第13話「剣士、代理加入」
第13話「剣士、代理加入」
自由都市アルディナに来て、三日目の朝。
ギルドの食堂で朝食をとっていると、受付嬢のナリアさんが俺の席にやって来た。
「リオくん、ちょっと相談があるんだけど、今いい?」
「はい、どうかしましたか?」
パンをちぎりながら顔を上げると、ナリアさんは苦笑いを浮かべて椅子に腰を下ろした。
「じつはね、ちょっと困ってるパーティがあって……一時的にでもいいから、力を貸してくれないかなって話なの」
「……俺が、ですか?」
いきなりすぎて、よく意味が飲み込めなかった。
「そう。ほら、あなた大剣持ってるでしょ? 剣士の枠として、ちょうど空いてるパーティがあってね。女の子3人組なんだけど、剣士役の子が昨日、ケガでしばらく離脱するって話で」
「なるほど……でも、そういうのって、普通は事前に面談とか……」
「それがね、その子たち、ちょっと“訳あり”なの」
ナリアさんは声を潜めて、こっそり続けた。
「男性と組むのは原則NGなんだけど、あなたなら――って、推薦されてるのよ。ギルド長から」
「……ギルド長から?」
「『剣士だけど魔法も使える。しかも、女の子に変なことしなさそう』って評判よ。あくまで“今のところ”だけどね」
「いや、あの……俺、そこまで信用あるんですか?」
「あるのよ。だってアリステアの弟子でしょ? あの人、いまだにギルドじゃ“聖剣の変人”って呼ばれてるけど、人格は保証されてるから」
そう言ってナリアさんがにやっと笑ったそのとき――
「……あの!」
背後から、やや緊張した声が聞こえた。
振り返ると、三人の少女たちが立っていた。
一人は長い黒髪をポニーテールに結んだ真面目そうな雰囲気の子。もう一人は栗色のショートカットで小柄。最後は、くせっ毛の金髪をおろした、やや年上に見える落ち着いた子だ。
「リオさん……ですよね? お願いです、少しだけでいいので、私たちのパーティに加わってくれませんか?」
先頭に立った黒髪の子が、まっすぐ俺を見て頭を下げた。
「わたしたち、《トリリオン》っていうパーティなんですけど、剣士のミナが倒れちゃって……このままだと、ランク維持どころか冒険すら出られないんです」
「でも……俺、事情もよくわかってなくて」
躊躇する俺に、金髪の子が小声で囁いた。
「ごめんなさい。正直に言うと、私たち、ちょっとトラブルに巻き込まれたことがあって……男性とパーティを組むの、かなり怖いんです。でも、あなたのことは、ナリアさんから聞いて……」
その視線には、疑いと、そしてほんの少しの希望が混ざっていた。
たぶん、本当にギリギリの状態なんだろう。
俺が断ったら、彼女たちは冒険に出られず、信頼も失って――自由都市で生きていくことさえ危うくなるのかもしれない。
(……俺は、あの時の俺と違う)
王都で、努力しても裏切られた。でも今は――誰かの力になれる立場にいる。
「わかりました。じゃあ、臨時って形で、しばらくご一緒させてもらいます」
「――ほ、本当ですか!?」
黒髪の子がぱあっと顔を輝かせた。
「でも、条件が一つだけあります」
「はいっ、なんでも言ってください!」
「……俺が“変な奴”だって思っても、すぐに切らないでください。剣で魔法を撃つって言ったら、だいたい『頭おかしい』って言われるんで」
すると、三人は顔を見合わせ、くすっと笑った。
「じゃあ、お互いさまですね。私たちも、結構“変なパーティ”って言われるんですよ」
なんだろう。少しだけ、心が軽くなった。
こうして、俺は《トリリオン》の臨時剣士として、新たな一歩を踏み出したのだった。




