51話:(回想)忌み子:トムス・ダッカール
ダッカール子爵家は禁忌の一族と言われていた過去がある。
これはまだダッカール家が侯爵であった頃、何世代も遡るような先祖の話。
彼らの先祖はことあろうか、とある禁忌に触れてしまった。
騎士の家系である彼らは国のため、民のために強さを欲していた。
そして、実験の過程で多くの命を奪ってしまったのだ。
その禁忌の名は【魔物融合実験】――その名の通り魔物と融合する実験。
成功したと思われる侯爵自らを使った最終実験でさえ、一年だけの英雄という結果に終わってしまった。こうして多くを救ったが、同時に多くを奪ったこの実験は――禁忌として扱われることになった。
ただし、そんな忌避も時間が過ぎれば風化していくものであり、今となってはもはや『そんな話も聞いたことあるような…もしかしたら祖父母に聞けば分かるかも?』という程度となっていた。
―――トムスが生まれるまでは―――
「せ、先祖返り…!?」
「呪われた子じゃぁぁぁぁ!」
「キャアアアアアア!」
朱色の肌に黒色の線、そして一本ツノ。
かつての先祖がその身に宿した――鬼型魔物・オーガの力だった。
赤子が力を制御などできるはずもなく、癇癪を起すたびに周囲の物を壊す事態が起きた。それを見た父は彼を遠い屋敷に隠し、そして二度と会うことはなかった。
せめてもの救いは人間に対し致命になるような怪我を負わせなかったことと、能天気な母と兄が世話を諦めなかったことだろうか。また、彼が物心つくころには何となく自身が他と違うことを察し、力を使わないときはツノを隠すことができるようになった。ツノを隠した彼の体は、父親によく似た色へと変わっていた。
それでも力を知る者は怯え、逃げ、避ける。
それでも父が訪れることは一度としてなかった。
「わたしには、とうさまはいないですか?」
だからこそ家族というものに敏感に育った彼は、自分に父の記憶が一切になかったことと、母がその名を呼びながら夜に泣いていることに気付いてしまった。そして、その原因が自分にあることを察していた。
自分なんかが生まれてしまったばかりに、大好きな母親が泣いている。
――彼が引き籠るようになったのは8歳になったころだった。
――それからツノを隠すことはしなくなってしまった。
――口調も雑な物言いをするようになってしまった。
息子は部屋から出ず、旦那は会いに来ない――彼の母が取った選択は旦那の元に行くことだった。こうして彼の味方は怖がりながらも同情する使用人、そして屈託なく接する兄のオドラだけとなってしまった。
― ― ― ― ― ―
そんなある日、オドラがある人物を家に連れてきた。
『私はあなたと同い年の…エルスター・マクランです。』
マクランという名が数年前に宰相に任命された家であることは、さしものトムスでも知っていることであった。しかし、そんな家の息子がいったい自分に何の用があるのだろうか、トムスは返事をせずに続く言葉を待った。
『端的に言えばあなたをスカウトしに来ました。ほら、とっとと開けてくださいウスノロ。バカなあなたでもそれぐらいできるでしょう?』
「……俺にそんな価値はないっす。帰ってください。」
『価値があるかどうかは見る目があるやつが決めることです。そして、見る目のある私が言っているのですよ…あなたには価値がある。ハァ…もういいです…無理矢理に引きずり出しますので。』
ドアの向こう側にいるであろうエルスターと名乗った男は、それから何か呟いているようだが聞こえない。そして、彼のツノにピリリとした感覚がしたかと思えば、すぐにドアが――壊される。
木屑とホコリが部屋の中を舞い、思わず咳き込んでいると部屋にズカズカと入って来る3人がいた。先頭に立つのは銀髪で端整な顔立ちの男の子、その後ろでは「壊すやつがいるか! このバカ者!」と女の子に頭を叩かれている狐目の男の子がいた。
「申し訳ない、うちのエルが迷惑をかけたね。修理代はこちらで持つよ。」
「あ、あなたたちは…。」
「私はデイン・ズ・ベルガー。この国の第三王子だよ。」
「お、王子!? えっ、あ、王子さんが俺に…何の…用っすか?」
「ねぇ、私の護衛にならないかい?」
デインはさらに近寄ろうとするが、もしものことを恐れるトムスは後ろに下がろうとする。しかし、どこまでも下がれるわけもなく壁に当たってしまうが、近づいたデインがしたことはそのツノを撫でることだった。
「私の目的など崇高なものではない…護衛としてキミの力が欲しい。まぁ一番は暴走しないように監視下に置いておきたいってことだけどね。それだけの話だよ。」
「監視…。そう…っすか。」
「でも、ここだからこそ……キミが手に入るモノもあるんだよ。」
「手に入る…? 何が?」
「そう、例えば…名誉…とかね。」
その言葉にトムスは首を傾げる。どうして監視されることが名誉を得ることに繋がるのか、彼の頭では理解ができないようであった。デインは優しく微笑むと、今度は両手を手に取って話しかけた。
「そもそも、キミの力が嫌われるのは先人がしたことが過ちだったからだよね。でも、それが正しいことに使うことができる力だと証明したなら…どうだい? こちらに就けば『王家を護衛した人間』という箔が付くんじゃないかな。」
「正しいこと…証明…箔…。」
「もしかしたら…【呪われた子】ではなく…【祝福された子】と呼ばれるかもね。」
その言葉にトムスはビクッと体が跳ねる。
もし、王子の護衛として大成できたなら――
もし、この力が忌まわしいものじゃないとなったのなら――
もし、この力で兄を守ることができたのなら――
きっと両親は喜んでくれるかもしれない。
自分の元に会いに来てくれるかもしれない。
金も名声もいらない。
彼はただ、家族の愛がほしかった。
この日、デイン第三王子に新たな側近が追加された。
【皆さまへ】
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なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。
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~~オマケの設定紹介~~
【トムス・ダッカール】
ダッカール子爵家の次男。
デインの側近であり、役割は護衛。
エルスターを友達だと思っている超絶稀有な人物。
先祖の禁忌的実験【魔物融合】の先祖返り。
オーガ種と呼ばれる人型魔物の力を使うことが可能で、圧倒的なパワーを出すことができる。生命力もかなり高い。ただ、理性を失ってしまう欠点がある。
この力のせいで家庭崩壊してしまった過去があり、自身の力が善であることを証明するために護衛を務めている。彼の努力を見てきた者は認めており、特に王宮騎士団第二部隊の老兵共(側妃サイドを除く)からは可愛がられている。
実はデインに対してより、エルスターへの感謝が強かったりする。
初期年齢15歳。身長170台中盤。
王都アルマ学園・騎士科護衛部・一年
青髪・短髪・ツンツン頭
兄ほどではないがタレ目寄り
性格: バカ・アホ・純粋・元気
好きな食べ物:辛味
嫌いな食べ物:苦味
好きな人間:兄・自分を頼ってくれる仲間たち・包容力のあるお姉さん
嫌いな人間:大事な人たちを傷つけようとする人たち