3/8
第三章 物語の外側
やがて物語は動き始めた。
グレース殿下が聖女であるという噂が広まり、彼女の周囲に奇跡が起こり始める。
病が治り、戦争に勝利し、人々の心を掴む。
一方のヴェルナ様は次第に「悪役」として描かれていく。
彼女が何かを言えば「高慢」、助けを求めるだけで「策略」とされた。
彼女が王太子に近づいたと聞いても、それは「野望のための罠」と解釈される。
真実を知っているのは、私だけ。
彼女が王太子に手紙を送ったのは、ただ「どうか、私の言葉を聞いてほしい」と願ったからだと。
彼女がグレースに毒を盛ったとされる事件も、実は──
「あの薬は……私が渡したんじゃない」
彼女は震える手で、その小さな瓶を握っていた。
「誰かが私の部屋に置いていった……そして王女が倒れた。証拠はすべて私の元にある……」
「けれど一体誰が……」
「わからない。でも王家に反対する勢力……あるいは物語を“正しい”方向に導こうとする、見えない手がいる」
私は彼女の言葉を信じた。
彼女が嘘を言っているようには見えなかったから。
「私はただ生きたかっただけなのに……」