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その令嬢、危険にて  作者: ペン銀太郎
第一部:第8章:武闘大会
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80話:試合開始と訪問者

「うぅ…師匠の雄姿…見たかったのに。」

「アハハ~、それでネルちゃん、観客席にいるんだね~!」

「で、でもマリ様! 明日になったら見れるんですよ!」

「コルネ…じゃなくて、ネルカ様! さすがですわ!」


試合は最後の最後ということで初日はすることもないため、結局のところネルカは観客席にいるマリアンネたち元へと訪れた。そこにはローラ、フェリア、ヨスン、アミルダの四名も揃っていた。

周囲の他の者たちは現れたネルカに驚いたものの、特別マッチが組まれたことについて聞き耳を立てていた。うわさ話として出回るのも時間の問題だろう。


「もう、私の試合はいいわよ。ほら見なさい、初戦の選手入場よ。」


一同がそちらを見ると、確かに二名の選手が入場するところだった。

どちらも騎士科の生徒である。


向かい合った二人は刃のない剣を胸の前に掲げると、お辞儀をして数歩後ろに下がった。そして、銅鑼の音が響き渡ると同時に、二人は肉薄して鍔迫り合いの状態に、観客は声を出しての大盛り上がりだった。


「…すごい盛り上がりですね。ちょっと見てて怖いですけど。」


その言葉にネルカは(確かに大衆娯楽としては…過激よね。)と思った。見たところ、さすがは選ばれた者たちだということだろうか、選手たちは今から騎士団に配備されても問題ないぐらいには動けており、武器は刃が無いもので魔力膜だって張ってある。

しかし、だからと言って絶対安全というわけではない。


その問いに答えたのはフェリアだった。


「あら、マリアンネさんはコロシアムの結界についてはご存知なくて?」


「あっ、はい。」


「ここのコロシアムに掛けられた結界は、観客を守るため…もありますが、選手を守るためでもありますの。中にいる人たちは痛みや衝撃はあるけれど、傷ができないように守られます。現在の魔法技術では再現できないと言われていますけれども…。それに、治癒魔法の使い手も控えていますの。」


「それで…皆さん、安心して盛り上がっているんですね。」


「そうですわ。…あら、勝敗が決したようですわ。」


フェリアの言葉通り、片方の選手の手から剣がはじき飛ばされた。


苦笑しながら負けの意志を見せる者

手を差し出して起き上がらせる者


――その姿に観客は湧き上がっていた。


純粋に騎士の戦いが見えて喜ぶ者、賭け事をして一喜一憂する者、将来性が如何ほどのものなのか見定めようとする者など、意図や気持ちは様々であるが盛り上がっていることは確かだった。


その後、数試合が行われたが、熱意は減るどころか増すばかりだった。



 ― ― ― ― ― ―



昼の時間となり一時的休憩時間になったが、観客席はそれでも熱狂冷めずの様子だった。なのだが、ネルカたちの周辺においてだけはひたすらに静かで、原因となっているのは一人の少年だった。


見た目の年齢こそまだ一桁だろうか。

しかしながら、醸し出す空気は大人のソレと同じだった。


少年は王宮騎士団第二部隊の面々に守られながらネルカの元に現れ、少年の髪色が銀色であるのを見て皆は静かになったのだ。そんな周囲の様子に少年は見渡しながら微笑んでいるが、誰も気を緩めることはしなかった。


「らくにしてよい。みながたのしんでいるところにかおをだしたのは、わたしなのだからな。きをゆるめてくれ。……して、そなたがネルカどのか?」


「え、ええ…私がネルカ・コールマンよ。」


「うむ、わたしはエラト・ベルガーだ。よろしくたのむ。」


ベルガー――それは王家の名。

第一王子の息子。マーカスやデインにとっての甥っ子である。


「リゼが『かっこいいひとにであった。えーゆー!』などというから、きになってあいにきたのだ。そうか、そなたがネルカなのだな。わたしからも、れいをいおう。」


その言葉にネルカは朝助けた少女のことを思い出す。

高位の者であるとは想定していたが、まさか王子と親しく話すほどの仲だとまで思わなかった彼女は驚いた。しかし、(それにしても…英雄…なんてね…フフ。)と嬉しい気持ちの方が勝ってしまい、ついつい頬が緩んでしまっていた。


「せっかくのきかいだ、はなしをしないか? おじうえたちからネルカのなまえはきいていたが、ずっとあってみたかったのだ! たのむ! できればきやすいかんじでな。」


「私で良ければ。」


「それではさっそく…。きょうのしあい、ネルカがひょうかするものはいたか? もしかしたら、いつかはわたしをまもるものになるかもしれん。どうだ、おしえてくれまいか?」


「あの、殿下には申し上げにくいですが、今の段階では言えかねないわね。確かに彼らは剣士として優れているわ…だけど、騎士に優れているかどうかは…騎士団に入ってから鍛えられるものなの。」


「ほう…それはどういうことだ?」


「一つ目の試合が分かりやすい例ね。剣を弾かれて…負けを認めたでしょう?でも、あれが本番なら彼は切られているし…守る相手も守れていないわ。負けを認めるのは剣を失くした時でなく、剣を失くして次の一撃を食らったときなの。」


「だが、それでは『きしどうせいしん』とやらが――」


「彼らの仕事は人を守ることよ。どんな手段を使ってでも守り抜く…そこに騎士道精神など価値はないわ。きっと殿下をお守りしておられる方々もそう思っているでしょう。」


その言葉にエラトは周囲の騎士をグルりと見やった。すると彼らは現実を突きつけることに一瞬だけ躊躇いながらも、最終的には全員が肯定するように首を縦に振る。


エラトはしばらく何かを考えるように顎に手を当て俯いたが、すぐに顔を上げるとキリッとした表情をしていた。幼ないながらも頼もしい姿に、やはり王子なのだなとネルカは感嘆した。


「ならば、わたしも『おうじ』であらなければならないな。」


彼の芯の通った声に、護衛を含めた周囲にいた者たちは皆、お世辞など一つも無く称賛の呟きを漏らしていた。ネルカはこちらを見る目を正面から受け止め、微笑みつつもゆっくりと頷いた。


「う~ん…もうすこしはなしもしたいが、ごごのしあいが、どうやらはじまるようだ。ちちうえのところにもどろう。うむ、きょうは、いいはなしがきけた。かんしゃするぞネルカ。」


そう言ってエラト一行が立ち去ると、周囲は興奮醒めぬ様子で騒がしさを出していくが、ネルカだけは静かに目を細め背中を見つめていた。


しかし、ふとコロシアムの中心の方へと目をやると、ちょうど次の選手が入場するところだったらしく、同時に彼女の視線は渇き冷めたものへと変わったのであった。




――入場したのはウェイグ・ハーランドだった。





【皆さまへ】


コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。


そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。

なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。


よろしくお願いします!


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