ベランダから見る空
マンションの上層階にある自室のベランダの柵に寄りかかり周囲を見渡す。
最初に眼下に目を向ける。
いくつかの通りで殺るか殺られるかの戦いが行なわれていた。
人口の8割くらいの者たちが未知の病源菌に感染して化け物になる中。
偶々感染を免れているのか? 数パーセントくらい存在しているらしい未知の病源菌に対する抗体を持っていたのか? それとも、ギリギリ開発出来たワクチンを接種する事が出来たのか?
ある通りで軍の将兵や警察官に武装した民間人が感染者の頭を次々と撃ち抜き駆除している。
別な通りでは逆に逃げ場所を求めて右往左往している民間人が感染者の群れに取り囲まれ食われていた。
目を上に向けて行く。
いくつかのビルが焼け焦げて真っ黒になっていて、その中の数棟は未だに黒い煙を棚引かせていた。
斜め向いのマンションの一室のベランダでは、感染せず逃げそびれた女が1人大声で助けを求めている。
その大声に惹かれたのか、女が助けを求めている部屋の両隣や上下の部屋を含め周囲の部屋にいた感染者がベランダに出てきて、女の方へ腕を伸ばしながら呻き声を上げていた。
その隣の低層マンションの最上階のベランダには死を選ぼうとしたらしい首吊りした人がぶら下がっている。
ただ感染してから首吊りを行ったらしく、化け物になってジタバタと動いていた。
死を選ぶなら飛び降りて頭を道に叩き付けなくては、感染していても頭が潰れれば化け物にならないからな。
何故分かるかって言うと、ビルやマンションの下の道に多数の赤い染みがあってそれらの死体は動いていないからだ。
目をもっと上に向ける。
空の上は未知の病源菌が蔓延する前の日々のように、うららかな春の青空が大空一杯に広がっていた。