67話:変わった人
あれから、訓練自体は二日毎にしているようだったが、ネルカは週に一回に見に来るだけで満足していた。ちなみにエレナは一回だけ見に来たが、すぐに飽きてしまいそれっきりだった。
気が付けばネルカはアイナ一行と仲良くなっており、巷では「殿下の命令でアイナ様の護衛をするようになり、コルナールの師匠にもなった」だとか噂されていたりするほどである。
そんなある日――
「……。」
「ロズレア様…どうして私を見つめるのかしら?」
どういうわけかロズレアが彼女を見つめるようになっていた。
ロズレア・カレンティ――平々凡々な子爵家二女で、二年生第三教室。
言葉数は少ないのだが、なぜかネルカに友好的な目を向けることがある。
また、時々口元を緩めてメモ帳に何かを書くことが多かったりもする。
「私のこと、無視して、コル…ネルカさん。」
「無視って言っても、そんなに見つめられたら落ち着けないわよ。」
「ロズレア、何か聞きたいことがあるのではなくて? そのような態度をされるより、さっさと訊いてしまうほうがネルカさんも落ち着くってものでしてよ。」
さすがにアイナからの促しとなれば、何度か手元のメモ帳へと目を泳がせながらも、ついには観念してロズレアは口を開く。
「では…コルネルさんと、ネルカさん、どういう関係?」
「コルネル? あぁ…そんなこともあったわね…。あれはローラ様を助けるための、私の男装姿よ。今になって思えば…ちょっと恥ずかしい体験だったわね。」
「で、では、コル…ネルカさんの、御兄弟、仲良いですか?」
「…? まぁ、他の兄弟知らないけど、仲いい方なんじゃないかしら? 私個人としてはナハスお義兄様といるときが一番落ち着くけれど、。」
「ありがとうございます。フヒヒッ…。」
どうしてそのようなことを聞いてきたのか理解できないネルカだったが、ロズレアはなんだか満足したようでメモ帳に一心不乱に何かを記入している。アイナはその様子にどういうことか理解したのか、呆れの溜息を一つ入れると気持ちを切り替える。
「ネルカさんのお兄様と言えば…確かネルカさんは、お兄様…その…ナハス様…との出会いがきっかけだったとお聞きしましたわ。そのことは本当でして?」
「えぇ、本当のことよ。あれは狩りに行く道中だったわね…遥か頭上を炎の魔法が飛んでいくもんだから、興味本位で見に行ったら、魔物に襲われている人がいて助けたのよ。まさか、従兄で、しかも自分を探しに来たなんて思わなかったわ。」
「あらあら! なんと不思議な偶然ですこと!」
「最初はあまりにも驚いたものだから、上手く思考もまとまらなくて、空返事しかできなかったわね。コールマン家来ないかという誘いも、確か…何となくで了承してしまったわ。」
当時のことを思い出したネルカは、無意識に笑みを浮かべてしまっていたが、その表情を見たロズレアが急に机に突っ伏してしまった。先程から訳の分からない行動をする彼女であるが、ネルカはどうしたのかと彼女を揺すってみる。
すると、突っ伏しながら何かを呟いており――
「―――――助けられたナハスは何かお礼ができないかと訊いた。するとコルネルは『お前の体が欲しい』と言う。こうして夜の関係を持った二人であったが、初めは恩義によるものだったナハスも彼のことを気に入ってしまうのであった。『俺の元に来い、コルネル。』気が付けばそんな言葉を発していたナハス。しかし、彼には懸念点があった…それはきっと自分の兄弟は確実にコルネルを気に入ってしまうだろうということだった。そうなると自分だけの彼にはならなくなる。言葉を慌てて訂正しようとするナハスであったが、コルネルの満面の笑みを見てしまった彼は、どうにも断ることもできな―――――」
ネルカは顔を上げて、目をシパシパと瞬かせた。
アイナを見ると目を背けている。
ベティンを見ると首を横に振っている。
「なるほどね…アイナ様もベティン様も…大変そうね。」
「いつものことですので、お気になさらず。」
「まぁ、コルナールの暴走に比べたら…。」
ネルカは彼女が持っているメモ帳を奪い取ると、その内容をパラパラと読み始めた。そこに書かれているのはリアルに存在する男達が、実名で絡み合うという同性愛的な物語だった。
――好きになったのは婚約者の…!?
――無垢な弟、秘められた兄の想い。
――初恋は老いた執事、でも俺は…。
もしも当の本人たちがこのメモ帳を見てしまったら、ドン引いてしまうこと間違いなしなストーリー展開。コルネルとしてある意味本人であると言えるネルカも、(せめて偽名を使いなさいよ!)という気持であった。
「そして今…コルネル様、エルスター様、殿下、絡み合いは加速していくッ! 『ダメです…私の婚約者はアナタの双子の妹ですよ!』『ねぇエル、僕への愛は偽物だったの?』。そして加わるマーカス殿下…『俺の弟に何をする』。 あぁ、禁断の四角関係が! 愚腐腐、捗る、たまらない、愚腐腐腐。」
彼女がアイナの取り巻きにいる理由はただ一つ、その方がイケメンを見る機会が増えるからというだけである。公爵家に取り入ろうとする男どもを筆頭に、婚約者候補ということで関わることになる王家三兄弟や王宮騎士団――どれもこれもロズレアにとって極上の存在である。
「ハァ…世界は広いのね…。」
世の中は色んな人がいる。こういう人もいる。
ネルカの視野がさらに広がった瞬間であった。
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