65話:相思相愛?
校門での一件が経ってから一週間。
当然のように年代問わずに拡散されてしまったネルカであったが、それに対して周囲の動きは様々であった。この恋路をただ見守っていきたいと思う頭花畑の者、今ならデインの懐に入れるのではと思う者、彼女がエルスターの弱点になるのではと企む者、鬼に金棒の婚約コンビが出来たと恐れおののく者などである。ちなみに最も多いのは第三者として関わらないという判断の者であった。
ある日の夕方、校内ベンチで話し込んでいる二人組の男の会話もまた、ネルカに関することであった。
「惜しいことしたなぁ。ネルカ嬢にアプローチしとくべきだった。」
「そうだな。俺なんて親に怒られたよ。どうして見逃していたんだ~って。」
そして、彼女を取り込んでいればと思う者もいる――騎士科の者たちだ。
夜会の時に怒りに身を任せた彼女の動きは多くの者が見ていた。そして、戦いを知らない者からすれば、『強いとは思うけれどベルナンドには難なく止められた。黒血卿を倒したというのは、何か有利な状況があったからではないか』と思われる。
しかし、戦うということを知っている者からすれば、『あのベルナンドを以てしても、ロルディンと二人掛かりでなければ止められなかった。ならば、黒血卿もあるいは…』という評価になる。
となれば、彼女の価値というものはエルスターによるものではなく、彼女自身に見出すというのは当然のことである。それに――騎士科に来る者の半分近くは、共に戦ってくれる伴侶を一度は妄想するものである。
「アレでオレらの一個下かぁ。騎士科の目指すべき先を思い知らされたぜ。」
「実はな、俺ちょっとあの時、ネルカ嬢の動きには感動したよ。」
「分かる~、オレらの妄想あるある通りだよな。」
とは言いつつも、彼らはネルカの領域に立つために、どれだけの才能と時間を必要するのか分かっている。だからこそたどり着く結論は――
「「ほんと、エルスターには勿体ないよなぁ!」」
そして、誤解する。
エルスターの一方的なものであると。
そして、知らない。
ネルカからの気持ちもあることを。
そして、気づかない。
背後にネルカが立っていること。
「ねぇ。」
「「ヒッ、ヒィ!」」
「盗み聞きみたいで申し訳ないけど、エルがどうかしたかしら?」
「「ネネネネ、ネルカ嬢ォ!?」」
その男二人は慌てて立ち上がり振り向くと、そこには確かにネルカがいた。しかし、彼女はちょうどのタイミングで来たような表情をしており、その横にいるエレナからもその様子が読み取れた。
「で、何の話をしてたのかしら?」
「いやぁ、お二人はお似合いだなぁって話をよぉ! なぁ? お揃いって感じ?」
「あ、あぁ、そうだぜそうだぜ! やっぱネルカ嬢にはエルスターだよな! 気が合ってそう的な、な。」
必死にその場を濁すべく、ただ弁明を垂れ流す二人であったが、対する彼女の反応は不服といった感じであった。
「お似合い? それ本気で言ってるのかしら?」
「あぁ! 違う! 違う! なぁ?」
「そそそ、そうだ! 勿体無いって話だ!」
「はぁ? つまり、相応しくないってことかしら! そんなことは許されないわ、ねぇ、具体的にどこらへんが、相応しくないのかしら?」
詰め寄るネルカに二人組はどう答えればいいのか分からないといったようであった。肯定すれば嫌な顔され、否定すれば焦りだす。どこに地雷が隠されているのか分からない状況なのだ。
そんな時、助け舟を出したのはエレナだった。
「ネルちゃんはエルスター様のことが好きなんだよね?」
「えぇ、そうね。」
「でも、同類とは思われたくないってこと?」
「そりゃ、そうじゃない。だってアレよ。同類だなんて思われたら、私恥ずかしくて人前に出れないわ。」
「うーん…好きだけど嫌いで、でも愛しているのは確かで…あれ? ボクも頭がこんがらがってきたぞ…んん?」
「何を悩んでいるのよエレナ。あなた正解を言ったじゃないの。そうよそうよ、嫌いだけど、愛してるの。」
満足気にうなずく彼女であるが、置いてけぼり状態の残り三人はただ納得がいかない様子だった。
好きかどうかなら好きじゃない。
愛しているかどうかなら愛している。
――理解不能の感性。
とりあえずもう少し話を掘り下げるべきだと判断したエレナは、情報を一つずつ確認するべきと口を開く。
「そもそもの発端は?」
「そうね…ありきたりで普通な感じで申し訳ないのだけど…最初に引っかかりを覚えたのは、エルを踏みつけた時ね。まさか私があんな気持ちを抱くようになるとは思わなかったわ。」
(((そんな普通があってたまるか!)))
「で、なんやかんやあってエルが仮死状態になったのよ。その時に取り乱した自分がいて…あとあと思ったら…私…やっぱり好きなのかなっ…。」
(((なんやかんやって何! 何があった! こっちを知りたい!)))
「もうね、ナスタ卿の左手を斬った時には…メ、メロメロよ!」
(((結果は甘いのに過程がヒドイ!)))
「仮に…仮によ? エルが他の令嬢に『黒血卿をどうにかしてくださいね。』だなんて言っていたら…私、嫉妬でどうにかなっちゃうかもしれないわ。」
(((その依頼を果たせるのはアンタぐらいだろ!)))
一連の話を聞いて、奇しくも男二人と親友一人の表情は同じであり、奇しくも男二人と親友一人の理解もまた同じであった。三人は互いの顔を見て頷き合うと、それぞれがネルカに対して口を開いた。
「まぁ、ネルちゃんが良いってなら…ね。」
「そうだな! お幸せにな!」
「アイツの世話を頼んだぜ!」
――理解するべきでないことが理解できた。
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