最終章 新しい物語と影の語り部
数年後。
奇跡が起きた。
ヴェルナ様が目を覚ましたのだ。
医者たちは唖然としたが、彼女はこう言った。
「私は死ぬわけにはいかなかった。まだ、誰かに伝えたいことがあったから」
その後、回復した彼女は私の書いた記録を読んだ。
「……あなたは私の声になってくれたのね」
「いいえ、お嬢様。私はただ、お嬢様の声を拾っただけです」
彼女は久しぶりに笑う。
悲しみのない、本物の笑みだった。
ヴェルナ様は屋敷を出て、小さな村で暮らすことにした。
名前を変え、花を育て、子どもたちに読み聞かせをする毎日。
「おばあちゃん、昔お姫様だったの?」
そう尋ねる子どもに、彼女は微笑んでこう答えた。
「いいえ。ただの一人の女の子だったわ。でも誰かが私の物語を、ちゃんと聞いてくれた。それだけで、私は救われたわ」
私は今も、ヴェルナ様の事を執筆し続けている。
この物語が誰かの心に届くなら。
誰かが悪役とされる人にも、悲しみと希望があることを知るなら。
私は影の執事として、彼女の声を伝え続ける。
悪役令嬢ではない。
ヴェルナ・エリゼ・ヴァルモンドは、ただ運命に翻弄された一人の少女だった。
私は決して、彼女の物語を決して忘れはしない。
THE END