68話:変わった関係
訓練観察も飽きてしまい、ネルカの足が赴く頻度も減ってきた頃、彼女の放課後は暇を多くするようになってしまった。初めの方こそエレナと二人で過ごしていたが、マリアンネがいないと何だかもの寂しい。
昼や休日は問題ない。
平日の放課後――これをどうするかが問題だ。
「そうだわ、きっとローラ様はぼっちのはずよ。」
「ネルちゃんも大概に酷いこと言うよね~。」
そして、もうすでに寮に帰ったと聞いた二人が見たのは、三人の女子とつるんでいるローラの姿だった。彼女たちはどこかの寮部屋に入っていった。
最初こそ殿下絡みの件が終わったことで、友達が出来たのかと思っていたネルカだったが、その周囲のメンツをなんとか思い出せた。
伯爵家令嬢のフェリア、男爵家令嬢のヨスンとアミルダだったはず。
(あの人たちと…あの日…私会っているわ。)
あの日――それは彼女が男装してローラとデートした日である。
そう、彼女たちはローラにつっかかって来た三人組だった。
まさか、ローラは――
「ローラ様! 助けに来たわ!」
気付くや否やネルカは行動を起こしていた。
ネルカが押し掛けたのはヨスンとアミルダの二人部屋だった。
学生寮には――ネルカたちがいる寮に一人部屋と二人部屋の二種類が、近くにある別棟に従者付き用部屋が――合計三種類がある。ちなみに、部屋の配分に関しては『金の支払い』『予約の先着順』であり、ネルカは一人部屋であるが無理に詰め込んでメリーダと二人で暮らしている。
そして、ネルカが開けたドアの先で見たのは、部屋の真ん中に置かれた丸テーブルを囲って、四人が楽しそうに茶を準備している姿だった。急な登場に四人は驚いた様子で、彼女の背後ではエレナがやれやれといった表情をしていた。
「ネ、ネネ、ネルカ様!?」
「あ、あら? 予想と違って…なんだか楽しそうね。」
「ま、まぁ…あの一件を考えると、そう思いますよね…。」
「ええっと…これは…どういう集まりで…?」
するとフェリアは満面の笑みを浮かべてネルカの元に駆け寄ると、その両手を握って嬉しそうに口を開いた。
「ここは淑女反省会ですわ!」
「しゅくじょ…はんせいかい…。」
「ええ! ローラ様の本音を聞き…ネルカ様の活躍を聞き…私たちは反省しましたの! そして、同時に大事なことに気付きました! …私たちが偉いから貴族ではなく、ご先祖様が偉いから貴族…と。だからこそ! 私たちは…私たちだからこそ貴族だと言われる人間になろうと決意しましたわ!」
夜会が終わって決意を固めたあと、三人はわざわざローラの実家である公爵家に手紙を出し、家に直接伺って親がいる前で彼女に謝罪をしたのだ。まさか娘がそんな目に遭っているとは思わなかった両親が、顔を赤くさせて三人にブチギレて――『お父様、お母様…私が弱かったのも…問題なんです。』――被害者であるはずのローラが制止させたのだった。
確かにイジメる側は悪いけれど、自身にも非があったことは確かなのだから、最初に怒るのは自分にしてくれ――そう頑として譲らない娘の姿に公爵夫妻は心を抑えた。
その後、さすがに御咎めなしというわけにもいかなかったのだが、謹慎期間が終了したあとに今度はローラが三人の家に行き、友達になってくれたら許すと伝え――現在の関係に至るということであった。
「アイナ様やマルシャ様、令嬢の鑑と言われている方はいますわ。ですが! 私はローラ様も負けず劣らずの令嬢だと思っていますの!」
「い、いやぁ…私はまだまだだよ…。」
「「「そんなことないです!」」」
何はともあれ今のローラが幸せそうなのだから、あの時に協力したことは無駄ではなかったとネルカは内心喜んでいた。これならもう自分は退出しよう、彼女がそう思ってエレナに声を掛けようとしたとき、そのエレナは部屋の壁を見て立ち尽くしていた。
「エレナ?」
「………。」
その視線の先を追ってみると、どうして今まで無視していたのだろうと不思議に感じるほど、壁や天井の至る所に紙が貼ってあることに気付く。そして、その紙に書かれているものにネルカもまた絶句した。
絵だ。どれも人物絵。
描かれ方はバラバラ、服装や雰囲気もバラバラ。
しかし、いずれの人物も中性的顔立ちで――髪が赤い。
「あの…これは…違ってたら恥ずかしいけど、私よ…ね?」
どこからどう考えてもネルカである。
コルネルの時の姿だけならまだ分かる――が、ネルカとしての彼女の絵も描かれており、なんなら今まで一度もしたことがない俗に言う『カワイイ系』の格好の絵もあった。
「ネルカ様で間違いないですわ。これは決意とは別、趣味ですの。」
「しゅ、趣味…?」
「コルネル様はネルカ様の男装姿であることも聞きました。最初は驚きましたしガッカリもしましたが…。よくよく考えてみたら…それはそれで…グッとくるものが。そういうのがあってもいいんじゃないか…と。」
鼻息を荒くしてネルカの両手を掴むフェリア。
その後ろではヨスンとアミルダも迫っており、フェリア以上に必死なのか目をバキバキにして紅頬させていた。ネルカがドン引いていることなどお構いなく、三人は早口で声を荒げた。
「普段はスッとしていて、垣間見せるユルッ!」
「しかも、その表情を見せるのは女友達だけ!」
「女性同性による禁断の…キャ~! たまりませんわぁ!」
三人の様子に、ネルカはアイナの取り巻きの一人である目隠れ黒髪を思い出した。興味の方向性は違うかもしれないが、本質の部分は非常に似ている。もしかしたら、目の前の三人の脳内では、とんでもない妄想が繰り広げられているかもしれない。
「初めは男だと思っていたマリアンネさん。」
「女と知っても…想いは冷めない。クゥ~!」
「そこに横槍を入れようとするマルシャ様!」
世の中は色んな人がいる。こういう人もいる
そういう人もいたのだから、こういう人もいるのは当然か。
次はどういう人に遭遇してしまうのだろうか?
ネルカの視野がさらにさらに広がった瞬間であった。
【皆さまへ】
コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。
そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。
なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。
よろしくお願いします!
~~オマケの設定紹介~~
【フェリア】
伯爵家の長女。
最初は一回きり出番の予定だったため、姓は未設定。
作者の気まぐれで、いつの間にか追加されてるかもしれない。
ローラをいじめていた人間の一人。
ローラは恵まれた人間であるはずなのに、「私は弱いです。相応に生きています。」感を出している彼女に腹が立っていた。ネルカと出会い変わったローラに感化され、今では彼女と和解をしている。
ネルカの男装姿を見てしまったことで性癖が少しばかり歪んでしまい、イケメンであるなら男も女も関係ないと思うようになってしまった。しかし、これは自身の恋愛観であり、見る分には話は別――女性同士の関わりを色々妄想するように。
初期年齢15歳。身長は170前半。
王都アルマ学園・普通科第四教室・一年生
金髪・リボンデザインのバレッタを色違いで使い回す
性格:人間は中身より外身 → 人間は中身と外身
好きな食べ物:果物を使ったスイーツ
嫌いな食べ物:特になし
好きな人間:イケメン・決断力のある人・清潔感のある人
嫌いな人間:人に見られる努力をしない人・不安定な人