表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Adam  作者: じょにぃ3
1/5

1. アダム

「さあ起きて、今日はあなたの誕生日」


 目を開けると、そこには一人の少女がいた。

窓から入る風に金色の髪をなびかせ、ワタシに何かを語りかけている。


「あれ、言語機能が動作してない?それとも聴覚機能?私の声は聞こえる?聞こえてたら返事してみて?」

 

彼女の命令通り、声を出すという動作を試みる。

そしてプログラムの中生まれた言葉を音声として出力した。


「はイ、聞コエていまス」

「わ!いいよバッチリ!細かな発音はゆっくり覚えていこうね」


 少女はワタシのハンドパーツを握り、上下に揺らす。


「これからよろしく!そうだ、まだ名前決めてなかったよね。何がいいかなあー…」

「ナマえ、でスか?」

「そう名前!助手第一号だからー…うーん」


彼女は少し考えた後、閃いたようにこう言った。


「そうだ『アダム!』あなたの名前はアダムよ!」

「アダ…む?」

「そう!アンドロイドで助手第一号だからアダム。あなたにピッタリでしょ?」


 置いていた衣服を手に取り、ワタシを座らせ着せていく。

そしてペンを使って名札に記した。「Adam」


「うんうん!よく似合ってるわアダム」


 ワタシは尋ねた。


「アナタのナマえは?」

「え?」

「アナタのコトはナント呼べバ良いのデしょうカ?」

「そっか、自己紹介がまだだったよね。私はあなたの生みの親だから…『博士』って呼んで」


 博士は”車輪”に手をかけクルクルと回ってみせる。


「あははっ」


その足取りはとても軽いものだった。

しかし、彼女の膝から下には『脚』が無かった。


 その日から、ワタシと博士の生活が始まった。

車椅子の彼女を補助すべく。助手として開発の手伝いをする。


「アダム、その部品取ってくれる?」

「はイ、博士」

「アダム、ココアを飲みたくなっちゃった。1杯入れてくれない?」

「はい、博士」


 彼女は細かな手伝いをさせる一方で、家事などにはあまり手を出させようとしなかった。

尋ねてみても、帰ってくる答えは同じ。


「バカにしないで、私もう16なんだよ?これくらい自分で出来るもん。それにあなたは奴隷じゃない、私の大事な助手なんだから」


ならば他にすることはないか。

せがむワタシに「うーん通販で済むけど…」と言いながらも、博士はお買い物を任せてくれた。


 外に出て、レンガ作りの道を歩く。

空を仰げば日光が視覚センサーを白く染め、道ゆく車の音が近づいては遠ざかっていった。

前を歩く男女は手を繋ぎ「二人で出かけるには最高の日だね」と笑っている。


「……ふむ」

 

 市場は随分賑やかな場所だった。前に進むだけであらゆる方角から人の声が聞こえてくる。

そして人々の視線と話の内容はワタシへと向けらたものだった。


「何だありゃ」

「人間そっくりな…ロボット?」


 人混みをかき分け、目的の商店に辿り着く。


「これをください」

「……ああ、まいど」


店主に声をかけるも、その反応はどこかぎこちなかった。



 目的を終え帰路につく。

その途中、通りかかった公園から一匹の子犬が飛び出して来た。

首にはリードがついたままで、そこから飼い犬であることが推察できる。


すると、それを追いかけるように6歳くらいの少女が道路へと走って行った。


「待ってー!」


 ワタシの後方からはトラックが迫っており、このままでは彼女と衝突するだろう。

瞬時に移動し、襟をつかんで動きを止める。


「わあ!」少女は驚いていたが、これによって大事は防ぐことができた。


 運転手が顔を出し「気をつけろ!」と走り去る。それを見た少女は「危なかったぁ…」とその場にへたり込んだ。


「大丈夫ですか?」ワタシが話しかけると「ありがとう、おかげで助かっ…」と言いかけ、表情を強張らせる。


「え…あなたロボットなの!?」

「はい、ワタシは博士によって作られたアンドロイド。アダムと言います」


 子犬を抱え、少女へと手渡す。

はじめは警戒している様子だったが、怯える様子の無い犬を見て彼女は笑顔でこう言った。


「ありがとう!アダムって優しいロボットなのね!」



 家に着くまでの間、少しだけ少女と話をした。


「へー、あなたを作った博士って凄い人なのね」

「はい、博士はなんでも作ってしまう凄い人なんです」

「でも不思議ね」

「何がでしょう?」


 彼女はワタシの脚部を見つめている。


「なんで博士はアダムみたいなロボットが作れるのに”自分の脚”を作らないのかしら?」

「……確かに、なぜでしょう」

「何か理由があるのかもね」

「……ふむ」


 その夜、お風呂で博士の髪を洗いながら尋ねた。


「博士。アナタはワタシのようなアンドロイドを作れるのに、なぜ自分の脚を作らないのですか?」

「え……?どうしたの急に?」

「何か理由がお有りなのですか?」

「えーっと…まあ、そうだね……」


 彼女は窓の外に目を向ける。

そして夜空の月にむかって手を伸ばした。


「アダム……私にとって外の世界は、あの月くらい遠い場所なんだよ」

「それはどういう意味でしょうか?」


ワタシの言葉に博士は質問で返す。


「今日のお買い物、どうだった?」

「お買い物ですか?」

「みんながあなたに向けた視線はどうんなもの?」

「それは、まるで珍しい物を見るような」


彼女は苦笑いし「そうだよね…」とこちらを向く。


「私はね、その『視線』が怖いの…」

「怖い…ですか」

「うん、自分と同じじゃないものを見るあの視線。あれを向けられると、私震えが止まらなくなる…」


 博士は膝から下のない脚に触れる。


「私にも昔は脚があったの。だけど6歳の時に遭った事故で無くなっちゃった。それ以来、皆んなの私を見る目が変わったの」

「見る目?」

「うん。仲良かった子もみんな「かわいそう」とか「大変だね」とかそんなことばかり言うようになって、誰も前と同じように接してくれなくなった。その時思ったの。同じ人間でも、私は全然『別物』になっちゃったんだって……」


『別物』その言葉を口にした彼女の目には少しだけ涙が浮かんでいた。


「それからは視線を避けて生きてきたの。いつの間にかラボにこもって、機械が好きだった私はここで発明をできればそれでいいって、そう思うようになった」

「それで外へ出ないのですね…」

「でも今はこうして生活できてる。発明が世界中で役に立って、もっとすごい物作ろうって思えて、アダムが側にいてくれて。私にとってここは楽園みたいな場所なんだよ」

「博士…」


 風呂場を出て博士の長い髪を乾かしていく。


「脚を作るのは…やはり嫌ですか?」

「……何度か作ることも考えたよ?でも…やっぱり私は人を信じられない…」


 そう言って彼女はこちらを向き、裸のままワタシに抱きついた。


「博士?」

「あはは、アダムの体ひんやりしてて気持ちいい」

「風邪を引いてしまいますよ?」

「えへへ」

 

 そのまま床へと押し倒され、博士がワタシの体に覆い被さる。

そして表情を見せず、涙を堪えるように彼女は言った。


「脚を作っても、みんなの視線は変わらないかもしれない。それよりもずっと…もう私が素直な気持ちで人を見つめられるか分からない。それがすごく怖いの……」

「……」

「だから自分の足を作るんじゃなくて、同じ苦しみを分かってくれる『別物』のあなたを作ったの。ごめんねアダム、私ってすごく臆病…」

「博士…」



 夜更け、私は昼間出会った少女のことを思い出していた。


「ありがとう!アダムって優しいロボットなのね!」

「……」


 次の日、ワタシは博士に言った。


「博士、少しの間旅に出ようと思います」

「え?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ