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Adam  作者: じょにぃ3
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3. アプフェル

 次の日。陽光が降り注ぐ荒野の中、一本だけ通った道を走っていた。

陽炎の中に道はどこまでも続いていて、今見える限りを走り切ってもさらにまた長い道のりが現れるのではないか、そんなことを思わせる景色だった。


「随分走りましたね、この先に町があるのでしょうか?」

「まだ少し距離はあるけど、中間にガソリンスタンドがあるね。そこで給油しよ」

「そうですね」


ブロロ…とエンジンをかけ、先へ進む。

博士の言葉通り、坂道を超えた先にガソリンスタンドの看板が見えてきた。


「あそこですね」

 

 到着し、バイクを降りて周囲を確認する。

随分寂れた店舗ではあるが、スタッフルームの方からはラジオの音が流れていた。


近づいて窓を覗くと、ソファに横たわっている髭面の男性が一人。机には"二本"のビール瓶とタバコが置いてあった。


 コンコンッと窓を叩き声をかける。


「すみません、給油をしたいのですが」

「おっ?客か。ちょっと待ってな」


 彼は少し時間を置いて表に出てきた。

そして錆びのついた給油ノズルに手をかけ、ワタシを見てこう言った。


「アンタ、人間じゃなくてロボットなのか?」

「はい、ワタシはアダムと言います」

「はは…時代は進んだねえ、こういう仕事もいずれアンタみたいなのに取られちまうんだろうなあ」


そう言って彼はワタシの目をじっと見つめてくる。


「ほんとやってらんねぇよなぁ?」

「……?」

 

その時、足下の影が一瞬動いたような気がした。目線を下に向けると男とワタシ、二つの影の後ろからもう一つの影がゆっくりと近づいていた。


「!?」


 バッと背後を振り返る。

その刹那、「ガン!!」という音と共にワタシの頭部に衝撃が走った。

視覚にノイズが流れ地面に倒れ込む。


 見上げると、そこにはマスクをつけたもう一人の男が立っており、手には金属製の工具を持っていた。


「アダム!?やめて!その子に酷いことしないで!」


バイクから博士の声が響く。

男二人は側車のに近づくと、荷物と博士のモニターに手をかけた。


「なんだこりゃ、通信端末か?」

「まさか今の撮られたんじゃないだろうな?壊しとけよ」


 ワタシは這いずりながら髭の男に近づき、足首をガシリと掴んだ。


「やめ…テくだサい…」

「なんだコイツ?たいして金目の物は持ってねぇし、こんなんじゃ仕事になんねぇよ」


 するとマスクの男がこう言った。


「金目のものがねえならよ、このロボットを売り払っちまえばいいんじゃねえか?きっと高価な部品があるに違いねえ」


「お前頭いいな」、と男二人が取り囲んでくる。


「お願いやめて!その子に触らないで!」博士は涙を流し、必死に叫んでいる。

ワタシはどうにか声を絞り出し、安心させようと試みた。


「ハカ…せ、心配しないで…どうか泣かないでくださ…い」


 その時、うるせえなぁと髭の男がモニターを地面に捨てる。するとカランッと転がるモニターに向かって脚を大きく振り上げた。


「ヤメ…ろ」


ワタシの声は届かず、男は勢いよく脚を振り下ろす。そして「アダム!アダ…」と博士の声を響かせながらモニターはバキッッ!!と二つに砕けた。


「……ッ」


 抵抗できず、動力系の破損したワタシは空を仰ぐことしかできない。

「コイツ重いな…ここでバラしちまうか」と徐々に体を分解される。

そうして左脚が外されてしまった時、遠くの方にキラリと光る何かが見えた。


「……車?」


 男達は慌てだし「見られたらマズい、ずらかるぞ!」と荷物を持ってワタシたちのバイクで走り去った。

車はどんどん近づいてくる。それにつれ形状が小型トラックであることが分かる。


 なんとか右腕をあげ、親指を立ててハンドサインを作る。

すると少し通りすぎた場所でトラックは止まり、誰かが窓から顔を出した。

太陽を背にしているせいでよく分からなかったが。「おーい大丈夫ー?」という声から男性であることが伺える。


 降りてきたのは博士と同じくらいの少年で、小麦色の肌に黒い髪を後ろで結んでいた。

最初は彼もワタシに驚いていたが、事情を説明すると「町まで行けばなんとかなるよ」と荷台のクレーンを使い乗せてくれた。

 

 移動中、荷物と揺られながら運転席の少年に話しかける。


「乗せてイただいてあリがとうございまス、なんとオ礼を言えば良いカ…」

「別にいいよ。それより災難だったね、この辺は野盗が多いから気をつけないと」


その口ぶりから、彼はああいったことに随分慣れているようだった。それに先ほどから道路を外れ、獣道を使った短縮ルートを通っている。どうやら周辺の地理にも詳しいらしい。


「アナタ、この辺りノ方なのでスか?」

「そうだよ。これから行く町、僕はあそこで親父とジャンク屋をやってるんだ」


 彼が指を差し、つられてその方角を見る。すると微にではあるが、陽炎の向こうに小さな町が見えた。

ワタシは安堵し「ふー」とため息をつく。


「良かったね。僕も野盗じゃないって信じてもらえた?」


その冗談にはいささか本心から笑うことができず、「ははハ…」と愛想笑いで返しておいた。


 ワタシは尋ねる。


「そうイえばまだ聞いテいませンでしたガ、アナタの名前ハ?」

「僕?、僕の名前は『アプフェル』、みんなアップて呼んでるよ」

「そうデすか、そレではアップ。あらたメて一つお願いしてモよろシいでしョうか?」

「なに?」


 彼の通信端末を借り、心配しているであろう博士へ電話をかける。

少し時間はかかったものの通話は無事に繋がった。


「……誰?」

「博士、ワタシでス。アダムです」

「アダム!?本当にアダム!?大丈夫?今どうしてるの?警察には連絡したんだけど時間かかるって…」

「安心しテくださイ。親切な二助けて頂きまシたから」


 ビデオ通話に切り替え、互いの顔を見せる。

そして画面の先には沢山泣いたのであろう頬を赤くした博士がいた。


「うぅ…ホントに心配したんだからぁ…」


その姿、その言葉にワタシは心から安堵する。


「ゴめんなサい博士。でも、もウ大丈夫です」

「うん…」


 町までもう少し。

その途中、ワタシの視界がゆっくりとぼやけはじめた。

「オや、バッテリーが切レ…そう…でス」

疲れて眠りに落ちる。そんな感覚に飲まれるようにワタシは意識を失った。


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