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その令嬢、危険にて  作者: ペン銀太郎
第一部:第8章:武闘大会
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78話:武闘大会に出よう

ある日、ネルカは廊下で一人の男性教師に呼び止められた。

彼女はその教員のことも横に立っている生徒のことも知らなかったが、体格や雰囲気からして、普通科ではなく騎士科の者だと予想を立てた。そして、彼女の予想は当たっていた。


「俺はバーグ、騎士科の教師だ。そしてこいつはオーバル・グレイソン…騎士科における生徒会長とでも思ってくれて構わねぇ。」


生徒の名前を聞いてネルカは何か引っかかるものを感じて、その正体にすぐに気付いた。確かオーバル・グレイソンは聖マリの攻略者の一人、つまりマリアンネと絡みがあるはずだった人物だ。


辺境伯の長男であり、聖女の学園内での護衛役でもある。

くすんだ金色の髪と剛毛な短髪、顔はもちろんイケメンだ。


しかし、聖女としては覚醒していないうえに、現在の彼女の護衛を担っているのはネルカ。だからこそ、これまで絡みが一切なかったのだろう。


「は、はぁ。初めまして…えっと…私に何か…。」


「突然だがネルカ嬢。武闘大会に出場してもらえないだろうか?」


「武闘大会…?」


武闘大会――それは年に一回開かれる騎士科のトーナメント。

教員推薦の3人、予選で勝ち上がった8人、外部参加の5人――合計16人が二日かけて戦う日である。目的は将来有望な騎士を見定め、時によってはスカウトをするためである。


なんと言っても、この大会は王家が観戦のために来る。

優勝者は騎士としての大成の道を一歩踏み出すことになるのだ。


「ふ~ん、そんな大会があるのね。」


一対一のタイマン、審判の戦闘続行不可判断あるいは本人の敗北宣言により勝敗が決まり、支給された刃のない武器を使用、魔法の使用は可、欠損あるいは致命に繋がる急所は控える――これが主なルールである。


「それで? 私はそこで何をすればいいの?」


「察しがいいんだな。そうだ、ネルカ嬢を誘ったのには理由がある。それは…騎士科のプライドを一度ズタボロにしてほしいんだ。」


「プライドを?」


「あぁ、今年は殿下が学生としているだろう? そういう年ってのはどうしても生徒数が多くなっちまう。それだけならいいんだが、どうも調子に乗っちまう奴も多くてな…家来作って勝手振る舞ってる奴がいんだよ。俺は夜会のことは詳しく知らねぇが、つえぇんだろ?」


「だから…私がプライドをねぇ。その役目はグレイソン様ではダメなのかしら。見た感じ…あなたは強いと思うんだけれど。」


「おっ、あのネルカ嬢から直々に誉め言葉をくれるのは嬉しいなぁ! まぁ、でもねぇ、僕は将来は実家継ぐからさ、この大会で勝っても仕方ないんだよ。本当はトムスくんの役割なんだけど…彼、まだ療養中だからさ。」


「なるほど…。」


別に出ること自体は問題ないネルカであったが、その対象者の顔を拝んでみたい気持ちもあった。そういうこともあり、とりあえず三人は騎士科の方に移動することになった。



 ― ― ― ― ― ―



騎士科のグラウンドではちょうど三年生が鍛錬授業を行っており、木刀を手にペアを組んでの打ち込み練習を行っていた。すると、彼らは現れたネルカの姿を見つけると、どうしてこんな場所にいるのかといった表情をしていた。


隣のオーバルがそこにいる生徒についての解説をしているのだが、そんなことは彼らに聞こえるはずもない。手が止まった彼らは授業を担当している教員に怒られ、しぶしぶ鍛錬を再開させたのであった。


「予選から上がって来そうなやつは…アイツとアイツ…あと、調子に乗ってんのが、あそこで組み相手を一方的に叩いてる奴。それと…あれ…ウェイグはどこに――」


「――おいオーバル、俺様を呼んだかぁ?」


するとオーバルの背後に一人の男が立っていた。

茶髪にソフトモヒカン、いかにも好戦的ですと言わんばかりの顔立ち、ネルカと目線が合うほどの高身長――彼こそが騎士科の最大の問題児であるウェイグ・ハーランド。騎士爵家の息子であるのだが傲慢な性格で、何でもかんでも暴力で解決すると思っている節がある男だ。


ウェイグはジロリとオーバルを睨んでいたが、飄々としている彼の反応に興味を失くしたのか、目線を隣にいるネルカへと向ける。


「あ? 誰だテメェ? もしかして…女か?」


「あら、私もなかなかの有名人だと思っていたのだけれど、もっと目立つことしなくちゃならないみたいね。初めましてウェイグ様。ネルカ・コールマンよ。よろしくね。」


握手をして友好を深めようと差し出す彼女に対し、馬鹿にされたと憤ったウェイグはその手を払うと、彼女の頬を掴んで顔を寄せる。


「おい、嘘つきクソカス女。」


「あら汚い言葉使いね。それに嘘つき呼ばわりの覚えはないわ。」


「黙れ、黒血卿を倒したのが女だと聞いていたが、本当は嘘なんだろぉ? 嘘でチヤホヤされて調子に乗ってんじゃねぇよクソアマ。」


「そう思ってるのね。いいわ、勝手にそう思っていなさい。誰が強くて、誰が勝って、誰が真実かだなんて…当日になれば分かることじゃない。」


「あ? 当日だぁ? まさかテメェ…武闘大会に出んのかよ?」


ウェイグはその手を離すと訝し気にネルカを見る。公式の大会に出るということは人に見られるということ、それでも構わないと言っているということは、目の前の女はもしかして本当に強いのかと考え始めていた


「まっ、そういうことよ。決勝で当たる対戦表だったら良いわね。」


もう騎士科を見る必要がないと判断した彼女は、手をヒラヒラさせながら普通科棟へと帰っていった。彼女が考えていることはただ一つ、こういう輩をどう仕留めようかということだけだった。


そして、特に何かが起きることもなく、大会の日は訪れる。





【皆さまへ】


コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。


そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。

なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。


よろしくお願いします!


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