表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/23

第12話「自由都市の朝と、新しい名乗り」

第12話「自由都市の朝と、新しい名乗り」

 旅を始めてから、もう何日が経っただろう。


 峠を越え、川を渡り、見知らぬ町をいくつも通り過ぎて――ようやく、たどり着いた。


 自由都市アルディナ


 大陸の南部に位置する交易と冒険の中心地。王も貴族も存在せず、身分に関係なく力と信用だけがものを言う都市国家だった。


 石畳の大通りには多国籍の商人が声を張り上げ、行き交う人々は武器を持って歩いている者も多い。王都では考えられない光景だ。


(……ここなら、俺は“平民”じゃない。ただの“リオ”だ)


 背中の剣と、自分の力。それだけを頼りに、生きていける場所。


 そんな希望を胸に、俺はまず一つの建物へと足を運んだ。


 ――《冒険者ギルド・アルディナ本部》。


 ここが、新しいスタート地点になる。


***


「登録希望? だったら、まずは書類書いて」


 受付嬢は慣れた様子で書類を差し出してくれた。俺より少し年上くらいの茶髪の女性で、口調はきついが仕事は早い。


「名前は? 出身地は? 武器と得意分野も書いて」


「……リオ=グランティス。武器は剣。魔法も、少し使えます」


 受付嬢の手が一瞬止まった。


「魔法も? え、両方?」


「……はい。剣で、魔法を撃ちます」


「ふーん……面白い。最近じゃ珍しくなくなってきたけど、本当に使えるなら、一目置かれるわよ?」


 書類を提出し、身分証代わりに推薦状――アリステア師匠の署名入りのものを見せると、受付嬢の目が見開かれた。


「アリステア=フェンブラムの弟子!? あんた、冗談じゃないのよね?」


「本当です。師匠から“世界を見てこい”って、ここに来ました」


「……マジか。だったら、初回の試験は免除。今日からEランク冒険者として活動できるわ。……名前は、覚えておくね」


「ありがとうございます」


 そのとき、背後から声が飛んできた。


「へぇ、あんたがアリステアの弟子か。ちょっと細いけど、目は悪くないな」


 振り返ると、金髪を束ねた大柄な青年が立っていた。武骨な斧を背負い、黒いジャケットを羽織った冒険者らしい男。


「俺はバズ=ラグナー。Aランク冒険者だ。ちょうど今、人手が欲しい任務があってな……新人でも腕が立つなら歓迎するぜ」


「え……いきなりですか?」


「まぁ、力試しだ。どうせギルドじゃ、すぐに評価される。なら早めに顔売っとけ」


 突然すぎる話だったけど、俺は首を縦に振った。


(今の俺は、何かを失った“ただの平民”じゃない。剣で魔法を撃てる――それが、俺の価値だ)


「わかりました。ぜひ、お願いします」


 バズは満足げに笑った。


「よし、じゃあ明日の朝、北門集合な。魔獣討伐任務だ。簡単なやつだから、死にさえしなけりゃOKさ」


「了解です」


***


 その夜、ギルドの宿屋の一室で俺は窓辺に立っていた。


 ここは、自由の街。


 誰も俺を“平民”と馬鹿にしない。出身も家柄も関係ない。ただ、“今の俺”を見てくれる場所。


 剣で魔法を撃てる――たったそれだけのことが、この街では“才能”と呼ばれる。


 窓の外には、街の明かりと、星空が広がっていた。


 明日から始まる、新しい生活。誰も俺を知らない土地で、誰も俺に先入観を持たない街で、やっと“スタートライン”に立てた気がする。


 胸の奥に、熱いものがこみ上げてきた。


(俺は……やれる)


 師匠がくれた剣と、歩んできた道を信じて。


 ここから先は、誰の言いなりでもない。俺の足で、俺の意思で、進むだけだ。


「――行こう。“剣と魔法”の物語は、これからだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ