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#01

「…だれ?」


 俺は、世界一可愛いであろう好みどストライクの美少女と、自室の洗面台の前で見つめ合っていた。


   ☆★☆   


 俺は佐藤(サトウ)健一(ケンイチ)

 ついこの前まで普通の高校生だった。

 ある日の放課後にクラスのマドンナに告白したら振られて、それはもうこっぴどく振られて、「え、なんで私と付き合えるなんて思ったの?」なんて言われて、自暴自棄になって走って家に向かって玄関を開けたらなんかすっごい光って、ぶっちゃけ自暴自棄過ぎて記憶も曖昧なんだが、気がついたら異世界召喚されていたのだ。

 そこからはトントン拍子だった。


 召喚された勇者は四人いた。

 光の勇者・小宮(コミヤ)流世(ナガセ)、氷の勇者・並姫(ナミキ)(トオル)、木の勇者・笹木(ササキ)将太(ショウタ)、炎の勇者・俺、佐藤健一。

 その中で群を抜いて能力値が高かったのが俺、顔面偏差値が高かったのが小宮と並姫で、存在感が薄かったのが笹木だった。


 ちなみに二つ名は気がついたら付いていた。

 由来に関しては魔法適性とか全く関係なくて、光のように笑顔が眩しい小宮、氷のようにクールな並姫、…俺と笹木はマジでわからん。

 笹木は存在感のなさかな?

 俺は元々能力値が高かったし、火力的な話か?


 小宮と並姫は召喚前も知り合いだったようで、顔面偏差値が高い者同士、仲良く騎士団の訓練に勤しんでいた。

 余り物の俺と笹木はインドア派同士、よく図書館に逃げ込んで「いや、ちょっと魔法の勉強してたんすよ!」で訓練から逃げ回っていた。


 まぁなんやかんや訓練もしたりして、元々の能力値とか図書館での勉強が実を結んだとかでそれなりに強くなって、歴代勇者最強とか言われたりして、笹木には「チートかよw」とか言われて有頂天だった。

 そのままのノリで、当時は四大魔皇と言われる魔王やら魔女やらがいたわけだが、俺一人で倒してやんよとか言った記憶がある。

 結局、俺は魔皇最強と言われる北の魔王と、西の魔女を、残り三人がパーティーを組んで東の魔竜と南の魔人をそれぞれ倒す事になった。

 勘違いしないでほしいのだが、決してぼっちだったわけではない。俺にもパーティーの仲間はいた。

 勇者はそれぞれ自分のパーティーを持っていたが、俺以外の三人は三パーティー合同の大所帯で魔皇達を倒しに行っただけだ。


 俺は爆速で倒した。

 まず北の魔王の城を目指し、四天王やらなんやらをバッサバッサとなぎ倒して魔王と相対した。

 ぶっちゃけ一人でも倒せたかもしれないが、それでもパーティーの仲間達のサポートがあったおかげで、スムーズに魔王を封印することができたのだ。


 その勢いで西の魔女の住処に強行した。

 西の魔女は北の魔王と比べて配下が少なく、その分それぞれが賢く強かった。

 苦戦したものの最後には魔女を封印できたわけだが、終わったと油断したところで生き残っていた魔女の配下に攻撃を受けたときはとても焦った。

 北の魔王の配下は魔王が封印されるや否や動揺が走り、そのままの勢いで倒し切ることができたのだが、西の魔女の配下は最後まで持てる力を使って戦い続けた。

 その勢いには俺達の方が気圧されたが、それでも流石勇者パーティーのメンバー、気圧されつつも誰一人欠けることなく、敵を倒しきった。


 問題はこの後だった。

 占領した西の魔女の住処を漁っていると、鳥かごの中に光る妖精のような何かがいた。

 俺がそれに触れた瞬間鳥かごが壊れ、妖精のような何かが羽ばたいて俺に口付けをした。

 そしてふわりと微笑むと、開いていた窓からひらひらと飛び立っていった。

 俺は動揺した。

 キスなんて生まれてはじめてだったのだから。


 その日の夜は、魔女の住処の近くの平原にある俺達の野営地で、帝都へ帰還する前に、魔皇を二柱倒した祝宴会を開いた。

 帝都まで持ち帰れない魔皇達のところからかっぱらってきた酒やご馳走を広げ、飲めや歌えの大騒ぎだった。

 俺は美味い肉を数口食べたところで、そっと袖口を引かれ振り返った。

 そこにいたのは俺のパーティーに所属する聖女・シャララだった。

 シャララに連れられるまま移動し、野営地の裏で、シャララは俺に告白した。


「ケンイチさん、魔皇を倒し切るまでは言わずにいようと思っていたのですが、北の魔王と西の魔女を倒した今だからこそ伝えたいことがあります。私、貴方に惹かれています。…とても。貴方の伴侶にしてくださいませんか?」


 上目遣いで顔を覗き込まれ、俺は言葉を失った。

 クラスのマドンナに振られた俺が、パーティー1かわいいシャララに告白されるとは。

 勇者となって頑張って鍛え、勉強し、魔皇を二柱も倒した俺はそれほど格好良くなったのか。

 感動と動揺が同時に襲いかかってきた俺は何も言えずにいると、シャララは少し目を伏せた。


「お返事は急ぎません、帝都に帰るまでにお答えをいただければ嬉しいです。話を聞いてくださってありがとうございました。」


 そう言って祝宴会に戻っていく後ろ姿を見て、俺はなぜ何も答えられなかったんだと自分を責めた。

 あんなに悲しそうなシャララは見たことがない。

 俺は姿が見えなくなったシャララを追いかけて祝宴会に戻った。

 するとパーティーの斥候・チャーリーが声をかけてきた。


「あのさ、ケンイチ。あたし、アンタによく突っかかってたけど、本気じゃないからね。…好きだから…ってなんで驚いてんだよ! こっちまで恥ずかしくなるだろ…!」


 いつもしかめっ面で、俺のすることなすこといちいち全部に文句を付けてきたチャーリーが、顔を赤らめて笑っている。

 俺は動揺した。

 さっきまでシャララの気持ちに応えようと思っていたのに。


「いや、返事はいいよ? 今じゃなくても、さ。帝都に帰るまでにさ、教えてよ。あと二、三日はあるだろ。じゃーなっ」


 チャーリーとの話が終わると、いつも寡黙なパーティーの魔術師・アリアが声をかけてきた。


「私、ケンイチのこと、好き。ケンイチがいたから、魔皇退治、頑張れた。ありがと」


 帝国騎士団から派遣された、誇り高い女騎士・リーリア。


「はじめはお前のことをやる気のない男だと思っていたが、違ったな。お前は凄い男だった。お前の強さに惚れたよ」


 帝国軍部から派遣された、お姉さん気質の軍師・トワル。


「素晴らしい戦略でした。流石ですね。私、貴方のことが好きになってしまいました。」


 まるで俺の話が終わるタイミングを見計らっていたかのように、入れ替わり立ち替わり、次々と女の子達が俺をあっちへこっちへ連れて行った。

 俺は驚いた。まさに人生の山場だ。モテ期がキている。俺の時代だ。


 結局、俺のパーティーや魔皇討伐で同行していた未婚の女の子達の殆どが俺に告白してきた。

 宴の後、夜が明けたあとは全員まるで何事もなかったかのように、帝都への帰還が始まった。

 だけど、隣を歩くシャララは少し距離が近い気がするし、目が合ったチャーリーはウインクしてきた。

 アリアは薬になると言ってこっそり花を渡してきたし、リーリアは剣の手合わせをしたあとに握手を求めてきた。

 トワルは俺の寝癖をそっと直してくれたし、他の女の子達もいつもとは何かが違っていて、やはり昨日のことは現実なのだと知った。


 帝都への帰路も半ばを過ぎたあたりで流石に違和感を覚えた。

 西の魔女の住処でキスをしてきた妖精が、何か魅了の呪いでもかけたのではないだろうか、と。

 ちょうど近くにいた、パーティーの仲間で俺に告白してきた一人の、弓使いのキッカに尋ねた。

 いつから好きだったのか、西の魔女のところで違和感はなかったかを。


「ケンイチ様はさ、私がドジでも笑わずにいてくれたじゃない。だから私、はじめてパーティーに入れてもらって、私が失敗して落ち込んでたときに声をかけてもらった、その時からずっと好きだったんだよ。…西の魔女の住処でさ、何か妖精みたいなのがケンイチ様にキスしてたから、ちょっと焦っちゃったのはあるかな。迷惑だったらごめんね、私、やっぱりまた失敗しちゃったかなぁ…?」


 俺に魅了の呪いはかかっていないらしい。

 まぁ帝都の協会には解呪師もいるから、帰ったらそこで確かめよう。それよりも…

 他の数人にも尋ねたが、みんなずっと前から俺のことを好きでいてくれたようで、これ以上彼女達を疑うわけにはいかない。

 不安がっているキッカには、大丈夫、もう少しで答えを出すと伝えた。


 帝都帰還予定日の朝、一人で顔を洗っていた俺のもとに、パーティー仲間の中で唯一俺に告白しなかった、剣士のネアが俺のもとに来た。

 いつにも増して俺を睨んでいる気がした。


「あんた、他の子達にどう答えるつもりか知らないけど、馬鹿なことはしないようにしなさいよ」


 ネアは俺のパーティーの母体となった、もとは有名な実力派パーティーのリーダーだった。

 その後も俺がいないときは、このパーティーをまとめてくれていた。

 ネアのことだから意味のないことはしないと思うが、一体何のことを言っているのか全くわからなかった。


「じゃ、忠告はしたから」


 そう言って去っていくネアの後ろ姿を見送りながら、俺は一つの決意をしていた。

 みんな俺のお嫁さんにしちゃえばモメることもないんじゃね、と。


 野営地を片付け終わったタイミングで、同行しているメンバーに、俺は全員の想いに応えることにしたと告げた。

 反対意見も出るかと思ったが、みんなとても喜んでくれて、この選択をしてよかったと思った。

 唯一ネアが人を殺せるくらいの眼力で睨んできていたことだけが気がかりだったが。


 帝都に到着すると、既に凱旋パレードが準備されており、一晩中宴が開かれた。

 そこではじめて他の勇者達の話を聞いたが、彼らは二日ほど前に東の魔竜を倒したところで、今は南の魔人のもとへ向かっているところらしい。

 他の勇者の帰還はもうしばらくかかりそうなので、一先ず俺の凱旋パレードを行い、他の勇者達も揃ってから改めてパレードを開く予定らしかった。


 次の日、王様に俺の結婚について相談していると、突然やってきた第一王女・フィレーネがそのまま俺の手を取った。


「ならばわたくしもケンイチ様の伴侶に加えてください。貴方が召喚されたときからずっと好きでした。一目惚れでしたのよ…?」


 これには俺も絶句した。

 王女にはもっと良い人がいると思う。

 それこそ光の勇者とか氷の勇者とか。


「わたくしにとってはケンイチ様が一番なのです。他の人など貴方の隣に立てば途端に霞んでしまいますわ」


 それを聞いた王様が、ならばと言って、俺に与える予定の土地に俺の後宮を創る許可をくれた。

 そこにはもうすでに俺用の屋敷が建っていて、空き部屋がたくさんあったため、最上階である四階を俺の部屋や執務室などの俺の空間にして、一階を大広間や客間などの来客用スペースに、地下を使用人達の部屋にして、残った二階と三階を後宮スペースにすることにした。


 帝都に帰還してからは、貴族からも平民からもラブレターがたくさん届いた。

 俺はその娘達も後宮に加えることにして、一つのルールをつくった。


 それは、俺の後宮では身分は関係ないこと。

 身分制度のない日本から来た俺にとっては、貴族や平民の身分差がずっと気持ち悪かった。

 だからせめて俺の後宮では身分差はなく、みんな仲良く暮らそうというルールだ。

 これも反対意見が出ることは覚悟していたのだが、王女のフィレーネが反対しなかったからなのか、すんなりと受け入れられた。


 まだまだ部屋は有り余っているので、希望者はどんどん受け入れた。

 流石に持ち物のチェックとかはしてもらったが、俺自身がとても強いのだ。

 暗殺者が紛れ込んでいようが、撃退すればいい話なので、大して身辺調査なんかはしなかった。


 他の勇者達が最後の魔皇、南の魔人を倒したという吉報を聞いた日、俺は俺の後宮が完成したことを喜んでいた。

 王様が奮発してくれた俺の屋敷は、俺の魔法や職人たちの技術でどんどん拡張され、部屋はまだまだ余りがある。

 そのため後宮の受け入れは絶賛受付中なわけだが、俺の魔皇討伐の後処理が終わり、俺自身がようやく自分の城に引っ越すことができたのだ。


 一足先に引っ越し終えていた女の子達との顔合わせも兼ねて、一階の大広間で俺の引っ越しパーティーを開いた。

 貰った魔皇討伐の報奨金で俺が送ったドレスに身を包んだ彼女達はとても美しく、可愛く、格好良く…

 あちこち見惚れながら、女の子達からの挨拶を受けた。

 パーティーメンバーなどの知り合いは割と砕けた挨拶だが、初対面の女の子達は割と緊張していた。


 宴会も終わり、俺は自室で俺の後宮に頬を緩めていた。

 明日からは寝ても覚めても俺のことを好きな女の子達でいっぱいの俺の城に住んでいるんだ。

 異世界の成人年齢は十五歳であったため、あまり慣れていない酒をたくさん飲んだからか、意識がふわふわしていた。


 いつ眠ったのかわからない。

 ふと目を覚ましたときには深夜だった。


 なんだか未だふわふわする頭を揺らしながら、いつもと違うような気がする体の感覚に首を傾げつつ、部屋にある洗面台の前に立った。

 洗面台に備え付けられた鏡に映り込んでいたのは、好みの美少女。

 酔ってるからって幻は良くないぞと思いつつ、顔を洗ってもう一度鏡を見つめる。

 水に濡れた好みの女の子は、俺をじっと見つめて首を傾げた。


「…だれ?」


 あまり呂律が回っていない可愛い声が、静まり返った洗面台に響いた。

 不思議そうに俺を見つめる美少女は、キョロキョロと周囲を見回し始めた。

 そして俺は気がつく。

 鏡に俺自身が映っていないことに。


 俺は自分の体を見つめた。

 小さな手、細い手首、膨らんだ胸、…あれ?


 ガバっと勢いよく顔を上げて美少女と目を合わせる。

 じっと覗き込んで、手を振ってみて、ようやく気がついた。


「俺、女の子になってる!?」


 残っていた酔いの感覚は一瞬で消え去り、今度ははっきりとした女の子の絶叫が洗面台に木霊した。

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