40話:優雅なる(笑)お茶会
次の日、三人は庭で茶会を行っていた。
自分の淹れる茶もなかなかだという自負があったネルカが、マルシャに淹れてもらった茶を前に悔しさを覚えた頃、とある四人組が彼女たちの前に現れた。どうやらその四人組もまたこちらの別荘地に来ているようで、少し離れたところに護衛の者が控えていた。
「どなたがおられると思い見に来ましたが…もしかしてマルシャですの?」
先に声を掛けたのは金髪と縦ロールがトレードマークの、デインの婚約者候補筆頭にして学院3年生――アイナ・デーレンだった。また、彼女の三人の取り巻き――複雑な入れ込みの金髪は静かに微笑み、目元が隠れるほど伸ばした癖っ毛黒髪は下を向いており、カチューシャ使用のデコ出し茶髪はどういうわけかコチラを睨みつけていた。
「これはアイナ先輩ではないか、奇遇だな。」
「そちらのお二人は…どういう風の吹き回しでして…。」
「端的に言えば仕事仲間だ。」
「あらまぁ。」
ネルカはもはや有名人であるため、仕事仲間と言われれば納得ができる。しかし、マリアンネがここにいることに疑問を覚えるアイナだったが、ただの市民と呼ぶにはあまりにもおかしい経歴と実績に、そこには触れてはいけない何か秘密があるのだと悟った。
「あぁ、だからアイナ先輩が心配するような関係ではないぞ。あぁ、それと殿下も来ているぞ。あっちの屋敷でゆっくりなされているはずだ。」
「え、ええっと何をおっしゃっておられるのですの! べ、別に殿下を誑かす相手かどうか気になったとか…違います! そういうのではなくてでして!」
「ハッハッハ、私としては殿下には誰かとくっついてもらった方が楽なのだがなぁ…。どうしても異性の私が殿下の元で動くとなると邪推する輩もいて、同性の下で動けるならそれに越したことはないのだ。私としては先輩の下なら構わないと思っているぞ。」
その言葉に顔を赤くさせるアイナだったが、それを見ていた例の睨みつけ嬢がついに我慢できないと言わんばかりに前に出てきた。アイナはギョッとして止めようとしたが、それよりも早くその女性がマルシャに声を荒げる。
「ふんっ! 殿下はアイナお姉様には似つかわしくない相手です!」
「キミは確か…コルナール嬢だったか?」
「えぇそうですとも! デーレン侯爵家の懐刀ガダック子爵家の一人娘! コルナール・ガダックとは私のことです! アイナ様のすばらしさは私が一番に―――」
フンスッと鼻息を荒くしながらアイナを守るように立ちはだかるコルナール。
彼女はアイナのことになると熱くなってしまう性格なのか、相手の言葉を一切に聞かずにその素晴らしさを延々と語り出す。その様子にアイナたちは(またこの子のアレが始まったか)と言わんばかりのヤレヤレ顔をすると、長丁場になることを予想して従者たちに机と椅子を持ってくるように指示を出していた。
(この人…エルと同類なのね。)
どこか既視感があるなと思っていたネルカだったが、すぐにデインのことを語る時のエルスターが重ねて見えた。主人のことが関わると盲目的になり、周囲に思想を押し付ける類の超絶迷惑人間だ。
「で? あなたがネルカさんですか?」
「は…? え? 私? えぇ、確かにネルカだけど…。」
「【忠犬エルスター&狂犬ネルカ】だなんて言われていますけど、調子に乗らないでくださいです! 【アイナ様の番犬】と呼ばれていた私への対抗ですか! 負けませんです!」
「狂犬なんてダサい呼び名、私から願い下げよ…。」
まさか自分の方に話題が向けられると思っていなかったネルカは、ウンザリとした態度で返答するが、そんな態度に気が触れたのかコルナールは彼女に詰め寄る。その様子を見たマルシャとマリアンネは注意が逸れたことへの好機として、そそくさとアイナたちの方へ移動を開始していた。
しかも、キーキーワーワーと騒ぐ彼女に対してネルカにも苛立ちが生まれてきた頃に、どう考えても彼女とは相性が悪そうな人間が茶会に参加してきた。
「私を抜きに、殿下の話をしないでいただきたいですねぇ。」
その人間の名前はエルスター。
後ろでバツが悪そうな表情をしているトムスが「殿下はお疲れのためご就寝中っす」と補足を入れているが、そこにいる人間の大抵の気持ちとしてはエルスターがいないのが理想というものだった。
「コルナール嬢、さきほど殿下が似つかわしくないと言っていましたが、逆ですよ…殿下の隣に立つ第一候補者になれたことに感謝する立場なのは…そちらの方では?」
「相変わらず戯言が御得意ということですか。アイナ様の価値が分からないような者が、見る目があると言われているのは滑稽です。老眼なんじゃないです?」
一同は始まってしまったと言わんばかりに疲れた表情をし、なるべく目を合わせないようにそっぽを向いている。当の本人であるアイナすら遠い目で虚空を見つめており、無の境地へと旅立っているようであった。
「アイナ嬢の懐刀があなたであるというのも、何とも可哀想な話ですよ、えぇまったく。知略では私に劣り、強さではネルカに劣るではないですか。そうです、私のネルカはすごいですよ? どのような場面でも対応できる知力と精神力、誰が相手でも勝つことのできる実力を持っていますので。私が認めた唯一の女性ですから、当然のことですけどね。」
「ねぇ、恥ずかしいから私を話題に出さな―――」
「そこのネルカさんの噂をよく聞きますけど、どう考えても怪しいです! 親が駆け落ちした元貴族? 元狩人で強くて、それでいて第一教室に入れる? そして、あなたの目に留まって殿下の側近になった? 頭の弱い奴が作った物語みたいな展開、普通に考えて信じられるはずないです! 絶対にデマに決まっているです!」
「ねぇ、勝手に私を殿下の側近にするのは―――」
「「あなたは見る目がない!」」
生来として他人の話を聞かない性格であるのに、バチバチと火花が散りそうなほど睨み合っている二人は、話題にあがっている人間が困っていることなど考えるはずもない。顎を上げて見下すエルスターと、顎を下げて睨み上げるコルナール――はネルカの方へ振り返る。
「ネルカさん!」
「ネルカ。」
「あなたの実力見せていただきますです!」
「あなたの実力を見せてあげたらどうでしょう。」
「「4日後に対決だッ!」」
こうしてネルカVSコルナールの約束が(勝手に)執り行われた。
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