41話:周囲の意見
デイングループとアイナグループで屋敷二つが使われ、ネルカグループによりハウスが使われているが、もう一つの屋敷はと言うと護衛や使用人の寝泊り用になっていた。
そして、茶会がめちゃくちゃになった日、そこの屋敷のダイニングルームには本来いるはずのない者が混ざっていた。ネルカとマリアンネとエルスター、さらにアイナの連れである金髪常識人ベティン・ミスリ子爵令嬢と目隠れ黒髪ロズレア・カレンティ伯爵令嬢までもいた。ちなみに、マルシャは「そういうのは私はやらない」と言って就寝に入った。
「混ざってしまって申し訳ないけれど、聞いておきたいの。ずばりデイン殿下の婚約者問題について皆はどう思っているのかしら?」
エルスターとコルナールに巻き込まれたネルカは、苛立ちの矛先を婚約問題一件への解決にぶつけることにした。殿下のことゆえ一部の者は言い出しにくそうにしているが、巻き込める人間は巻き込んでしまえ精神となった彼女には関係ないことだ。
ちなみにマリアンネは最初こそ「アタシと師匠の時間なのにィィィィ!」と嘆いていたが、第二騎士団の面々とネルカ本人から代わる代わるにお菓子をもらい、いつのまにか機嫌がよくなっていた。チョロい。
今では王宮使用人と仲良くなったということもあり、晩飯準備の手伝いをしたほどである。彼女が作った異世界料理はあまり経験したことない味だと、非常に人気がありすぐに空になったほどだ。
「あの方は立場もあって苦労された方ですからな。政略結婚は仕方ないとは思うが、それでも幸せにしてくれる人であってほしいものですな。そうじゃのぉ…アイナ嬢であってくれたらとは思いますぞ。」
ベルナンドの言葉に騎士の面々は全員が頷く。
頻繁に騎士訓練場に差し入れを持ってきてくれるデインは、彼らにとっては敬愛するに値する存在なのだ。できることなら協力はしたいという気持ちは一致していた。
「コルナールはあんな物言いをしておりますが、私としましてはアイナは是非とも想い人と結ばれてほしいと思っています。まぁ…単純に王弟の嫁として誰がふさわしいかって意味でも、私はアイナを推しますけど。」
ベティンの言葉にメイドを筆頭にした使用人が頷く。
まだ候補でありながらも妃教育を受けに王城に来ることが多いアイナ、厳しい教育ながらも弱音を吐くことをせず、むしろ使用人を気に掛けることもある彼女のことを応援している者は多い。
つまり――
「つまり、少なくともここには賛成派しかいないってことね。」
そうとなれば、意見を聞かなければならないのは彼女の隣に座る男エルスター。腕を組んで押し黙っていた彼だったが、彼女のチラリとした視線に気づくと口を開く。
「私もアイナ嬢と殿下はお似合いだと思いますよ?」
あまりにもあっさりとした回答に、彼のことを知る者は一同に茫然と口を開ける。ネルカは震える声を抑えながら、エルスターに声をかける。
「驚いた、あなたは反対派だと思っていたわ。」
「さすがの私も、両想いを邪魔するほど愚かではありませんよ。それにコルナール嬢に言った言葉は、あくまで売り言葉に買い言葉……アイナ嬢のことはちゃんと評価しています。」
「そうなの…え? ちょっと待って…両想い…? 誰と誰か?」
「そりゃあ、殿下とアイナ嬢ですよ。教えたはずですが?」
「いや…聞いてないけど?」
「以前ローラ嬢の件の時に、殿下の情報は手紙でお伝えしたはずです。」
「10枚裏表ビッシリに書かれたやつね。6枚目の途中で飽きたわよ。」
「9枚目の裏4行目に書いておいたのですが、仕方ない人ですねぇ。」
「そんな大事なことは前半に書きなさいよ! バカエル!」
しかし、両想いであるというのなら話は簡単だ。
どちらか一方が告白してしまえばいいだけのこと。
そうと決まればこの旅行の間に、場を整えてあげればいいじゃないか…そんな風に思ったネルカ含めた数人が、準備のために立ち上がろうとしたが、エルスターは「あなたたちは何もしないでください!」と声を荒げた。
「ど、どうしてよ!」
「こんなたくさんの人を集めて、人の婚約をどうこう言われること、当人たちが喜ぶと思いますか? むしろ嫌がるものだと思いますよ。」
「はぁ? どうして正論を言うのよ!」
ガックリとうな垂れる彼女と、同様に反省の態度を示す他の面々。その様子にフンッと鼻息を荒げたエルスターであった。しかし、彼女とベルナンドは不意にバンッとテーブルを叩いて立ち上がる。
「そうね、しょうがないからメンバーを絞り込むことにするわ。」
「は、はぁ!? ネルカ、話を聞いていましたか!?」
「そうだな! そんなことどうでもいいって奴だけ…着いて来なさい!」
「なっ! ベルナンド殿まで! 正気ですか!」
「エルスターの坊ちゃん。油物と恋路は酒の肴に合うってのが、ワシの考えでしてな。そりゃあ、首を突っ込みますぞ。えぇ、相手が殿下だとかはどうでもいいことなのですぞ。」
ベルナンドが部屋から出ていくと、首を突っ込みたい人たちがその後ろを着いていく。マリアンネとベティンすらも着いて行ってしまった。唖然とする残されたメンバーに対して、最後に退出しようとしていたネルカはふと何かを思い出したのか振り返る。
「あぁそれとねエル。当人たちがどうこうって言葉聞いて、自分の立場になったらと思ってみたの。でも、『むしろ後押ししようとしてくれて、ありがとう』って結論しか至らなかったわ。」
「なっ!」
「そうねぇ、せっかくだし面白い火種でも置いていこうかしら――」
彼女は少し頬を赤くさせると恥ずかし気に笑いかけると、そんな表情ができる類の人間だと思わなかった一同は惚けてしまう。そんな様子を無視して彼女は大きな声で言葉を放つ。
「私、エルが好きよ! みんな、私に協力してね!」
茫然と立ち尽くす一同を尻目に、ネルカは颯爽と退出したのであった。
【皆さまへ】
コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。
そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。
なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。
よろしくお願いします!