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第5話「嫌われ者扱いと孤立」

第5話「嫌われ者扱いと孤立」

 朝の教室は、静かだった。いや、静かすぎた。


 俺がドアを開けた瞬間、誰かの会話がぴたりと止まり、数人が露骨に席をずらす。


「……おはよう」


 誰にともなく挨拶しても、返事はない。


 空気が、まるで“見えない壁”になっていた。誰も俺と目を合わせない。話しかけない。近寄らない。


 昨日の“爆発事故”――いや、制御訓練での魔力暴走。

 あれが、決定打になったのだ。


(……わかってたさ。こうなるって)


 剣で魔法を使うというだけで、異端視され、実技のたびに騒ぎを起こしてきた俺。

 それが教官の護衛結界まで展開させたとなれば、信用を失うのは時間の問題だった。


 机の上には、昨日の爆発の影響か、落書きのようなものが書かれていた。


 《爆弾野郎》《魔術師(笑)》《剣士に転科しろ》


 ……わかりやすくて、ある意味ありがたい。


 静かに椅子に腰掛けると、斜め前の席のリリィが、少しだけ俺を見てすぐに顔を背けた。


(ふーん。あの子も、もう話してくれないんだ)


 最初はちょっかいをかけてくれていたけど、あれも“面白半分”だったのだろう。

 危険人物になった今、関われば自分も巻き添えになると考えるのは、当然かもしれない。


***


 休み時間。


 食堂へ向かおうと教室を出たところで、廊下でぶつかった相手がいた。


「……っと」


 ぶつかった拍子に、相手の持っていた資料が床に散らばる。慌てて拾おうとした俺に、その人物が叫んだ。


「触るなよ!! その手で資料が爆発したらどうすんだよ!!」


「……っ」


 心臓を指で突かれたような衝撃だった。


 その場にいた数人が笑い、俺を見て囁き合う。


「マジで近寄るだけで爆発しそうだよな……」

「次は教室ごと吹き飛ぶんじゃね?」

「魔術じゃなくて災害だな、あれは」


 何も言い返さず、そのまま資料を置いて立ち去った。


 悔しい、悲しい、腹が立つ――けれど、そんな感情より先に、ただ「虚しい」が勝っていた。


(なんで、こんなことになってるんだろうな)


***


 その日の午後。


 実技演習の授業では、俺だけ別の訓練場に“隔離”されていた。


 教官からは「安全上の配慮」とだけ言われたが、それは実質的な“処分”だ。


 誰とも組まず、ただ一人で模擬標的を相手に魔力制御の練習。


 自分でもわかっている。


 俺の魔力は、ただ強いだけじゃない。“荒ぶっている”のだ。制御に神経をすり減らし、少しでも気を抜けば暴発する。


 剣を杖として使うことで、多少は方向付けられるが、それでも不安定には変わりない。


 それでも、俺は魔術師になりたかった。


(師匠は、言ってたな……)


 ――杖じゃ、お前の魔力は暴れる。なら剣に通せ。力を斬るように、律するように、使え。


 奇抜で無茶な発想だったけど、それがなければ俺は魔法を使えないままだった。


 今さら“剣を捨てて杖に戻せ”なんて、無理だ。


(なら、貫くしかない……)


 深く息を吸い、模擬標的に剣を向ける。


「《エア・ニードル》……!」


 風の魔力を細く尖らせ、目標に向けて射出。


 ズン、と音を立てて、標的に風穴が開いた。爆発しなかった。うまくいった。


 けれど、誰も見ていない。誰も、褒めてくれない。

 成功しても、孤独だ。


 魔術師のくせに、誰よりも“剣を握っている”自分が、少しだけ恥ずかしく思えた。


***


 夜、寮の部屋。


 ベッドの上に剣を置き、俺はぼんやりと天井を見ていた。


 明かりもつけず、ただ窓から入る月光だけを頼りに、静かに時間が流れる。


 ドアをノックする音がしたのは、そのときだった。


「……誰?」


「わたしよ。セシリア=ルヴァン」


 心が少しだけ緩んだ。ドアを開けると、彼女は相変わらず無表情で、けれど手に一冊の本を持っていた。


「これ。“高出力魔力の制御理論”。副読本だけど、あなたに必要な内容があると思う」


「え、でも……なんでわざわざ……」


「……私だって馬鹿じゃない。あなたの爆発が“わざと”じゃないってことくらい、わかるわ」


 そう言って、セシリアは一拍置いて、真っ直ぐ俺を見た。


「孤立しても、誰も信じてくれなくても……あなたが、それでも“魔術師”であろうとするなら――私は、それを見届けたい」


「……ありがとう」


 その言葉が、胸に染みた。


 ひとりぼっちになっても、信じてくれる人がいる。


 だから、俺は剣を杖として握ることを、やめない。


 次の試験で証明してやる――俺が、剣士でも異端でもなく、れっきとした“魔術師”であることを。

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