表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その令嬢、危険にて  作者: ペン銀太郎
第一部:第7章:閑話集〈出番薄き者たち〉
77/198

77話:マーカス・ジ・ベルガー

スキンヘッドの集団が援助活動を行っている――そんな話が国中に出回っている。なんでも国王の帰還を滞らせた土砂崩れを退かし、干ばつ被害のあった地域に用水路を作り、魔物が増えたとなれば討伐へと向かう。


知識や技術があるわけでもない。

金の支援をするというわけでもない。


だが、力だけは有り余っている。

元騎士に元荒くれの筋骨隆々集団なのだから。


「オラオラオラァ! 今日もやってやんぞぉ!」

「力仕事と言えば俺らの仕事よぉ!」

「っしゃぁ! お頭ァ、頼みますぜぇ!」


そのスキンヘッド集団の正体は元・犯罪者たち。


側妃家系による国の乗っ取り計画に参加した中でも、やむを得ない事情がありかつ更生の余地の者たちによる、贖罪のためのボランティア団体だ。その中の大半が生活のために日々を削ってきた貧民で、教養も礼儀もない者たちばかりであった。

ちなみにスキンヘッドの理由は決意表明的なものであり、特に深い理由は無かったりする。


「あ~あ~、お前らほんと毎日うるせぇなぁ。」


そんな集団を統率するのはイケメン男。

お頭と呼ばれる男の髪は――銀色だった。


銀色のお頭――マーカス・ジ・ベルガー。


国の第二王子であったが、母親のクーデター失敗に伴い、自身も贖罪集団の一人として活動していた。仮にも王子ということなのかカリスマ性はピカイチで、どのような活動を行ったとしても部下たちは文句を言わず、むしろ行く先々で部下の数を増やしているほどであった。


勢いを増していく彼らは国内の問題を解決していく。

人生の転落から、這い上がろうとしていたのであった。




「お頭ぁ~、迷子ってやつじゃないですかい?」

「うるせぇ…黙って俺に着いてこい。」


そんな彼らは今、森の中にいた。


事の発端は――どこの国に属しているというわけでもない部族がおり、それまでは互いに不干渉ということで過ごしてきたのだが、ここ最近にどういうわけかコチラ側に来て暴れている――そんな助けを求める声を聞いて訪れた。



誤算と言えば、部隊とはぐれてしまったことか。

ちなみに、別れた片側の部隊には案内人がいるので、迷子になっているのはどちらかと言えばマーカスの方である。何とかスキンヘッドたちには誤魔化しているが、マーカスはちょっとだけ方向音痴な人間だった。



そんな、精神が疲弊し愚痴を言わなくちゃやってられなくなってきた頃、ガサガサと言う草木が揺れる音がしたかと思うと、彼らの前に数人の者共が現れた。それらは腰部胸部を葉で作られた服と、白と赤が塗りたくられた木のお面を付けていた。


「ウ~ババァ! メリス デル ウウィババ!」


その特徴をマーカスは聞いていた。

目当ての部族――バルリラヤッテ族である。


集団のリーダーらしき人物が、手に槍を持ちながら近づいてくる。

そして、何か捲し立てるように言葉を出すのだが、言語があまりに違う。

案内人がいないこの状況で、会話ができる者は仲間にいないのだった。


「何言ってるか分かんねぇよ…お頭ぁ~。」


だからこそ彼らが頼るのはマーカス以外にはいない。元王子であるという肩書きは、彼らにとってのなによりの安心要素だった。どんな苦行でも、どんな慈善活動でも、リーダーがマーカスだからこそ彼らは着いて来るのだ。


「しょうがねぇ奴らだな。俺に任せな。」


マーカスは手に持つ剣を腰に仕舞い、中腰のままリーダー格に近づいて笑顔を作った。敵意が無いことを分かってもらえたのか、リーダー格は槍を少しばかり下げる。それを見たマーカスは口を開いた。


「ビュールブア、ベアッヘ、アバババ。」


「ドゥンムル、ドゥンムル、アベーバ!」


「デルデルダバ、バハーハ。」


「フゥンムメッシアジバーブ、リンディバダダバ!」


スキンヘッド集団にはリーダーがどんな会話をしているのか知らないが、それでも徐々に後退していく相手の姿に、交渉は上手くいっていることを確信した。


「さすが! お頭だぜ!」

「うぉ~、元王子は伊達じゃねぇな!」

「おっかしら! おっかしら! おっかしら!」


盛り上がるスキンへッズへと振り返ったマーカスは、親指を突き立て満面の笑みを浮かべる。あとは部族が暴れている理由を探って、原因の元を断つだけである。この元王子に着いていけば、その先には成功が必ず待っているのだと皆は信じて疑わなかった。




その時、マーカスの頬を矢が掠めた。




生じた傷口から血がタラリと顎へと伝わっていくのを見ながら、一同が何が起きたのか理解できていなかった。しかし、叫び声と共に森の奥から部族たちが武器を持って現れるのを見ると、その傷が彼らによるものだとさすがに理解した。


「お頭ぁ! 仲良くなったのではなかったんすか!」


悲鳴をあげつつも抜剣した彼らに対し、部族リーダーの槍の一突きを手でつかんで防いだマーカスは、ヤケクソと言わんばかりの大声を出した。


「あいつらの言葉なんぞ、知っているわけないだろう! そもそも俺はデインやケルトと違って勉強が嫌いだ! 10歳の妹よりも頭悪いんだぞ!」


「「「「えぇ~!」」」」


「こういうのは雰囲気だけで何とかなると思ったんだよぉ!」


槍を引き寄せて相手の顔面を殴り飛ばしたマーカスは、剣を抜くとスキンヘッドたちと共に部族の元へと駆け出した。



 ― ― ― ― ― ―



後日、王城に報が届くことになる。


――マーカス部隊が森で部族と交戦


――なんとか戦死者ゼロで森を脱出


――ただ一人を除いて


――マーカス・ジ・ベルガー、絶賛単身遭難中






【皆さまへ】


コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。


そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。

なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。


よろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ