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4話 魔女との出会い

 それから少し時は流れ、時刻はお昼前となった頃。

 準備を終えて家を出発したアズメは、プライエス神父や護衛の騎士とともにフロウラの森を歩いていた。


「――それにしても、ここの森はなんだか明るいですね。森って言うぐらいだから、もっと鬱蒼(うっそう)として暗いイメージだったんですが」


 泥濘(ぬかるみ)ひとつない地面を踏みしめつつ、アズメは隣を歩く神父に語りかける。花粉対策のために布を二重にして鼻と口元を覆っているため、多少は口を開いても安心だ。


「そのようですな。話によれば、ここらの森は全てソルセリアの魔女が管理してきたそうです。ですから、この一帯も丁寧な管理がゆき届いているのでしょう」


 神父はアズメの言葉に笑顔で応じる。

 アズメもまた「そうなんですね」と相槌を打ち、辺りを軽く見渡した。


 森の中ではあちらこちらで木漏れ日が差し込み、暗い箇所はさほどない。倒木も一つとしてなく、適宜間伐もされおり、ある程度舗装された土道が続いている。自然な状態を崩しすぎない程度に丁寧な管理が行われている様子に、アズメは思わず感心した。

 

 そしてそのお陰なのだろうか、空気もかなり澄んでおり、花粉に弱くなければ思いっきり息を吸い込んで自然を全身で感じたくなるような、そんな森の香り(フィトンチッド)が漂っている。


 聞こえてくる音だってそう。ガチャガチャと鎧が擦れ合う音さえなければ、小川が流れる音やそよ風が木々を撫でる音が聞こえてくるかもしれないほど穏やかなのだ。


 ――フロウラの森。なんて素敵な場所なんだろう。

 アズメは()()()()()と例えてしまったことを、誰に言うでもなく内心でひっそりと反省した。



★―★―★

 


 そうして順調に歩いていると、アズメはある変化に気づいた。


「――そういえば、花の数がだいぶ増えてきましたね」


 そう、先程まで(まば)らに咲いていた花の数が、道を進むにつれて少しずつ増えてきているのだ。

 自然に増殖したのだろうか? それとも魔女が意図的に植えているのだろうか? どちらでも捉えられそうだが、恐らく後者だろうというのがアズメの予測だ。


「えぇそのようですね。であれば、目的地はもうすぐでしょう。……おぉ、見えてきましたよ」


 神父がそう口にした瞬間だった。

 急に森が開けたかと思えば、一面を花畑で埋め尽くされた小高い丘が現れた。そして、その丘の頂上に佇む木造の一軒家。まさにそれが――。

 

「魔女の住処(すみか)にございます」


 その事実を告げられるとともに、アズメの心臓は再び早鐘を打ち始めた。なんせ美しい女性と対面するのだ。思春期の青年が緊張するには十分な理由である。


 そんな(はや)る心臓を抑えながら丘を登っていると、気がつけば家の前にまで来ていた。ドクン、ドクン、と心音がどんどんと大きくなる。


 そしてそんなアズメを他所に、遂に神父がその扉をノックした――。


「ごめんください」


 程なくしてガチャリとドアノブが回されたかと思うと、中から現れたのは――。


「はい、どちら様でしょう?」


「……っ!?」


 目が覚めるほどに容姿端麗な女性だった。


 年齢は二十代代前半くらいだろうか、背中まで伸びた明るめの茶髪はサラサラとした髪質だ。そして垂れ下がった眉に、少し茶色がかった瞳が、吸い込まれそうなほど奥ゆかしい。極めつけは、純白のワンピースの上からでも分かるほどスリムな体型に、豊かに膨らんだ胸。


 男なら誰もが意識してしまいそうな、そんな風貌の女性は()()()()「美魔女」だった。


 ――この人がフラウェルさんか?

 もしこんな()()()と冒険が出来るのなら――と、アズメは期待を膨らませる。


 しかしその期待は、神父と女性のやりとりによって崩されることになる。


「初めまして、私はプライエスという者です。ヘーラー教会で神父を務めております。フラウェル=ソルセリア様にお会いしに参ったのですが、フラウェル様はご在宅でしょうか?」


「妹にご用ですか? 分かりました、少々お待ちください」

 

 女性はそう答えると、一度家の中に戻ってしまった。


 ――あれ? この人がフラウェルさんじゃないのか。

 アズメは一瞬疑問に思ったが、フラウェルという人物を「妹」と呼ぶあたり、先程の人物はお姉さんなのだろうとすぐに納得した。


 やがて家の扉が再び開いた。そして、そこから姿を現したのは――。


「私に何か用ですか?」


 ワインレッドの長髪をした、同年代くらいの少女だった。姉と同様に奥ゆかしい茶色の瞳をしているが、少し吊り目である点は異なっている。また、華奢な体つきをしており、赤茶色の衣服をその身に纏っていた。

 

 そんな少女に対し、プライエス神父は言う。


「初めましてフラウェル様。早速ですが、単刀直入に申し上げます。貴方は()()()()()()()()()()()として女神様に選ばれました。つきましては、こちらにいらっしゃる勇者――アズメ=ハンテル様と共に魔王討伐へ赴いていただきます」


 神父はアズメの方を軽く向き、その左の(てのひら)を彼に向けた。

 

「あぁどうも、初めまして。アズメ=ハンテルです。フラウェルさん、これからよろしく――」

 

 と、アズメが言いかけた瞬間だった。


「……はぁ、なに言ってんの? 急にやって来たかと思えば、素性の知れない男と魔王を討伐しに行けだって? 冗談じゃないわよっ! 私の人生よ! 勝手に決めないで!」


 フラウェルは怒りを露わにし、玄関の扉に平手を叩きつけたのだ。突然のことに、アズメは思わず体をビクッと震わせる。

 一方で神父は想定の範囲内であったのだろうか、慌てる素振りを見せず言葉を紡ぐ。


「フラウェル様、どうか落ち着いてくださいませ」


「落ち着けるワケないでしょっ! 女神だかなんだか知らないけど、私はそんなヤツの言葉に付き合うつもりはないから!」


「そうはおっしゃいますが、貴方もご存知でしょう?」


「……っ」


 神父の言葉の意味を察したのだろうか、フラウェルは口を閉ざして唇を噛んだ。神父は有無を言わさぬ視線を少女に送る。

 一方、言葉の真意を理解していたアズメは少女の心情を察していた。


 暫らくの間、静寂が辺りを支配する。

 やがて静寂を破るように口を開いたのは少女だった。


「……証拠は」


「こちらにございます」


 神父はそう言うと、アズメの時と同様に騎士の一人から白布に包まれた球体を受け取り、包みを剥いだ。

 すると、やはり水晶玉は『フラウェル=ソルセリア』の名を映し出しながら青白く光っていた。


「……分かったわよ。行けばいいんでしょ、行けば!」


「ありがとうございます」


 神父は少女の承諾に笑みを浮かべ、再び水晶を白布で包んだ。相変わらずの胡散臭さを醸し出していたが、アズメはもう何も思わなくなっていた。


「……それで、いつ出発すればいいのよ。まさか、今からとは言わないでしょうね?」


「いえ、流石にそこまでは申しません。五日後にゼアス城下にて出発式を行いますので、その日が正式なご出発となります」


「……その間に準備を終わらせろってことね」


 そう口にすると、フラウェルは大きくため息を吐いて。


「ほんっと最悪。面倒なことに巻き込まれたわ」


 と、肩を落とした。

 その気持ちを察したアズメは、フラウェルに話しかける。


「大丈夫です、俺も同じです。まぁとりあえず、これから大変な道のりになると思いますが、よろしくお願いします」


 アズメは右手を差し出す。だが。


「あーはいはい、そういうのいいから」


 フラウェルは右掌をひらひらと動かし、握手を拒否した。

 感じの悪いヤツだと思うと同時に、アズメは将来のことが不安になった。


 これが、アズメとフラウェルの出会いであった。

お読みいただきありがとうございました。

このシリーズでは初めて1か月空けずに更新できましたね。

次話もこの調子で更新できるように、なるべく頑張ります。

多分……。


この作品がお気に召しましたら、いいねや★、ブックマークをつけていただけると嬉しいです!

感想もお待ちしております!

それでは、次回もまたよろしくお願いします(→ω←)

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