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その令嬢、危険にて  作者: ペン銀太郎
第一部:第5-1章:避暑地における休息的アレコレ(前編)
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43話:愛し、愛され

そこにはガタイのいい野郎共とプラス数名が、若干16歳の優顔少年に正座をさせられている光景が広がっていた。優顔少年――デインから放たれる圧に、百戦錬磨の戦士たちは戦々恐々としていた。そんな中に口を開いたのはアースだった。


「殿下、別に面白がったわけ…面白がっただけではない。」


「面白がったことは含んでいるんだね。それで?」


「端的に申します。殿下には幸せになってもらいたい。」


その言葉にデインは驚いたように目を見開き、珍しく恥ずかし気な態度を取りながら頭をガシガシと掻く。そして、真剣な眼差してくる一同全員を見て、溜息を吐く。


「私だって分かっているよ…父上母上だけじゃない…みんなが私とのことを大事に思っていることを。特にここにいるみんなはね。」


「我々の大抵は、それこそ殿下がまだ這っていた頃から護衛として活動しておりますからなぁ。気分は息子や孫を見るようなものです。」


「あぁ…それに…みんながアイナ嬢になら仕えてもいいと思ってくれていることも、政略的な意味合いでもすべきだということも…。そ、それに? 私自身が彼女のことを…その、す、好きだということも、分かっている。」


「そこまで分かっているなら問題ないな! さぁ殿下、頑張りましょう! 風向きは完全に殿下に有利なのです! ガハハハ!」


「で、でも…。」


「でも?」


途端にうつむいてモジモジとしだすデインに、そこにいる者は(まさか…)と不安を一致させていた。そして、その不安は的中することとなる。


「拒否されたら…どうしようか…。」


((((思った以上にヘタレだ…この王子…。))))


どうしたもんかと目を合わせあう者、やれやれと溜息を吐く者、可愛い王子だと慈愛の目を向ける者――反応は三者三葉であった。


そんな周囲の様子に何を思ったのか、デインは顔を上げて拳を握りしめる。そして、柄にもなくその拳を突きあげると、大きな声を出して決意を表明する。


「うっ…分かった! 僕はアイナに告白する!」

「「「「殿下!?」」」」


期待を受け、それに応えなくて何が王子だ。

それにいつかは避けては通れぬ道、後に政略結婚となるぐらいなら、今に白黒をハッキリさせるべきではないか。多くの者から受ける『愛情』を握りしめ、デインは立ち上がる。


「だから、キミたちにはぜひとも見守って欲しいんだ!」

「「「「殿下!」」」」


「この旅行中には…明日…いや…明後日。来週?」

「「「「殿下?」」」」


「あぁ、たぶん…きっと…おそらく…する。できたらいいな。」

「「「「殿下…。」」」」


本当に期待に応えられることができるのだろうか?

部屋中に不安が満ちるが、それでもデインは話を続ける。


「多分…もしかすると…エルあたりは『人の恋路に首を突っ込むと嫌がられますよ。無神経ですね。』…それに近いことを言ったと思うんだ。」


((((さすが、よく分かってらっしゃる。ちょっと似てるし。))))


「でも、私は嬉しかった。みんながこうして協力してくれることは…嬉しかった。ありがとう。だから…ええっと…これからも私を助けて欲しいんだ。私はいつかは王弟としてただの一貴族になるけれど、それでも今は…今だけでも頼りない王子として相談にのってくれないかい?」


気恥ずかしさから頬を染めながら語るその姿に、母性本能父性本能を刺激された一同は、相手が王子であることを構わずに頭を撫で繰り回したのであった。


その王子は確かに皆から愛されていた。



 ― ― ― ― ― ―



しばらくして興奮も冷めたのか、何の解決もできてない状態ながら「よかったよかった」と満足気な空気で満たされていた。そして、ふと思い出したのかデインが話を切り出す。


「で、そのエルのことなんだけど…なぜか部屋から出てこないんだ。どうしたのか聞きに行っても、考える時間をくださいとしか言われなかったし…。みんなは何があったか知らないかい?」


その言葉に、さすがに一日で駆け回った例の噂を思い出した者たちは、一斉にバッとネルカの方を振り向く。どうしたものかと訝しむデインを尻目に、彼女は飄々とし態度で答える。


「あぁ、エルに気持ちを伝えたからってことね。『好きよ』って。」


「ブフゥッ! え? エルのことが? しかも、なんで急に?」


「そうね……話の流れ的にもちょうど良かったのもあるけど……殿下のヘタレっぷりを見て、気持ちは出しておいた方が良いって気付いたの。」


「うぐっ! て、手厳しいね、ハハッ…。」


噂が確定となった瞬間に周囲はどよめきの声が止まらない。マリアンネに至っては「師匠ぉぉぉぉ!」と叫んでその場に崩れ落ちた次第である。興味が尽きない面々は、その気持ちの経緯を知りたそうであった。


「いや待てよ、でも、エルだよ? あの…エルだよ? 大丈夫?」


「エルと私って唯一無二なの。他に近い人を見たことがないわ。」


「まぁ、あんなのが何人もいたら、私たちはストレスで死んでいるだろうね。それにネルカ嬢みたいなのが何人もいたら、今度は騎士のみんながストレスで死んじゃうだろう。」


「私を使ってくれる異性はエルだけだし、エルが共にいていいと言える異性は私だけ。後から適した人が出て来ても譲らないわ、だって最初が私とエル……それが運命ってことでしょ?」


エルスターは特殊な人間、ゆえに代わりになる人間はいない。

ネルカもまた特殊な人間、ゆえに代わりになる人間はいない。


エルスターがいなければ、ネルカの才能は知られず終わる。

ネルカがいなければ、エルスターは独りのまま終わる。


――互いが互いに唯一なのだ。

――互いを満たせるのは、互いしかいない。


「よし分かった! 王命だ! ネルカ嬢をエル飼育係に任命しよう。」


そしてなにより、この二人がくっつく方が安心できる者が多かった。




【皆さまへ】


コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。


そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。

なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。


よろしくお願いします!


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