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第五章 崩れる世界
王宮の舞踏会の夜。
ヴェルナ様は白いドレスを翻しながら、会場へ入った。
けれど人々の視線は彼女ではなく、グレース殿下に集まっている。
そんなこと気にも留めず、ヴェルナ様は給仕からグラスを受け取り、注がれたシャンパンに口をつけた。
その瞬間──彼女の手が震えだす。
「アレクシス……私……声が出ない……胸が……」
みるみる内に彼女の顔色が青ざめていった。
毒だ。
倒れるヴェルナ様を私が受け止めると、舞踏会場に居る人々は騒然とし始める。
グレース殿下がこちらへと駆け寄り、涙を流してヴェルナ様を抱きしめた。
「ああ……ヴェルナ姉様! どうして……!」
じつはグレース殿下は、ヴェルナ様とは幼い頃から姉のように慕っていたのだ。
だから、私にはその涙は本物に見える。
だが、誰もがこう言った。
「またヴェルナ嬢が同情を集めようとしている」
「演技だ。注目を集めたいだけ」
私は叫びたかった。
違う!
彼女は──!
だが、声は出せなかった。
物語はすでに彼女を「悪役」と定めている。
真実など、どうでもよかったのだ。