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「1」パペラットの上の神様

この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

及び、この作品は自殺などを推奨する作品ではありません

「お前はなんでこんなこともできねぇんだよ!」

部署内に怒号が響き渡る

今、俺は上司に怒鳴られている

出社したばっかりなのに

部長は書類を俺の腹辺りに叩きつける

そして書類はバラバラに地面に落ちる

「お前の代、お前以外はぜーーいん昇進!お前だけ!だけ!残ってるのお前だけ!お前の後輩だってお前より随分優秀!何やってんだよお前は」

最初は怯えていたが、あまりに怒鳴られすぎているのでもう慣れたものだ

部署内のみんなも、もう誰も気にしていない

慣れたと言っても、嫌ではないわけではないが

「おいてめ聞いてんのか!?」

部長は机を殴る

上においてあるコーヒーが倒れた

「はい、本当に申し訳ございません」

俺は深々と頭を下げる

が、次に来る言葉はもう知っている

謝って――

「謝って済む問題じゃねぇんだよ!!」

...知ってた


そもそもこいつが全部悪いのだ

プレゼン用の資料を作るのに必要な時間は、優秀な者だろうと1日で終わることはあまりない

普通2日ほどくらいだろうか

俺に任された資料作成は社内報告用などのパパっと作って良いものではなく、外部向けや投資家向けのプレゼン資料だ

それだったら3日かかったって正当だろう

そして、俺に任された仕事は、プレゼン用資料作成6種

3週間ほどあれば終わるが、期限は1週間

俺は2種しか終わっていない

何も、正当だ

しかもこの資料を発表するのはこいつ、部長だ

だったら自分でやれば良いものを、全部俺に任せてくる

そのくせできなかったら怒鳴る、もともとはこいつの仕事のくせに

無理に全部終わらせたら「汚い」「なんでこんなゴミしか作れないんだ」「お前もう新人じゃねぇんだよ」

だからといって時間をかければ「遅い」「なんでこんな仕事も終わらせられないんだ」「お前もう新人じゃねぇんだよ」

”理不尽”という言葉はこのためにあるんだな

説教が終わり、俺はデスクに戻り、終わりもしない仕事を進める

もう誰も、俺のことを気にかけてはくれない

望んでもいないが



昼休み、俺は決心した

死のう

色んな手を尽くした

警察に通報した

してもアイツのコネでもみ消され、責任はすべて俺に擦り付けられた

仕事を飛ぼうと思った

アイツは住所も電話番号も知ってるし、家にも来やがった

引っ越そうと思った

アイツのせいで俺の給料下げられて引っ越す金など無い

只管に仕事をしてきたから友達なんて居ない

アイツのせいで後輩からも同僚からも先輩からも相手にしてもらえない

生活保護は相手にしてもらえない

生活保護の制度は”最期のセーフティネット”として機能するのだ

だから他で対処可能と判断されれば追い返される

消費者金融は俺は過去に返済滞納歴があるし収入も少ないから相手にしてもらえない


俺は今、屋上にいる

冷たい風が吹く

うちの会社は10階建て

十分死ねる高さだろう

下には人や車が通っている、随分と小さいな

...当たり前か

家族はもう居ない

寿命や事故だ

誰にも相談できず、一人孤独に死ぬのか

まぁ死んだあとは色んな人に知ってもらえるかな


《でも俺が死んだら部長のいじめの矛先が後輩に向くのかな》


はぁ、この際そんなことどうでもいいか

どうせ俺が死んだあとの話だ

どうせ誰も俺のことなんて必要としていないんだ

そして俺は今パペラットの上に立っている

陸屋根の外周にある立ち上がりの小さい壁だ

ちょっと傾いたら、もう落ちて死ぬんだな



そんな事を考えていると、突然――

「――不純だな」

隣から声が聞こえる

視線を横に向けるとそこには子供が座っていた

俺と同じ、パペラットの上に、足を外にむけて

今の今まで気づいていなかった

そのことに動揺して俺はバランスを崩し、咄嗟に内側に倒れ込む

「ちょっ、君危ないじゃないか!なんでそんなところに座ってるんだ」

俺の言えたことではないが

が、この子もバランスを崩せば地面に真っ逆さまだ

「だーかーらー、不純だ」

「な、何がだよ」

なんとなく、凄い気がした

語彙が足りないのか?いや、形容し難いのだ

そしてその子は内側に向き直り、パペラットに座る

俺はその子に言う

「そ、そもそも、君は誰なんだ。社員以外はそもそも入れないはずだぞ」

「まぁまぁ、命を捨てようとしているものに比べりゃ小さいことではないか。誰とは言わないけど」

そしてその子は立ち上がり、俺の方に向き直る

この子は男子だろうか、女子だろうか

女子っぽく見えるが、顔の整った男子にも見える

年齢は10代前半だろうか

髪は伸びており背中まである

そして綺麗な白色だ

純白とでも言えそうなくらいに綺麗な色である

背丈や顔、声も相まって、随分と若い印象を受ける

若いというか、幼いだろうか


そしてその子は俺に言う

「お前...いや高橋悟。お前はとても悩んでいるようだが、どうしたんだ?」

俺は動揺する

「は?な、なんで俺の名前を...?いや、そんなことどうでもいい、お前には関係のないことだ、ほっといてくれ」

「ほっといてくれ?w」

その子は笑いながら言った

嘲笑を孕んだ、乾いた笑い方だった

「お前は人にそれを望むのか?今までお前ができていなかったのに」

...何を言っているんだ?どういうことだ?

「簡単さ、周りをほっとけなかった」

俺の心の中を読んだかのように、軽々と答えた

「...は?」

「他人からの評価?後輩からの尊敬?同僚からの圧力?先輩からの期待?上司からの強要?」

な、何なんだこの子は

「そんなの全部ほっとけよ」

「いや、そんな、だって――」

反論をする前に、その子は屋上の端に向かって走り出した

「お、おい!と、止まれ!」

すると、その子は止まって、また俺の方に歩いてきながら言った

「ほら、ほっとけてないじゃん。関係ないんだったら、僕が死んだって良いでしょ?」

「そ、それとこれではわけが違うだろ!」

「そうかな」

その子は地面に座る

俺もつられて座り込んだ

そしてその子は俺に問う

「そもそもお前は本当に手を尽くしたか?」

「あぁ、できることは全部やった」

そんなの当たり前じゃないか

それくらいの覚悟で、俺は死のうと思ったのだから

「そうか、引っ越しして仕事飛べば?」

「そんなの金無いから無理だ」

「金?そんなものいらないだろ」

「何いってんだお前」

「歩けよ」

本当に何を言っているんだ

「あのなぁ、歩いたとしても止まる場所が―」

「―野宿すればいいじゃないか」

だめだなこの子

まるで社会をわかっていない

そして俺はこの子に教えてあげることにした

「いいか?そりゃ死なないで苦しみながら行きていく選択してももちろんある。俺はそれを批判する気はない。だが俺はその選択肢を選ぶ気はない。そもそも 『死ぬ』というのは人間において必ずしも一番最悪の選択してはない」

するとそこのは首を傾げる

「え?いやぁ、死んだらそこで終わりじゃないか」

「あぁそうだな。だが逆を言えば死ねばすべて終わる。この地獄のような毎日も」

「そんなに辛いのか?」

「あぁ辛い。だが死なずに汚く生きるほうが俺にとってはよっぽど辛い」

「そうか........」

その子は俯く

俺は焦って急いでカバーする

「あぁ、別に怒ってるわけじゃないんだぞ?まぁでも、なんだろうな、選択肢ってのは、色々あるんだよ」

するとその子は俯きながら言う

「別に構わない。だが、お前は本当にそれで良いのか?」

「”それ”っていうのは、死ぬことか?」

「まぁ、そうだ」

「それに関してはもう俺は決めていることだ、後悔はない」

「お前を必要としている人間はいないのか?」

「居ないだろうな、こんな俺に」

だが予想外の言葉が帰ってきた

「そんなこと無いと思うぞ」

「いやぁ、じゃあ誰が俺のことを必要としてるんだよ」

「あぁ、社会」

「社会?」

そこからその子は空を見上げながら言った

「小さく言えば会社。お前は確かに仕事ができないかも知れないが結局貢献しているだろ?そもそもお前の仕事ができない理由は元が高いからであって、他人よりやる量は随分多いはずだ」

まぁ、確かに、俺は普通の仕事量の倍くらいはこなしているだろう

「その時点で、お前を必要としていない人間はお前の部署?の部長であって、それ以外の人間は、たしかにお前のことを必要とは思っていないかも知れないが、必要じゃないとは思っていないだろう。まぁ要するにだな」

そして俺の目の前に人差し指を立て、顔を近づけてくる

「自己満だ」

「え?」

「自己満足」

「あぁそれはわかってるけど、え?」

そしてその子は腕をおろし、俺の方を向いたまま言う

「いいか?お前が死ぬのは構わない。けどな、お前がこの社会から、世界から居なくなることで、少なからずこの世界には損失が生じる。お前のせいで」

「そ、そんなこ言いったって、俺は辛いんだ、恐らくお前が思っている以上に」

「そうかもな、僕が思っている以上にお前は辛いかも知れない。だけど、世界はそんなこと気にしていないぞ」

その子は座り直す

「お前はな、自分の近い場所しか見えていないのだ。まぁ、お前というか、人間と言うか。その周りは自分が居たり居なくなったりすることの損失を考えてばっかり。お前の本当のクライアントは誰だ?社会だ、世界だ。どうして人間はそう、近くのことしか見れないんだろうな。のくせして一番近い自分の気持ちは無視するくせにさ」

俺はまた俯く

そして答える

「お前の言ってることは正しいと思う。けどな、人間は不器用な存在だ。だから社会があるんだろ?そんで、認めるよ。俺は自己中で自己満だ。それで構わない。構わないから早く楽になりたい。少なからず影響があるとって言ったな。そのとおり。お魔の話を聞いて、俺がそこまで邪魔な存在じゃないことにも気づけた」

俺は顔を上げ、その子の方を向く

「けど、今更だ。俺の傷ついた心はそう簡単には戻らない。まぁ、ちょっと俺は話すのが苦手だから、よくわからない話になってるかも知れないが、とにかく俺はもう死ぬ。それは決めたことさ。お前になんて言われようと、辞める気はない」

するとその子はまた首を傾げて言った

「ん?なんか勘違いしてないか?」

「なにがだよ」

「別に僕お前の自殺を止めようだなんて思ってないぞ」

...?

「え、そうなのか?」

「まったく、何を勘違いしてるんだか」

自殺しようとしている人間に話をして、止める気はないって、え、じゃあ―

「―じゃあ、お前は何をしに来たんだよ」

するとその子はちょっと怒った口調で

「だーかーらー、最初に言ったでしょ?不純だって」

「不純?」

まぁたしかにそういうことを言っていたが、状況が状況なので全然来てなかった

「え、なにが?」

「お前の心。周りのことが全然わかってないじゃないか。そんなんで死んだところでお前は楽になるか?納得するか?そういう話をしてるんだ。お前の周りの人間がお前を必要としていなくとも、同じ部署の人間が死んだ、そういう事実だけで精神衛生上良くない。お前が飛び降りて死んだら、ここの交通も鈍るし、処理だって労力が必要だ。お前が”死ぬ”って軽々しく言ってるけどな、それには周りにいっぱい迷惑をかけてるんだぞって、そういう話をしてるんだ」

「なるほど...はぁ...」

「だけどな、死ぬことおためらう必要はないぞ」

「それは、どういう?」

そして、その子は立ち上がる

「お前が僕の話を聞いて、周りのことしっかり見て、その上で死ぬのを辞めるなら、色々と手伝うさ。僕の話を聞いたうえで、それでも死にたいなら死ねばいいさ。僕はお前の意志を尊重する。最終決定権はお前にあるから、僕がケチを付ける権利はないさ」


俺は座ったままその子を見上げ、問う

「なぁ」

「なんだ?」

「本当に俺を止める気はなかったのか?」

その子はきっぱりと断る

「あるわけないじゃないか僕はお前と今日初めて会った。何の感情も抱いていない」

「そうか...」

不純だ、とは言っていたが、少々どういうことか理解できないな

そして俺はふと思い出したように訊く

「ところで、お前、名前は何だ?」

「名前?無いよそんなもの。だって信仰されてないから」

「信仰?お前は神か何かかよ」

俺は冗談めかして笑いながら言い、前を向く

「御名答」

....

その子に俺は向き直る

「え?」

「僕は神だよ。最も、君みたいに誰からも必要とされてないかも知れないけどね」

そうか、そういうことか

この子が言っていたとおりだ

他人のことはよく見えているからアドバイスができる

でも自分自身にアドバイスするのは難しいことだ

自分のことを客観的に見るのは、難しいから

この子がそれを体現してくれた

「大丈夫だ、君は必要とされてるよ。少なからず俺から」

「そうか?必要とされるようなことしたっけな。まぁいいさ、死にゆく人間に信仰されたところでねぇ」

俺は神様を見上げている

最初に見た時、とは言ってもほんのさっきのようだが、随分と大人びて見えた

俺なんかより、ずっと


そんな事を考えていると、思い出したようにその子は、神様は言った

「ところで、死なないのか?」

俺は自信を持って答えた

「死ぬよ。でもその前に礼を言わせてくれ」

その子は首を傾げる

よく傾げる神様だな

「礼?されるようなことはしてないが」

「いや、させてくれ。俺も、何に対してかよくわからないが、ありがとう」 「えぇ、まぁ、どういたしまして」

その神様は、ちょっと照れているように見えた



そして俺は、再びパペラットに立つ

下を見下ろす

「なぁ」

「ん?」

俺は深呼吸をする

「最後に言わせてくれ」

「なんだ?」

俺は気持ちを整理する

「ありがとう、神様。お陰で、いい人生になったよ。良いことなんてなかったけど、今は自由に話せたし、本音も話せた。話してもらえた。いい人生だ。恵まれている。別れの言葉は、さみしいから言わないし、言わないでくれ。もう一度。ありがとう、神様」

そして神様は俺の後ろに立ち、言う

「純真だ。悟」

俺は名前を呼ばれて嬉しかった

最期に名前を呼ばれるのが神様、か

本当に、いい人生だった

すると、神様は俺の背中に手を当てる

「じゃあ、僕からもひとつ言わせてもらおうかな」

「...なんだ?」

「もうすぐ死ぬかも知れないが、僕のことを信仰してくれてありがとう。だけど言わせてもらおう。僕は死ぬことを推奨はできない。無論、お前がそれを選ぶならその意を尊敬する」

そして神様は俺の横に立ち、肩に手を置く

「おっと、お前身長高いな......とにかく、死ぬなら死ねば良いさ。お前の心は今、純真だ。今なら死んでも良いぞ。快く、ね」

そして神様は俺の背中を叩いた

そして神様はパペラットから降りた

そして後ろに進む足音が聞こえる

そして、声が聞こえた

「僕は名も無き神、君の死を見届けるとしようか」

「ふっ、変な神もいるもんだな」




俺はビルから、身をあずけるように落ちた

人生で一番、幸せな時間だった

ありがとう、神様

名も無き、神様

神様は人間を救済する存在として信仰されている

が、私はそうは思わない

神などという不明瞭な存在にすがるは構わないが、神は必ずしも人間に有利に働くとは限らない

神を題材にして物語を書いている私が言えたことではないが


この作品は真面目に書いてないので真面目に受け取らないでくださいね

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