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3.初めての抵抗

 3.初めての抵抗


 俺たちが異世界転移した人物は、

 ただ嫌われ、虐げられているだけではなかった。


 スマホに似た石板に表示された”あらすじ”では、

 俺たちはこの先、冤罪をかけられ、

 悲惨な死を迎えることが書かれていたのだ。


「本当に、私たち死刑になっちゃうんでしょうか」

 声を震わせながら、聖女フィオナが言う。


「ええ。おそらく。

 だってこの”あらすじ”、歴史書だけじゃなくて、

 我が公爵家のみに伝わる国史の暗部まで書かれているもの」

 苦々しい顔でつぶやく公爵令嬢エリザベート。


 俺も彼女に同意する。

「その通りだ。王族しか知らない過去の策謀など

 一般の者が知りえないことまで書かれているからな」


 ショックと絶望で肩を震わせる彼女たちに俺は言った。

「……まあ、落ち着こうぜ。

 要は婚約破棄をせず、これからは勤勉に努め浪費を控え

 適当なところで表舞台から去ればいいんだろ?」


 その時、ドアの向こうから声が聞こえた。


 ”大丈夫ですかぁ~”

 ”ドアをお開けください”


 さっきからずっと、ドアの向こう側が騒がしかったのだ。

 ……誰ひとりとして、本気で心配なんてしてねえくせに。


 エリザベートが不安そうにたずねてくる。

「なんて言うつもり?」


 そりゃそうだ。貴族たちは俺がこの1年、

 エリザベートに冷たく当たっていたことや、

 フィオナといつも一緒に過ごしていることを知っている。


 しかも俺が転移する直前、

 ”この場で皆に宣言することがある!”

 なんて王子が叫んだのだ。

 なにかしら宣言しないとダメになったじゃないか。


 俺はドンドンと叩かれるドアを見ながら思う。

 こいつらは俺たちを娯楽にしたいだけなのだ、と。


 ”また馬鹿な事やって、あの半端ものが”

 ”惨めなことですわね、ああはなりたくないわ”

 ”たいしたものでもないのに、引っ込んでろ”


 遠巻きにしながら、馬鹿にしつつ、楽しむ人間。

 俺はこういう、くだらねえオブザーバーが大嫌いだ。


 バターーーーン

「失礼しまぁーす! っと」


 いきおい良くドアが開いた。

 普通、王族がいる部屋のドアを勝手に開けたりはしない。

 聖女様だけでなく、公爵令嬢だっているのに。

 俺たちが蔑まされ、軽んじられている証だ。


 入って来た彼らは目を輝かせてこちらを見た。

 修羅場が繰り広げられていることを期待して。


 王子と聖女と公爵令嬢が互いに、

 責めたり泣き叫び、ののしり合う姿を

 自分たちにも見せろ! と侵入したのだろうが。


 おあいにくさま、だ。


「ああ、皆。心配をかけたな。もう大丈夫だ」

 俺はキラキラを最大限に振りまいて、

 大きく開けられたドアの前に群がる人々に笑顔で言う。


「待たせたな。今、そちらに行こう」

 そう言って、俺は公爵令嬢に手を伸ばした。

 まさかのエスコートに、みんなが”えっ?”という顔をする。


 一番驚いていたのはエリザベートだが、

 戸惑いつつも軽く腰をかがめて礼をした後、

 俺の手をとってくれる。


 そして俺は、反対側の手を聖女に向けた。

 見ている者たちは驚愕し困惑する。

 フィオナも慌てて礼をし、俺の手を取った。


 俺を中央に二人の手を引きながら進んでいった。


 そして大勢の前に立って叫ぶ。

「改めて、ここに宣言しよう!」


 貴族や貴婦人、兵士や侍従の顔がニヤニヤしていた。

 どうせ俺が”公爵令嬢を正妃に、聖女を側室にする!”

 とか言い出すと思ってるんだろうな。

 ……甘いぜ。


「雷で受けた傷は、聖女の力により回復することが出来た。

 彼女の力は類まれなるものである」

 そう言って俺は、フィオナとつないだ手を上に掲げる。

 ボクシングの試合で、レフェリーが勝者を示す時のように。


 聴衆は大人しく聞いている。

 ”それを理由に側室にするって言うんだろ”、といった顔だ。


 俺は掲げていた手を降ろして続ける。

「しかし! 彼女の力は以前よりも少々弱まっているようだ。

 考えられる原因はひとつ。

 皆の、神への信仰が弱まっているためではないか?!」


 全員が一様に”はあ?” という顔になる。

 なんでこっちに飛び火が来たんだ? というような。


 俺は真顔で続ける。

「最近、教会へ訪れる日が減っている者はいないか?

 毎日(おこな)うべき祈りの時間を省略している者はいないか?

 常に携帯すべき礼拝品は、もちろんあるだろうな?

 民衆の清らかな信仰心が減ると、

 聖女の力が弱まってしまう可能性が高いのだぞ!」


 俺の、何のエビデンスも無い演説に合わせて

 聖女フィオナが高速で何度もうなずいてくれる。

 ……首、もげるぞ。


 全員が気まずいような、困ったような顔に変わる。

 ニヤつきが顔から消え、俺から視線をそらす。


 みんな心当たりしかねえだろうし、

 ”今すぐ礼拝品を出してみろ”なんて言われたら大変だもんな。

 そんなの持ち歩くやつ、今どきいるかよ。

 ……俺だって持ってねえ。


 先生にさされたくない生徒のように、

 みんなはうつむいたり、明後日の方向を眺め出す。


 俺はそんな彼らに向かってさらに言葉をかける。

 この集まりは確か、『聖騎士団 結成の祝賀会』だったな。


 聖騎士団。

 国王が鳴り物入りで作った、選りすぐりの精鋭集団。


「今日はめでたくも聖騎士団が結成された祝いの場だ。

 彼らは国のために戦う”聖なる剣”だ。

 しかしそれだけでは、この国を守ることはできない。

 この国には”聖なる盾”も必要なのだ」


 この話はどこに飛んでいくのだ? というように

 あぜんとした顔で聞いている人々。


 俺は今度は、エリザベートとつないだ手を上に掲げる。

「だから彼女の膨大な魔力と、聖女の力とを合わせることで

 ”この国を守る力”を生み出す研究を、

 俺たちは今日より始めることにした!

 彼女たちはこの国の素晴らしい”聖なる盾”となるだろう!」


 俺の宣言を聞いて、みんなはポカンとしていた。

 そのうちザワザワとし、一人の貴族の男が聞いてくる。


「えーっとそれは、お二人を共に

 レオナルド王子の妃にされるということでしょうか?」


 俺は眉をひそめて言う。

「なんでそんな話になる? ちゃんと聞いていたか?

 これは研究機関を発足させる、という話だ」


 そう言って、俺はエリザベートを見る。

「彼女は常に王家に対し忠誠を誓い、尽くしてくれる。

 それをこちらも深く感謝しており

 双方に懸念はないが、今後については充分に協議し、

 この国や民衆のためになる決断をするだろう」


 婚約解消するなら、穏やかに話し合いますよ。

 そういう意味合いを込めて、彼らに言い放つ。


 聖騎士団の結成式にからめ、

 王族と、卓越した魔力を持つ者と、聖女、

 というメンバーにふさわしい”国防”という目的。

 誰からも文句を言われる筋合いの無い宣言。


 あからさまにガッカリしている彼らの顔に、

 思わず口元がほころぶ。

 スキャンダラスなショーが見られるはずだったのに、

 彼らにとってはどうでも良いような話をされたのだ。


 すっかり気落ちしている彼らに、俺は追い打ちをかける。

「これには多大な時間や労力が必要となるだろう。

 さあ、この”聖なる盾”の研究に

 協力したい者がいたら名乗りを挙げよ。

 ……いや、こちらから選んでも良いだろうか?」


 俺の言葉を聞き、人々がススス……と離れ始める。

 指名されたらたまったもんじゃない、

 そう思っているのがミエミエだ。


 引きつり顔で後ずさる彼らに、俺は笑顔で告げる。

「まあ、急に言われてても困るだろう。

 今後もし話す機会があった際にでも、

 指名させてもらおうかな」


「我が公爵家も助勢させていただきますわ。

 適任の者を見つけ次第、

 父の名において命じることにしましょう」

 エリザベートの言葉に、貴族たちの顔は一瞬で青くなる。


 彼女の家、ローマンエヤールは筆頭公爵家であり、

 その父は魔力も剣術にも秀でたこの国の英雄だ。


 しかしこれまで彼女がローマンエヤール公爵家の権力を

 はっきりと示したことはなかった。

 魔女だの冷血だの、どんなに陰口を言われようと

 怒ることもせず黙っているだけだったのに。


 彼女に転移した”中の人”は

 ハッキリ言うタイプのようだな。


 これで俺の命令はたやすく無視できても、

 かのローマンエヤール公爵家の命に背くなど

 どんな高位の貴族にも出来ることではない。


 すでに多くの人々は背中を向け、逃げるように去って行く。

 おいおい、とも思うが、これで良い。

 当分は俺たちに近づく輩はいないだろう。


 顔を見合わせ、俺たちは息をついた。

 んじゃ、どっかで今後について話し合おうぜ、と思い、

 再び退場しようとした、その時。


「稲妻で受けた傷は、大丈夫でございましょうか」

 侍従のひとりが、恐る恐る尋ねてきた。

「問題ない。聖女のおかげだ」

 俺がそう言うと、彼は聞き捨てならないことを言ったのだ。


「いやあ、驚きました。いきなりこの中庭に、

 4本の青いイナズマが

 天から降ってきたのですから!」


 ……4本?

 まさか?! もう一人、異世界転移した奴がいるということか?!



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