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その令嬢、危険にて  作者: ペン銀太郎
第一部:第5-2章:避暑地における休息的アレコレ(後編)
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52話:暴の力/防の力

そこで繰り広げられているのは、もはや怪獣対決。

体長数メートル同士の戦いに参入できる者などいない。


こうして、黒霧によって魔力によるサポートが効かない中、トムスは純粋な生物の種による膂力を以てしてコルネクスと取っ組み合っていた。現在の彼が思考できることはただ一つ――主の命令を遂行することだ。


『ガァァァァ!』

『ふんぬぅぅぅっ!』


およそ知能があるとは言い難い殴り合い。

コルネクスは黒魔法の球体人間の中にいるわけなのだから、本来は突破不能の要塞鎧であるはず。それなのに、トムスが殴るたびにまるで効いているかのようによろめく。


対するコルネクスも負けじと反撃するべく、拳部位に棘を生やして殴り返す。いくら魔物の力を借りているとはいえ魔力膜もない状態、頬に突き刺さって振り抜き裂かれる。


しかし、顔の傷は5秒も経たないうちに修復される。


『その化物の力を使って、俺らの国と戦争を起こす予定か! ベルガンテ王国、貴様らはなんと外道な集団だ! この俺様が成敗してやる!』


再びに繰り出される殴り合い。

壮絶さながらに互いの勢いは落ちない。


『馬の速度ならまだ追いつける算段だが、どうやら貴様を倒さなければ通してはくれぬようだ。それでいて、なかなかタフな野郎……ならば、これはどうだ!』


コルネクスは跳んで距離を取りながら、着地までの間に球体モードへと変形させる。しかし、今度はその正面部位には鋸状の刃が生えており、回転しながらトムスへと突撃する。


『ゴガァ、ガァァァァ!』


それは避けようと思えば避けれる攻撃であったが、トムスの思考は主を守ることしかなく、それを正面から受け止めたのだった。右肩がガリガリと削られ、右頬の皮がすり減っていく音を聞きながら、次第に回転は弱まっていく。


肩から腹にかけてが完全に裂かれており、さすがの重傷なのか修復よりも重力に負けてしまい、徐々にながら崩れ落ちようとしていた。それを見たコルネクスは人型モードになると、膝を付いてうな垂れているその頭を掴み、万力のように力を込めていく。


『見上げた忠誠心だ! 俺様はそういうの嫌いじゃないぞ! 化物と外道という言葉だけは撤回してやろう! しかし、憎き敵なことには変わらん!』


骨が悲鳴を上げる音が聞こえる。

耳から血が溢れ出る。

眼球が今にも飛び出そうとする。



そして――



「よくぞ殿下をお守りしたな! トムス坊よ!」


口元に黒魔法のマスクを装着したアースが、掴むその手を切断した。


ある一人の少女が状況を打開しうるマスクを持ってきたあと、彼は部下を大きく二つに分けた。マスクの枚数の限りを人形兵と霧を展開させている元凶に向け、それ以外を少女と共に主の元へと向かわせたのだ。


そして、自身はトムスのサポートに。


『ザコはすっこんでろ!』


コルネクスは咄嗟に斬られていない方の黒魔法の手で殴りかかるが、アースが数倍の体長相手に取った行動は、手に持つ小盾を突き出すというだけであった。いくら身体強化が可能になったとはいえ、これだけの攻撃を防げるはずもない――


――はずだった。


『なっ!? 防いだだとッ!?』


王宮騎士団第二部隊隊長アース・ローイ――二つ名は『鋼綿騎士』。

彼は体中に張り巡らせている魔力を液体として捉えることによって、体にかかる衝撃を自身の足へと受け流す技術――【鋼綿】を持っている。総団長ガドラクから身体内の魔力の扱い方を学んだ末の技術であった。


魔力膜の斬撃耐性も相まって一見すれば無敵のように思えるが、魔力の粘度を相手の攻撃に合わせる必要があったり、受け流す先がなるべく攻撃に対して垂直であった方が良かったりと、制限付きゆえに万能盾と言うわけではない。


しかし、目の前の知能の欠片も無いような巨兵の、地面に対し垂直に近い振り下ろし攻撃ならば、十数発ぐらいは問題なく受けれるほどには緩衝することができる。


「おいトムス坊、いつまで寝てる! 起きんかい!」


彼の恫喝と共に怪物は再起する。

未だに修復しきれていない右半身を無視して、左手でコルネクスを殴りつけるが、消耗している現在の彼ではその巨兵をよろめかせることすらできない。むしろ、反撃の殴りつけを顔面に受けてしまう。


「トムス坊、策がある。合わせろ!」


アースは持っている剣をトムスに突き刺すと、手を下に振り下ろす要領で自身の体を持ち上げる。三回の縦回転を経由してその胸部までたどり着くと、今度は多量の魔力を込めた蹴り飛びを行い、相対するコルネクスにすさまじい勢いで突き刺す。


『フハハハハ! 何をするかと思えば、ちんけな攻撃か! 見てみろ、ミリ単位でしか突き刺さってはないではないか! 俺様の元までは辿り着けんぞ!』


「いいや、これで……良い!」


『なんだと?』


「トムス坊! 今だ! 俺ごとやれ!」


トムスは咆哮を上げると魔力を空になるまで高め、すべてを一撃の殴打に詰め込む。命令通りにその拳の先はアースの方へと向かい、まるで彼ごとその巨兵を叩き潰さんとする勢いだった。


衝撃により無傷とは言えないが、この一撃ならコルネクスは耐えきれる。

彼の纏う黒魔法の堅さは、それほどのものなのだ。


だからこそ、問題はない。


(何がしたいのか分からんが、俺様の勝ちだ! 盾の男は死に、怪物は確実に魔力切れになる!)




本来なら――




「鋼綿ッ!」


アースは迫る拳に小盾を差し向けた。


その衝撃が受け流す先は――剣。


面である拳なら耐えれるかもしれないが、今は点である剣。

しかも、数ミリとは言え内部に入っている状態だ。




『ぐ、ぐおぉぉッ!』




その衝撃は黒魔法の球体に穴を開けた。


露わになったコルネクスの本体は、百メートル先までバウンドを繰り返しながら吹っ飛んでいった。目視でどうなったかは分からないが、生きているなどあり得ないだろう。





【皆さまへ】


コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。


そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。

なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。


よろしくお願いします!








~~オマケの設定紹介~~


【アース・ローイ】


王宮騎士団第二部隊の隊長。

曽祖父が子爵家の次男で、彼自身はもう平民。

息子二人いるが、そっちは騎士にはならなかった。


小盾と直剣を扱う戦闘スタイル。

体内の魔力を使って衝撃を緩和させる技術を持っており、完全に状況が一致した時の感触が「綿を殴っているみたい」ということから、【鋼綿】と呼ばれている。


昔はベルナンドと共にデイン専属護衛を務めていた時期もあり、そのため彼とその側近たちのことは孫のように思っている。特にトムスはお気に入り。


初期年齢54歳。身長170台後半。


ハゲ進行を隠すためにいっそのこと剃った(昔は茶髪)

そして、それなら突き抜けちゃえという理由で、眉も剃っている。


性格:豪快・面白いことが好き


好きな食べ物:肉を使った鍋料理

嫌いな食べ物:茶

好きな人間:からかい甲斐のある奴

嫌いな人間:特になし


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