99話:ベルガンテ祭、開催!
ベルガンテ祭は二日に分けて執り行われる。
子供好きの妻を祝う初日――≪アセンテの微笑≫。
昼の活動と子供が好きそうな催しをメインとする日だ。
そして、酒好きの旦那を祝う二日目――≪ベルガーの豪笑≫
夜の活動と酒飲みが好きそうな催しをメインとする日だ。
「師匠とデ~ト~♪ 師匠とデ~ト~♪」
悩みとは無縁そうな笑顔を浮かべるマリアンネと、まるで温かく見守る親であるかのような目を向けるネルカは、多くの人だかりの中をかき進んでいた。まだ早朝で始まったばかりと言えど、すでに人は多い。
そして、二人はとある屋台の前で立ち止まった。
「へい、おばちゃん! そのフルーツ盛り、二人分ください!」
「あいよ…って、あんた! まさか『南地区の聖女様』かい!? それにそちらの…ん? えっ! その特徴! 『死神様』じゃないかい!? どういうこったい…。」
「エヘヘ~。アタシたち親友なんですぅ~。」
二人は容姿的にも知名度的にも非常に目立ってしまうため、町の人から度々話しかけられたりする。マリアンネに関しては元より町娘であり、商人方面で有名なため見られはしてもスルーされることが多いが、ネルカに関しては有名の方向性が違う――老若男女問わず握手を求められる。
「そうかいそうかい! 二人に来てもらったとなりゃ、ウチも箔が付くってもんだよ! ほらよ、せっかくの出逢いだ、おばちゃん、ちょっとオマケしちゃったよ!」
「「ありがとうございます。」」
二人は近くの空いたスペースに行くと、壁に寄りかかりながらカットフルーツ盛りを食べていた。この世の幸福をすべて受けたかのような顔をするマリアンネを見ながら、ネルカはふと思ったことを口に出した。
「そう言えば…ねぇ…ダーデ義兄様は誘わなかったの? 王都に残るって聞いてるけど。」
「ぐふっ!」
「あら、それはどういう反応かしら?」
「研究が忙しいと………言われました。」
魔道具作りにマリアンネも参加するようになってしまった結果、ダーデキシュの研究者魂に火がついてしまった。おかげで祝い日も使ってまでして研究室に入り浸りという羽目になり、研究仲間であるオドラもまた実家に帰っていないのだ。
「うぅ…自分の行動が自分の首を絞めるなんて…。」
「それは残念ね。」
「そう言う師匠だって…祭に限らず、普段から婚約者といないじゃないですか。」
「私たちは特殊だし、ソレでいいのよ。」
「あっ、特殊という自覚はあったんですね。」
後悔したところでどうにもならないと気持ちを切り替えると、彼女は残ったフルーツをすべて口の中に掻き込み、まだ食べきってないネルカの腕を掴んで無理矢理に歩き始めた。そして――
いくつかの屋台を食い歩きしたり、大道芸を見たり――
ネルカがファンに群がられて、ファンサービスしたり――
ネルカを男だと勘違いされ、デート割り引きをしてもらったり――
ヤマモト連合の人たちに会って、ネルカを紹介したり――
祭りが始まって三時間ほどが経過する頃には、マリアンネの頭の中からはダーデキシュのことはすっかり消え去ってしまっていた。ちなみにネルカもまたあまりの楽しい時間に普段あまり見せないほどの明るさを出しており、何人もの道歩く男女や隠れ護衛騎士たちに新たなる癖を植え付けたりしていた。
そんな至福の時間の内、マリアンネはある露店で立ち止まった。
「あ~! 見てください師匠! ≪繋ぎの斑魔石≫がありますよ!」
「繋ぎの斑魔石…?」
そこには紐がと推せる程度の穴があけられた、黄色と灰色が斑に入り混じった石が並べられていた。確かに見た目こそ珍しそうな石であるが、凝った削りがされているわけでもなく、売られている金額もかなり安い。
すると、店主と思わしき男が身を乗り出してきた。
「おっ、嬢ちゃん。斑魔石のことを知らねぇかい? だったら教えてやるよ――」
そもそも魔石というものはいくらでも手に入ることが出来るのだが、すべてが魔道具に使用できるというわけではない。というのも、魔力の系統の相性がいいもの同士だと、混じってしまって斑魔石と呼ばれる物になってしまうからだ。
つまり、これらに魔石としての価値はない。
「だがよぉ、この黄色と灰色…これが大事なんだ。」
「そうなんです! さぁ、おじさん! 師匠に教えてやってください!」
「おう! それがよぉ…黄色はアセンテ様の魔力の色で、灰色はベルガー様の魔力の色なんだ! つまり初代国王夫妻の結婚石ってわけだな! それだけじゃねぇぜ? 互いにこの色の斑石を送り合ったらよ…世黄色の魔力がベルガー様の身を守り、灰色の魔力がアセンテ様を守ったつう逸話もあんだよ!」
昔は、恋愛石として売り出されていた。
しかし、恋人のいない(哀れな)人たちの努力の末、今では――夢が叶う石――として扱われるようになってしまっている。紐を通してベッドの横に吊るすことで、いつか夢が叶うだとかなんとか。
「師匠は何か将来の夢とかあるんですか?」
「夢ねぇ…。そう聞かれると、そんな大層なものはないわ。」
「じゃあじゃあ、欲しいものとか!」
「あっ、それならあるわ――」
彼女はふっと微笑むと、懐から財布を取り出して二個分のお金を店主に渡す。そして、適当に二つの斑魔石を手にすると、一つをマリアンネに差し出した。彼女はわけも分からず受け取ったが、ネルカに頭を撫でられると口を緩ませた。
「今日みたいな幸せの時間――もっと欲しいわ。」
そんなネルカにマリアンネは顔を真っ赤にさせる。
そして、感極まった彼女は破顔するとネルカに抱きついた。
願いは同じ、ならば二人分、絶対に叶えてみせる。
そこには確かに幸せな時間があった。
そして、近くにいた人々を(いろんな意味で)狂わしたのだった。
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