三日月夜
常識、倫理、道徳、何もかも都合のいいこじつけに聞こえる。意識の端にちらつくすべてが目ざわりで、耳ざわりで。
けれど君の愛する世界なら、それは大切なものだろうと思えたんだ——。
おかしいだろう。
朝日も月光もうんざりするほど目にしてきたというのに。
ふらりと出かけた夜の散歩で、君と出逢って初めて『光』を見た気がしたんだ。
あの日から——君の光は、俺の世界のすべてになった。
「この花は月下美人っていうの。私、この花が一番好きよ。静かに夜に寄り添っているみたいで」
ああ、ならば踏み潰さぬよう、君のように大切にしよう。
「気持ちのいい夜ね。満月の夜は聖なる力が満ちるのを感じるわ」
そうか、君を笑顔にできる満月とはなんと素晴らしいものだろう。
君の魂は何よりも美しく、清浄で、近寄りがたいほどに眩しくて。
そんな君の愛する『世界』もきっと、美しいものなのだろうと信じて疑わなかった。
愚かな俺は気付かなかった。
俺を魔王と呼び畏怖する人間たちが、聖女を生贄に選んだことも。
素晴らしい夜の記憶を抱いて眠る間に、俺の棲み処目掛けて崖の上から彼女を投じられたことも。
物音に気付き目を開けたときには、すべてが終わっていた。
——そして、すべてを終わらせた。
ああ、世界は君のために存在したのに。
果てのない静寂。
月下美人と見上げた夜には、二度と満ちることのない月が嗤っていた——。
活動報告にイメージ画をアップしました。