー達は、別の車に乗っているので、このバスは中堅以下や新人、研修生などが乗っている。栃木での興行を終えて、次の興行地の仙台に向け移動中だった。

「お前、移動中のバスは先輩達の技や技術を勉強する良い機会だって教えただろう、みんな試合の録画や格闘技の動画見てるんだ」

「オス、すみません」

 雷は最近流行りの動画で配信している自団体や他の団体の先輩レスラー達が苦手だった、基本的に彼らは陽キャと言われる人種で、雷とは正反対のタイプだ、動画で披露される技も派手で見栄えのする物が多く、雷は参考にしようとも思わない物ばかりだった。

 雷は人付き合いが基本的に嫌いだった、中学、高校とスポーツ系陰キャとしてクラスは浮いた存在で

体格とレスリング部に所属しているのでイジメの対象になった事はなかったが、クラスメイト、特に女子からは無視をされる存在だった、だから雷は中高とひたすらトレーニングに励んでいた。

 そんな雷の唯一の趣味は動画サイトの『怖い系』『怪談』『ホラー系』の動画を見る事だった。

だが、そんな雷の理屈は体育会全開の先輩達には通用する訳も無く、最近流行りの他の武術や武道とのコラボ動画に強制的に変えられてしまった。

 せっかくマネジメントの方で将来有望な若手として売り出そうとしても、地味な技しか使わない雷は人気が出るわけも無く、同期の大学プロレス研究会上がりの選手からは既に差をつけられている雷の事を考えての事で、この先輩は雷を可愛がってくれていて

「お前、基礎体力も技も全てあいつに勝っているのに、何がダメか良く考えろ」

と常々言っていた、これもその指導の一貫なんだろうが、雷はせっかくのプライベートな時間を邪魔するありがた迷惑な行為だと思ってしまう。

 まぁ仕方が無いので、先輩お薦めの動画を一本見て、またさっきの続きを見始める。

動画は、女子校生と言う設定の主人公が、夢の中で悪霊だか魔物に襲われて、自宅のマンションや学校の校舎をひたすら逃げると言う話で、さらにこの夢の話をした友人の同級生も同じ夢を見始めて、夢の中で何度も恐怖体験をして殺されると言う話だった、そして最後に、友人が夢の話をSNSで拡散した結果、

SNSを見た人達も夢で同じ経験をする事になり、主人公だけは、被害者が増えた事悪霊から逃げられて

夢を見なくなったと言う話だった。

「うーん、あまり怖く無かったな、あ、これそのSNSのリンクなんだ、本当にあった話しかな? まぁ暇人が作った創作のページだろうな」

そう思って、雷はそのページをクリック、一通り読んで、時計を見ると、まだ到着まで一時間以上あるので、仮眠を取ろうと目を閉じた。

『何処だここは、俺の部屋?』

 目が覚めると雷は寮の自分の部屋に居た

『なんだ、巡業バスに乗っていたはずだが』

 そう思って部屋から外に出るが、寮の中には誰も居ないし、ジムに降りても誰も居ない、無人の練習用のリングがそこにあるだけだ。

「フギャー」

何処からか人なのか猫なのかわからない様な悲鳴が聞こえる。

雷が外に出ると、ジムの前の通りを一人学生風の男が走って何かから逃げて行く姿が見える。

『なんだ、一体?』

そう思って男と反対側を見ると、それが居た……ボロボロの服を着た女?に見えるが、目が無い、

目のあるべき所にはただの黒い穴が空いている、口は昔の『口裂け女』の様に大きく裂けて牙が生えている、さらに手の爪はまるでナイフの様に鋭く尖っている。

『これってアレか?なんだ夢か』

 雷はバスの中で見た動画とその後読んだSNSの事を思い出した、そしてそんな動画を見た後に寝たので変な夢を見ていると認識できた。

「痛テェ!!」

 考え事をしながら立っていた雷の横にはアレが居て、その爪が深々と雷の腹部に突き刺さっている。

血が流れて、雷は悲鳴をあげながらその場に蹲り、やがて意識を失い……

「おい、大丈夫か、おい!」

先輩に頬を叩かれていた。

「なんだ、お前変な夢でも見たのか、すごい大声で叫んでいたぞ、妙な動画ばかり見てるからだ」

と言われて、腹を触って見ると……傷は無いが先ほどの痛みはまだはっきりと記憶に残っている。

「すみません、いや、痛い技をかけられた夢を見て」

と先輩には言って誤魔化した。

 

 動画の中では、この悪夢は何週間かに一度見るだけと言う話だったが、雷は何故かそれから毎晩見る様になってしまう、ある時は何人かと一緒に逃げて、最後に殺され、ある時は一人で逃げて殺される。

 そして数日した夜に、雷は『夢魔』の腕を掴める事に気が付いた、正面から胸を貫かれた時に、反射的に反応して掴んでいたのだ、だがその時は既に手遅れで、雷はまた殺されてしまい、夜中に汗をびっしょりとかいて目を覚ます事になった。

「おい、お前最近変だぞ、スランプか?」

 昼間のトレーニングとスパーリングの時に先輩から声をかけられた。

「すみません、ちょっと寝付きが悪くて」

自分でも明らかに体調が良く無いのがわかって居る、悪夢のせいで睡眠が浅く、疲労が取れていないせいだと思う。

『腕が掴めると言う事は、こちらから攻撃できるのでは?、投げられるかな?』

先輩とスパーリングをしながらそんな事を考えていた。

 アマチュアレスリングではそこそこ強かった雷だし、入門してからも投げ技を得意としている、今夜はそれを試してやると雷は心に決めて、ベッドに入った。


 今夜もいつもと同じ様に夢の中で自室で目覚めると、外で悲鳴が聞こえる。

トレーニングウェアに着替えて靴を履き、階段を降りて街に出ると、今夜は三人ほどが夢魔に追われて

その内一人は既に、腕を切り落とされて、腹部を貫かれている所だった。

「おい、お前!!」

 雷は初めて、正面から夢魔に立ち向かう。夢魔がニヤリと笑った様な気がしたが、それは気のせいかもしれない、そして長い爪の生えた手を手刀の様な形にして切り掛かってくる。

「なんだ、遅いじゃないか」

打撃系のチョップ技を得意とする先輩レスラーの方がスピードがある、プロレスでは相手の技を敢えて受けるのがお約束だが、これは試合では無い、雷は一度その手刀を避けると、腕を掴んで巻き込み、一本背負いで投げてみる、アマチュアレスリングの試合ならこれで3ポイント確保だ。

 だが夢魔は道路に投げつけられても痛みは感じ無い様で、フラフラと立ち上がりまた攻撃をしてくる。

もう一度相手の右手を掴んで、再度一本背負い、試合ならこれで6点、雷の勝ちだが、そんな事にはならなく、三回目、しかし今度は右手を掴んだ時に左手で顔を攻撃されて、怯んだ隙にまた腹を貫かれてしまった。

 死んで目が覚めたが戦った事で今までの様な目覚めの恐怖や不快感が無くむしろ

「くそ、次は勝つ!」

と闘志が湧いてきた。

 翌日のトレーニングで先輩に頼み込んで打撃に対する投げ技のスパーリングを徹底的にした。

「お前の投げ技は全部アマレスの技だ、そんなんじゃ上にはいけないぞ」

と先輩には、応用技のリストハンドスローやパワーボムなどの技を教わった。

「急にやる気になったのは良いけど、誰と戦う予想してるんだ、打撃系の新人なんていたか?」

と先輩には不思議がられたが。

 そして、その夜も同じ様に得意の投げを中心として夢魔に対抗する、昼間教わったばかりのパワーボムは多少有効の様だが、まだまだダメで、結局地面に叩きつけた後に、ありえない角度から起き上がられて

また腹を貫かれて死亡。

 こんな事を一週間ずっと繰り返しているうちに、周囲の雷への評価が変わってきた

「あいつ、妙に真剣なんだよな」

「ああ、本気で殺しに来てるみたいだ」

「なんか、顔付きも少しヤバく無いか?」

と言う感じだ。


 新人戦の試合の興行が始まり

雷は一回戦で、苦手としていた例の大学プロレス研究会の同期を破り二回戦進出を決めた。

 決め技は夢魔に対しても少し効果のあったパワーボムを更に強力にした通称『タイガー・ドライバー』

と言う技で、ただ雷は本来ならそのままフォールをする所に、もう一発オマケのエルボー・ドロップを落としてからフォールと言う事で、新人の仲間達からは

「うわ、えげつねぇ」

「あれ、反則ギリギリだろ」

と非難されたが

「おう、今日の試合は良かったぞ、やっと一皮剥けたな」

と先輩に褒められた、だが同期には勝ててもまだ夢魔には勝てていないのが不満だった。


「おい、雷、お前明日暇だろ、俺に付き合え」

 突然そう雷に言って来たのは『アーク』のエースでヘビー級王座の『拳聖』と言うリングネームの大先輩だ、日本拳法の出身で打撃系の技、蹴り技を得意としているが、投げ技や締め技も豊富で、動画サイトでは『拳聖チャンネル』としてプロレスだけでは無く様々な格闘技の達人達とのコラボも行って人気になっている。

 当然だが大先輩に付き合えと言われて、断るなんて自由は雷には無い。

とりあえず夜は夢魔と戦う事で、相変わらず勝てないが、逆に良く眠れる様になり、実はかなり練習になって居るのではと最近思う雷だった。

 翌日の拳聖の用事はやはり動画の関係で、良くコラボしている相手の合気道の達人『黒川師範』との撮影だった。要は投げられ役をやれと言う事だ。

 雷も含めてレスラー達は合気道を馬鹿にしている者が多いし、柔道ダンスとか公言している者も居る。

ただこの師範の技は本当に痛いらしく、何度も投げられた少し上の先輩がブチギレて、それまでのベビーフェイススタイルのレスラーからヒールターンしていきなり悪役になったきっかけになったと言われている。

 黒川師範は体格でも体重でも雷より二回りは小柄だ、だから

「僕は絶対投げられません」

宣言からの、合気道技をかけられて

『あ、これは投げられないとヤバい奴だ』

と判断して自分から飛んで行く=投げられる、そして痛がると言うのがお約束なのだが、この師範の技はインチキでは無く本当に危ないと雷は直ぐに理解した。

 力ませかせに跳ね返そうにもその隙も余裕も全く無く、本当に自分から転がるしか逃げ道が無い。

そして、今日のメインの技はそんな黒川師範が披露する柔道の幻の技と言われる『空気投げ』の合気道版『呼吸投げ』だった。

 何回か投げられた後で、合気道の基礎中の基礎を教わり、自分でも投げられる様になって、雷は本心から黒川師範に師事をしたいと思った。

 そしてオマケとして

「じゃ、雷くん黒川師範の必殺技をプロレスラーらしく受けてみる?」

と言われて、これも断れる筈は無く受ける事に

 どんな合気道の技なんだろうと身構えていたら、なんと『フランケンシュタイナー』からの『ドロップキック』と言う完璧なプロレス技を喰らって、しかも自分より遥かに軽量な師範の技なのに本当に効いている事に驚愕した。

 その場で、「先生是非、またご指導をお願いいたします」

「いつでも道場に顔を出してくれれば」

と言われて、出稽古に向かう決心をした雷だった、ちなみに大先輩の『拳聖』さんの必殺技『拳聖スペシャル』を考えたのもこの師範だと言われている。 

 その夜、雷は夢魔を相手に覚えたばかりの呼吸投げの実験をして、何回か失敗して、腕や胴に傷をおったあとで、見事に右腕を折る事に成功した、これは夢魔が自分から飛んで受け身を取ると言う動きを知らない為だ。ただ残念な事に右腕では成功したが、左腕側で失敗してまた殺される事になる。


 先日の撮影以来、拳聖さんには気に入られて様で、雷は自分の下手な打撃系、特に蹴りを教えてもらえる事になり、これも基礎からみっちりと仕込まれる。

 こうして、ジムや道場で練習、夜に夢の中で実践と言う妙なトレーニング方式のおかげか、雷はどんどん実力を上げて、なんと新人戦で優勝する事ができた。

  

 そして、夢魔との対戦も、ラリアットで道路に倒して起き上がる所をドロップキック、そしてふらついた所に助走をつけてフライングクロスチョップの連族攻撃をして、マウントポジションから、パンチと言う所で、夢魔も一応女性と言う事を思い出して、平手で夢魔の顔を連続ビンタした。

「ギヤぇー」

と悲鳴とも叫びとも思えぬ声をあげて夢魔は消滅した。

『ウッシャー、勝った!!」

雷は勝利の雄叫びをあげて……

 隣の部屋の一年先輩に

「煩いぞ、馬鹿野郎」

と怒鳴られて目を覚ました。

 そしてそれ以来、夢魔が雷の夢に出てくる事は無くなった。

雷はジムの近所にある寺に行き、住職に相談すると、住職は

「まぁ良くはわかりませんが、その悪鬼夢魔とやらはあなたと戦って負けた事で成仏したのかもしれませんな、取り敢えず経を上げて弔いましょう」

と言う事で、雷は住職と一緒に夢魔の成仏を祈り、ついでに寺にお布施をして帰ってきた。


 数日後、いつもの様に朝ジムに行くと、何やら先輩達からミーティングルームに呼ばれて、次の興行でセミファイナルにヒールとしてタッグで出ろと言う事だった。

 最近の雷の試合運びからヒールの方がキャラに合っていると言う判断で、しかも相方は何度もタッグ王者に輝いている、ヒールのベテラン選手だ。これは新人としては大抜擢と言う事になる。

「頑張れよ、お前なら出来る、それとなんかリングネーム考えておけ、衣装とかもな」

と言われて、雷は数日悩んだ末に『鬼人・雷』と名乗る事にした、更に顔に目の周りを黒く隈取をして、口に裂けた様なメイクをしてあえてボロボロの灰褐色のガウンを選んで『夢魔』を再現してみた。

 その姿を見た『拳聖』以下の大先輩達は

「おう、良いじゃないか不気味な感じが今のお前に合っている」

と褒めてくれた。

 ここに悪役レスラー『鬼人・雷』が誕生したのだった。

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