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第4話「魔術の授業で事故レベルの爆発」

第4話「魔術の授業で事故レベルの爆発」

 王国魔術学院の授業は、基礎理論から実技、魔力量の測定、精密な詠唱訓練など多岐にわたる。

 だがその中でも、もっとも重要で、そして恐れられているのが――“魔術制御訓練”だった。


「この訓練は、単に魔法を撃てばいいというものではない。いかに魔力を抑え、狙い通りに術式を維持するか。魔術師の資質が問われるわけだ」


 威厳ある声でそう語るのは、教官のゾルダン=フェリス。


 元・近衛魔術師団所属で、制御系魔術の第一人者。鋭い眼光と灰色のローブがトレードマークで、生徒たちからは“氷のゾルダン”と呼ばれていた。


「各自、自分の媒体を用いて小規模な火球を発生させ、それを指定された的に当てる。それだけだ」


 訓練場の中央には、魔力を吸収する特製の標的がずらりと並んでいる。


「……まあ、普通の魔術師ならね」


 俺は苦笑しつつ、剣を背中から抜き取った。


 その動きに、すぐさまクラスのざわめきが起こる。


「あーあ、また出たよ。剣」

「まだ魔術師のつもりなの?」

「今度は何が爆発するんだか……」


 耳に入っても、気にしない。


 だが――今日は、違った空気もあった。


 セシリアが、ちらりと俺のほうを見ていたのだ。興味、か、それとも――観察?


「……準備はいいな?」


 ゾルダン教官が前に立ち、鋭い目を俺に向けた。


「リオ=グランティス。お前が最初だ」


 なぜ俺から!? と内心叫びつつ、俺は前に出る。


 剣を構え、呼吸を整える。

 魔力の流れを意識し、剣身へと伝わせる。


(ゆっくり……落ち着いて……)


「《フレイム・ショット》」


 ――ボン。


 あれ? 意外と普通に出た。


 小さな火球が剣先から浮かび、ゆっくりと宙を進んでいく。軌道もブレていない。これは――いけるか?


 と思ったその瞬間。


 火球が膨れ上がった。


「え?」


 魔力が暴走してる!? なぜ!? 制御はちゃんと……


 ズガァァァァン!!


 轟音と爆風が、訓練場を襲った。


 標的は木っ端微塵、床は抉れ、教官用の結界が慌てて展開されるほどの大爆発。


「きゃああああ!!」

「何!? 砲撃!?」

「魔法じゃなくて戦争じゃん!!」


 生徒たちが叫び、パニックになる。

 俺はただ呆然と立ち尽くす。


 剣は熱を帯び、周囲には煙と焼け焦げた匂い。


「……リオ=グランティス。貴様、これは一体どういうことだ?」


 ゾルダン教官の声は低く、怒気を含んでいた。


「い、いえ……今のは……制御できてたはずなんです……!」


「ふざけるな。あれが制御された魔法だというなら、魔術学の常識がひっくり返るわ」


 そして、その場にいた誰もが、俺を“危険人物”として見るようになった。


「やっぱりあいつ、おかしいよ……」

「剣で魔法とか言ってたけど、ただの爆弾魔でしょ……」

「もう実技に出さないでほしい。命がいくつあっても足りないよ……」


 教室に戻ってからも、クラスメイトたちはあからさまに俺から距離を取った。


 机を離され、昼食はひとり。誰も近づこうとしない。


 魔術師になりたくて、この学院に来たのに――どうして、こうなるんだろう。


***


 その日の夜。


 寮の裏庭で、ひとり剣を構えていた。


 焚き火代わりの魔法も、怖くて使えないほどに落ち込んでいた。


 だけど――声がした。


「……あなた、本当にその剣でしか魔法が撃てないの?」


 振り向くと、そこにはセシリアがいた。


 銀髪が月光に照らされ、どこか儚げに揺れている。


「……うん。子供のころから、魔法を唱えると爆発ばっかりで。杖じゃ制御できなかったんだ。でも、この剣なら少しは安定するんだ。たまに……暴走するけど」


 そう、俺は知っていた。

 この剣はあくまで“媒介”にすぎず、根本の原因――つまり“俺の魔力量”が異常すぎるのだ。


「魔術師として、欠陥品なんだよ。ボクは」


「違うわ」


 セシリアは静かに、けれどはっきり言った。


「あなたの魔力は“異常”じゃない。“規格外”なのよ。……もし、その力を正しく導けたなら――たぶん、誰よりも強い」


 彼女のその言葉に、俺は目を見開いた。


「私も、最初はただの変人だと思ってた。でも違った。今日、あの火球……術式は正確だった。制御も一瞬は成立してた。つまり――“剣”が鍵なのよね?」


「うん。ボクには、これしかないから」


 セシリアは少し微笑んで、俺の剣を見た。


「なら、証明しなさい。あなたが“魔術師”だということを。……次の試験で」


「……試験?」


「今度の合同演習。上級生も見る公開試験よ。あなたが本当に魔法を使えると見せつければ、誰も馬鹿にしなくなる。……たぶんね」


 そして彼女は、くるりと背を向けて歩き出した。


「……セシリア」


「なに?」


「ありがとう」


「勘違いしないで。ただ、危ない魔法使いが暴走しないように監視するだけよ」


 そう言い残して、彼女は夜の中に消えていった。


 だが、俺の中には小さな灯が灯っていた。


 “信じてくれる人”が、ひとりだけでもいる――それが、今の俺には十分だった。

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