第1話「師匠の無茶振り『剣で魔法を撃て』」
第1話「師匠の無茶振り『剣で魔法を撃て』」
その日、俺――リオ=グランティスは、魔術師として人生最大の分岐点を迎えていた。
「お前さぁ、魔法って、なんかこう……地味じゃね?」
そう言い放ったのは、俺の師匠、アリステア=フェンブラム。
王都でも五指に入る魔術師なのに、なぜかいつも笑いながら無茶ばかり言ってくる変人である。
そして、俺は今、その変人の前で困り果てていた。
「師匠……何度も言ってますけど、魔法は繊細な術式構築と精神集中が――」
「いや違うって。お前の魔力さ、繊細に扱ったら逆に不安定になるんだよ」
「だからって剣で魔法を撃てって、無茶すぎません!?」
俺の手には、長剣。
本来なら剣士が使うはずのそれを、師匠は「杖の代わりに使え」と言い張ってきた。
「かっこいいじゃん、剣で魔法撃つとか。浪漫!」
「師匠、それはロマンであって、理論じゃない……」
だけど、アリステア師匠は真剣な顔で言った。
「リオ、お前の魔力は普通じゃない。杖じゃ流しきれない。だから“出力制御”のためにあえて鉄を通せ。剣身が抵抗になって、魔力が安定する」
「……それ、学会で発表したら怒られるやつでは?」
「うん。だから発表してない。お前だけに教える、禁断の奥義だ」
禁断って自分で言ったなこの人。
でも――俺もわかっていた。
普通の魔法の打ち方では、俺の魔力は制御できない。
子供のころから、魔法を使おうとするたびに爆発。
炎系魔法を試せば火事。風系は嵐。氷系は近所の川が凍った。
魔力の量だけは異常に多いのに、繊細な術式や精密操作は壊滅的に苦手。
それでも諦めきれず、俺は魔術師を目指してきた。
「剣を杖に……か」
重みのある剣を両手で構える。
魔術師が扱うにはあまりに武骨で、不格好な代物。
だが、確かに手の中に収まるそれは、杖よりも――何かしっくり来る感触だった。
「いけるかもな……」
「よし、その調子だリオ! よーし試し撃ちいってみようぜ!」
師匠は笑顔で叫んだ。
そして、次の瞬間――
「《フレイム・ブラスト》!!」
俺は咄嗟に剣を振り下ろした。
ズガァァァァァン!!
周囲の地面が爆発四散した。
魔法が、剣から放たれた――それも、明らかに規格外の火力で。
「おおー! やっぱお前、剣のほうが向いてるって!」
「う、うそだろ……マジで撃てた……!」
剣の先から吹き出した火柱は、訓練場の模擬岩を余裕で粉砕していた。
それは、確かに“魔法”だった。
だが、見た目は“剣技”だった。まるで剣を振ったら爆発したようにしか見えない。
「……これ、魔術師として誤解されないですかね?」
「いや、誤解されてもいいじゃん。むしろそのほうが面白い。いずれ世界中が“剣で魔法撃つやつ”って震え上がるぞ」
「師匠、それは俺を敵に回させるつもりですか……」
「大丈夫、安心しろ。いずれ“英雄”になる」
この人の言うことは、半分信じていいのかよくわからない。
けど、この瞬間、俺は決めた。
俺は――“剣で魔法を撃つ魔術師”としてやっていく。
誰になんと思われようと、誰にどんな目で見られようと関係ない。
なぜなら――
「ボクはただ、剣を杖代わりにしてるだけですから」
それが、俺の魔術師としてのスタートだった。
そしてこの選択が、後に王国中の魔術師や剣士、貴族や王族までも巻き込む大騒動になるとは――このときの俺はまだ、知る由もなかった。