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【改稿版】リライト成功!〜クズ王子と悪役令嬢は、偽聖女と底辺兵士と共に、最悪のシナリオを書き換える〜  作者: enth
第一章 異世界転移と悲惨な結末

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29.第二王子の救出、とその活用

 29.第二王子の救出、とその活用


 俺は完全にタイミングを間違えた。

 ダルカン大将軍に俺の出自を伝えるのは

 もうちょっと後だったかもしれない。


 そのせいで俺は今、

 ”髭面のオッサンに全力で抱きしめられる”

 という罰を食らっている。


 ダルカン大将軍は号泣しながら

 俺を覆い潰すように抱きしめる。

「ダァンっ! ブリュンヒルデーーー!」

「俺はそのどちらでもねえ!」


「ハハハ、まるで彼女の体に、ダンの魂が宿ったみたいだな。

 その大胆で不遜な態度、強固な自我と口の悪さ!」

 たぶん悪口しか言われてないぞ、親父。


 俺が”補助魔法しか使えない”と言った時、

 ダルカン大将軍は始め、ニコニコしながら聞いていた。


 しかし、ピタッと動きが止まった後、

 ”魔獣ギドラスを一瞬で間合いを詰めて斬殺した”

 という話が納得できるほど、俺の前に素早く移動し、

 ふたたび俺の頭を両手でガッチリと掴んでつぶやく。

「……今、何と言った?」


 俺は彼に何と言って良いか迷った。

 緑板(スマホ)のことも、

 もちろん異世界転移についても説明しがたい。


 だから、必死に理由を考えて言ったのだ。

「前から、その疑いはあったんだよ。

 だからシュニエンダール国王は俺を冷遇していた。

 ここに来て貴方の話を聞き、確信したんだ」


 うんうんうんうん。彼はうなずいている。

「俺は最初から不思議だったのだ。

 殿下からは微塵も、あの男に繋がるものは感じれなかった。

 それどころかダンに再び会えたような気すらしていた」


 そうして俺を抱き潰しながら叫ぶ。

「ダンっ! ブリュンヒルデっ! 良かったなあ!

 やはり二人が夫婦だと言うのは、

 神が認めた事実だったのだ!」


 ”結婚間近の恋人……

 シュニエンダールでは、そういう事になっているのか”

 ダルカン大将軍がそう言って驚いていた理由は、

 勇者と母上はすでに結婚していたからだった。


 朽ち果てかけた教会で、僧侶ユリウスが神父となり、

 魔導士キース・ローマンエヤールと戦士ダルカンに見守られて。


「無理やりダンを消したはいいが、

 夫を亡くしたばかりでの再婚はあり得ないだろう。

 だからあの国は、結婚の事実自体を隠したのだ」


 その頃からすでに、シュニエンダールの教会は腐り始めていたのか。


「しかしすでにブリュンヒルデ様のお腹には殿下がいた。

 もしバレていたら、間違いなく殺されていましたね」

 ジェラルドが眉をしかめて言う。

 確かにそうだ。


 フィオナが不思議そうに言う。

「でも、どうやって産み月を誤魔化せたんでしょう?」


 皆が首をかしげる中、エリザベートがつぶやいた。

「……たぶん、叔父様がやったのよ。

 お母様は妊娠中、意識不明になった事があるのでは?」


「……あー! 侍女が言ってたな!

 妊娠が判ってすぐのころ、2か月以上昏睡状態になり、

 国王がすごく心配してたって。

 ”絶対に死なせるな!”って医師と魔導士に命じたって……」


 俺は胸が痛んだ。

 少なくとも最初は愛されていたのだ。

 アイツが俺を、自分の子どもだと思っていた頃は。


「昏睡状態に見せかけて身体を”停止保持”したんだわ。

 叔父様なら出来るわ……天才だったもの!

 それで成長を止めたのよ」


 少し誇らしげに笑うエリザベートを見ながら、

 俺はぼんやりと、本当の誕生日はいつだったんだろうと思った。


 その時、侍従のひとりが走り寄ってきて俺に尋ねた。

「無主地には、いつ向かわれますか?」

「できればすぐにでも、と言いたいところだが……」

 俺は答えながら三人を見る。


 ジェラルドは笑顔で言う。

「もちろん僕も同行しますよ。殿下の護衛ですから。

 しかし、お二方はちょっと……

 教会と軍を納得させるのは難しいでしょう」


 そこまで言うと、二人は口をとがらせて抗議する。

「えええー! 私も行きますっ!」

「あら? まさか戻れなんて言わないわよね?!」


 あれ、同行する気満々でしたか。

 俺はジェラルドと顔を見合わせた。


 俺は立ち上がりながら言う。

「……じゃあ、あいつを利用するか」


 ************


「あー、そんな人、いましたね」

 フィオナが思い出したように言う。


 魔獣ギドラスを目前に泣きながら逃走した俺の次兄、

 第二王子フィリップのことだ。


 緑板(スマホ)で検索すれば、

 彼がまだ生きていることも、

 どの辺りにいるのかも明らかだった。


「妖鳥リッテの、(カラ)の巣穴に落っこちたんだな」

 断崖絶壁にある、ツバメの巣のようなポケット。

 彼は崖から落ちたが、運が良いことにそれの中に落ちたのだ。


 俺たちは崖の端から、ひょこっとのぞいて見る。

 中は真っ暗で何も見えなかったが、

 ときおり物音が聞こえる気がした。


「おーい! 誰かいるか?」

 そのとたん叫び声が聞こえ、フィリップが姿を見せた。

「いるぞいるぞ! 助けてくれ! ここだ! 俺は王子だ!」

 枯れた声で叫び続ける。


 俺は上から大声をかける。

「兄上! ずいぶんとご活躍ですね」

「……レオナルド?! どうしてここに!」

「ロンデルシアに呼ばれたんだよ、兄上の代わりに働けってね」

「はぁ? お前なんぞ呼んでも意味が無いだろう」

 この状況を忘れたのか、いつものように悪態をつく次兄。


 俺は横を向いて悲し気に言う。

「兄上はここに、永住をお決めになったようだ」

「ちちち違う! やめろ! いいから早くここから出せ!

 そもそも、お前の護衛が役立たずだからこうなったんだぞ!

 全部お前の責任じゃないか!」


 あの三人の元・聖騎士団、どこまで逃げたやら。

 俺はフィリップに言い返す。

「兄上が強引に引き抜いたんじゃないですか。

 ……人のものばっか欲しがるからです」


 次兄はカッとなったのか、枯れたノドで怒鳴った。

「うるさいっ! 国に戻ったら父上に言って……」

「へえ、戻れると思っているんですか? これは驚きだ」


 俺の言葉に、兄上は恐怖で固まる。

「おい、冗談だろ?

 もう携帯食料もなくなり、雨水も減ってきたんだ」


 俺は”助けるかどうか迷っている風”を装う。

「どうしましょうかね。まあしばらくの間は、たまに見に来ますよ。

 でも、()()()()()()()()かもしれませんけどね」


 忘れたとは言わせない。

 俺が可愛がっていた珍獣ファルファーサを餓死させた件。

 さすがに兄上も覚えているようだった。


 しかし彼は大きく手を振り、予想外の言葉を叫んだ。

「いや、殺して……死なせてなんか、いないんだよ!

 実は……アイツには逃げられたんだ!

 俺が触ろうと思ったら大暴れして、

 噛みついた後、逃げやがったんだよお!」


 仕返しされたくないための嘘か?

 見極めるために、俺は試してみた。

「ああ、確かにファルは怒ると噛んだな。

 あんな()()()()なのに、噛まれると痛いんだ」


 次兄は頷いて聞いていたが、

 途中で”ん?”というように動きを止めてつぶやいた。

「小さなクチ? 俺は触ろうとした手を、なんか()()()()()()()ぞ?

 その後、()()()で太ももまで噛まれたんだ。本当なんだ!

 それで、そのまま回転しながらすっ飛んでったんだよ!」


 ……どうやら、本当らしい。

 珍獣ファルファーサは()()()()()()()ことが出来るのだ。

 激怒すると回転しながら飛び上がると言うのも、

 譲ってくれた行商人が教えてくれたっけ。


 ファルは餓死などしていなかった。

 俺はじわりと胸が温かくなる。

 横でフィオナが大喜びしている。


 俺はフィリップに向いて言う。

「では誓えるか? 

 ”ここを出たら俺の命令に全て従うこと”……どうだ?」


 フィリップは嬉しそうに叫ぶ。

「もちろんだ! 誓う、誓うぞ!」

 ”とりあえずそう言っておこう”

 そう思っているのが見え見えの笑顔じゃねえか。


「じゃあ、誓ってみろ」

 次兄は気安く了解し、大きな声で言う。

『おう! 今後、レオナルドの命令には絶対に従う! えっ?』


 自分の声質の変化に戸惑う彼に向かい、

 フィオナがちょこんと顔を出して言う。

「はい! ”神に対する誓約”を行いました!

 聖職者の仕事ですから!」


 彼女の手には、ロンダルシアに借りた”ご神体”があった。

 本来、神殿にあるべきそれが、

 まさかこんなところにあるとは。


 俺は綱を降ろしながらフィリップに言った。

「泣き叫んで逃げるなんて怖かったんですか? 正直言って」

 兄は顔を赤くし、怒り狂って言い返す。

「そ、そ、そうなんだ。ものすごく怖かった」

 そして目を丸くし、口を押えた。


 ”そんなわけあるか!”と言いたかったのだろうが

 正直に言ってしまう。”神に対する誓約”は絶対だから。


 俺は上がって来た次兄に、笑顔で告げた。

「ロンデルシアの人々に、全て正直に話してください」


 ************


 救出されたフィリップは、フィオナが体調を回復させた後、

 ロンデルシアからさまざまな尋問を受けた。


「なぜ泣き叫び、逃げ出したのです?

 あなたの経歴を正直にお話しください」

「すごく怖かったのだ。

 戦ったことはない。魔獣を見たのも初めてだ」


「風の魔力があるとのことですが、

 戦おうとは思わなかったのですか?」

「……属性は風だが、魔力レベルは……”1”だから無理だ」


 俺はそれで納得がいった。

 公示では”8”だったのに、まさか”1”とは。

 だから俺が攻撃力を”2”で2乗しても1×1=1、

 つまり変化がなかったのだ。


「そんなに弱いのに、なぜ討伐に参加したのです?」

「そ、それは。周りが全部やってくれるはずで」

 己の力のみを信じるロンデルシアからすれば意味不明だろう。

 フィリップが何かを誤魔化し、隠しているようにしか見えない。


「全部、とは?」

 その問いに、討伐未経験であるフィリップは具体的なことが言えない。

「だから全部だよ! 全部、良いように片付けてくれるってことだ!」


 皆が沈黙する。それはあたかも、

 自分が何もしなくても、部下が指令通りにやるのだと聞こえる。

 例えば、魔獣の襲撃。例えば、国宝の奪取を。


「……何か隠しているように見えますな」

 そう言って、ダルカン大将軍は睨みを効かせる。


 ついに核心にふれる質問をされる。

「今回の魔獣の襲撃は知っていたか?」

「知るわけないだろお!」


 これは本当だろ。あの慎重な腹黒国王が、

 こんなポンコツに重要な任務を与えるわけがない。

 俺と同様、捨て駒にされただけだ。


 しかし、たくさんの嘘が明るみに出た後だ。

 真実をいくら叫んでも信じてはもらえないだろう。


 たっぷりと”今回の襲撃は第二王子が主犯ではないか?”

 という空気がしっかり流れたところで。


 ロンデルシアの大臣たちに、俺は立ち上がって叫ぶ。

「兄は、シュニエンダールは無実です!

 貴国に対する信頼回復のためにも、

 俺たち4人がロンデルシア近隣の無主地へと赴任し

 我が国が友好国であることを証明してみせます!」


 シュニエンダールを代表し、ロンデルシアの国益のために働くのだ。

 もし国王がそれを止めるようなことがあれば、

 ”信頼回復の証明を拒否した”ことになるため、手の出しようが無いはずだ。


 俺は勝手に感謝し、オイオイと泣き出した次兄に、

 キラキラした笑顔でうなずいておいた。


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