表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その令嬢、危険にて  作者: ペン銀太郎
第一部:第8章:武闘大会
84/198

84話:エキシビションマッチ③

ガドラクは幼少の頃、病気により家を出ることができなかった。

現在の筋骨隆々からは想像できない程、貧弱な体に生まれたのだ。


――数分歩くだけで息が荒くなり、

――リンゴより重い物など持てるわけもなく、

――過ごす時間の大抵はベッドの上だった。


親が侯爵家の使用人という立場だったからこそ、金と伝手は持っていることもあって、彼の元に多くの医者が訪れた。しかし、いずれの医者も彼の病弱さを治すことはできなかった。


そんなとき、一人の旅人が彼の人生を変えた。

旅人は家の前で腹を空かして、生き倒れていたのだ。


ガドラクの両親は旅人を助けた。


その旅人は数十年も色んな地域の飯を食う旅しているようで、生まれは遥か遠くの東洋出身ということであった。そして、彼の故郷では魔法と呼ばれるものが存在せず、代わりに【氣功術】と呼ばれる技術が発展していた。


氣功術――それは氣を操る技術。


氣――と名前こそ違うが魔力とは同種のエネルギーである。ただ、呼び方や扱い方が違うだけである。魔術は体の外に出すことを得意としてるのに対し、氣功術は体の内側で循環させることを得意としている。


一宿一飯の恩義を感じた旅人は、ガドラクに対して氣功術を教えたのだった。彼の両親は初めこそ気休めにでもなればと思っていたが、その結果は成功も大成功で――現在に彼が最強であることがその証拠である。


ちなみに、手練れの氣功術使いは身体構造の操作が可能であり、おかげで彼は通常時はその巨体はなりを潜めていたりする。つまり、ネルカに並ぶ高身長も――戦斧を振り回す姿も――彼にとってはなりを潜めた姿なのだ。


氣功術によって得た健康体は、留まることを知らないが如く成長。


もはや人間の域を超えるほどまでになったのだった。



 ― ― ― ― ― ―



「――このままでは…マズいのぉ。」


その呟きをネルカは聞き逃していなかった。

意味深な台詞に対して彼女は一瞬だけ考えたが、それでも攻撃の手を緩めることだけはしなかった。そして、言葉の意図はすぐに体験することになる。


「なっ!?」


大鎌がガドラクの腕で止まった。


そう、止まったのだ。


本当に人間に攻撃したのかと彼女は疑問に思った。

耐えられただとか防がれただとか、そんな表現ではなく言葉の通り止められたのだ。何か特別なことをしたわけではない、彼はただそこに立っているだけにも関わらず。


背中に悪寒が走ったネルカは、思わず距離を離してしまう。


「本気を出させてもらうぞ、ネルカ嬢。」


次の瞬間、ガドラクの体が膨れ上がった。

何をどうしたらそうなるのか理解不能なネルカは、ただ変身していくガドラクを茫然と見ることしかできなかった。彼女だけでなく団長の本来を知る者以外の観客もまた、口を開けて見止まってしまっていた。


「え…? あ…いや、どうなってんのよ…その体。」


――ネルカですら少し見上げてしまう身長。

――およそ同じ人間とは思えない筋肉量。

――ネルカ史上トップクラスの威圧感。



しかし、紛れもなくガドラク・ワマイアだった。



「ガッハッハ! 難しいことはワシも知らんわい! 根性じゃ根性!」


ちなみに、氣功術がスゴイわけではない。

ガドラクがおかしいだけである。

いくら身体構造をいじれると言えど、ここまではない。


「よし! それじゃあ、続きをするぞ! ネルカ嬢よ!」


ガドラクは右足を振り上げると、地面へと叩きつけた。

そのあまりの衝撃に地面にはクレーターができ、振動が結界から漏れてコロシアムの至る所がひび割れ、飛び散る石砂がネルカを襲った。そして、力の反作用によりガドラクの体は前方へと跳び、瞬きの暇もないほどの時間でネルカへと肉薄する。


振るわれた拳に対して咄嗟に鎌の柄でガードをするも、見事に破壊されそのまま胴に攻撃を受ける形となった。ガードのおかげで勢いこそ軽減されたものの、それでも本日最大のダメージにネルカの口から空気が吐き出される。


「グッ!」


「まだまだ!」


隙を埋めるように繰り出された二度目の拳を避けようとしたネルカだったが、左肩に直撃してしまう。体が悲鳴を上げているのではと思うほどの音がして、彼女の体は後方へと勢いよく吹き飛ばされた。


身体は地面から離れ、踏ん張りが効かない状態だった。


(このままじゃ、壁にッ!)


彼女が纏っている黒衣に魔力を込めると、ローブが大きくなり横へと広がっていく――その姿はまさしく【鴉】。空気抵抗により勢いが軽減されていき、地に足が着くようになると、両手に手鎌を生成して地面へと引っ掛ける。


「面白い使い方をするのぉ!」


殺気はないが――死の気配をネルカは感じ取った。

いつの間にかさらなる追撃に迫っていたガドラクに、ネルカの体は意思を無視して鎌を振るっていた。理性が働くよりも先に、本能が彼女の行動決定権を支配したのだ。



気付けば、手鎌には刃ができていた――

気付けば、ガドラクが反応できない速度で右側面へと――

気付けば、全力の一撃が――首を狩りに行った。



バギンッ――そう音を立てて鎌が壊れた。



折れた刃が首に数ミリ刺さった状態になっている。

首の筋肉による白刃取り、ガドラクはそれを成したのだ。


「ぬぅん!」

「フッ!」


しかし、両者は気にすることなく動いた。


両手を組んでハンマーのように振り下ろすガドラク。

折れていない方の手鎌を、眼球へと向かって振るネルカ。


試合の域を超えた殺し合いに、騎士団各部隊の猛者たちが制止のために動いていたが、あと十数メートルというところで間に合わない。このままでは二つの攻撃が、それぞれの致命傷へとつながり――









――寸止め。


【皆さまへ】


コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。


そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。

なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。


よろしくお願いします!








~~オマケの設定紹介~~


【ガドラク・ワマイア】


王宮騎士団第一部隊の隊長 かつ 騎士団全体の総団長。

父親が侯爵家従者の中でも上位だったので、実家は金持ち。


幼少期は非常に貧弱な体をしており、家から出ることのない日々を過ごしていた。ある日、氣功術を習得したことにより一転、ムキムキな体を手に入れ、最終的にはもはや人外と言えるほどまでに成長してしまった。


こうして彼は『最強』と呼ばれるようになった。


初期年齢61歳。身長190前半(日常用)。

肉体開放をしたら210前後、魔力膜が無くとも刃を防げる。

細かいことは「ファンタジーだから」で済ませて、お願い。


元金髪で現在白髪だけどフサフサ。髭もあるよ。


性格:部下思い・実はオカルト話が苦手


好きな食べ物:とにかく味が濃いもの

嫌いな食べ物:特に無し

好きな人間:自分を相手でも叱ってくれる女性

嫌いな人間:人を貶すことで自身の価値を上げようとする人


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ