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その令嬢、危険にて  作者: ペン銀太郎
第一部:第4-3章:血の夜会(本番・後編)
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31話:VS バルドロ③

タネは単純――纏っている黒衣を自分ごと操作するだけ。


そもそもに黒魔法は黒い物質を生み出すだけで、操作することは苦手としている。しかし、苦手なだけであって不可能というわけではない。そして彼女は魔力操作に関しても天才だった。それだけのこと。


骨を折られようが麻痺毒を盛られようが、意識と魔力が存在する限り彼女は戦い続ける。彼女が狩人として強いと言われる理由は、戦闘センスや黒魔法だけでない――生命力の高さも起因する。


(くっ、魔力で動いているせいか、予測ができん!)


予測を立てられない中、速さも重さも先ほどとは比べものにならない。今の状態のネルカはバルドロより上を行っている。もしかすると、当国最強と謳われ王宮騎士団総団長であるガドラク・ワマイアを越えている可能性すらある。


(しかし、これならまだ何とか出来る範疇だな…。)


だが相手より強くなれば勝率100%というわけではない。

格上に勝つ方法――それはリスクを無視することである。


ネルカが彼に勝つために上手くいくか分からないことを選択したように、今度は彼が彼女に勝つために上手くいくか分からないことを選択する番。安牌の二文字を捨て、ただひたすらに魔力を開放した。


「ぬんっ!」


彼は一瞬で魔力膜を膨らます。デカいだけのそれは何の一切も防御に影響しない、むしろ脆くなると言われる。しかし、黒魔法を相手にしているのだから、彼はそもそも魔力による防御など端から期待などしていない。


目的は探知――ネルカの大鎌が魔力膜に触れたとき、膜が消える違和感。その違和感に対する条件反射を使い、バルドロは彼女の動きに対応する。


「なるほど…これはこれは…なかなか良いではないか!」


ただの思い付きでの対策であったが、これがなかなか便利だと彼は喜んだ。まさか魔力にこんな使い方があるとは思わなかったが、やろうと思えばもっといろんなことができるはず。


もっと効率的に。

もっと効能的に。


守りに使う必要がないのであればと、もはや膜と言えない程の大きさの魔力膜、その魔力の濃度を薄めていく。これならば身体強化のために魔力を使うことができる。


気付けば押し負けていたパワー差は、すでにバルドロが有利へと戻っていた。彼が鎌を弾くと彼女はよろめきながら後退していき、探知用の魔力膜の外に出る。


「ふははは! 戦いとは何が起きるか分からぬなぁっ!」


すでに魔力膜はサイズがバルドロを中心とした約5mほどの球体、それでも彼はもっと先の領域へと足を踏み入れていく。それは黒魔法による違和感ではなく、純粋に物理的な魔力の空白を感じるというもの。物体全てがまるで切り絵のように輪郭が明確になり、360°全方位がバルドロの知覚範囲となっていた。


そして、それだけではまだ足りない。

魔力膜を応用したこの技をさらに掘り下げていき、今度は輪郭の知覚だけではなく魔力の知覚も付与していく。するとどうだろうか、切り絵の世界に色が付いていく。木も草も草も色を持ち、無生物だけは白色のままだ。


「なるほどな、人によって使える魔法が違うのは…魔力の色が違うからか。そして、植物も虫も…同じく生きている…魔力を持っているのだな。」


彼は試しにとネルカの元へと近づき、自身の探知範囲へとその体を入れさせる。黒魔法は魔力探知ができないのか相変わらず切り絵のようではある。それでも精度を高めたおかげなのか、切り絵から漏れ出した黒色の魔力を感知したことにより、彼女が地を蹴り振り上げた鎌――と見せかけた蹴りを完全に防ぎきる。


どんなフェイントをしかけようとも、どんな速度で攻撃を仕掛けようとも、今のバルドロにとって全てが見えていること。動きの方向の予想だけではなく、動きの強弱でさえも今や彼の手中。


「この歳になってまだ成長の余地が残っているとは思わなかった。感謝するぞ小娘、貴様が自身を操るという択をとったおかげで、俺も柔軟な発想というものを思い出せたぞ!」


確かに彼女は死中に活を求めてさらなる高みへと昇り詰めた。皮肉にも、そんな彼女に感化されて彼もまたさらなる高みへと昇り詰めたのだ。現在のネルカは間違いなく国内最強『格』の一人だろう、しかし現在のバルドロは間違いなく国内最強だ。


だが、相手より強くなれば勝率100%というわけではない。


彼女の体から動きの予兆である魔力の漏れを感じたバルドロだったが、全身くまなくから漏れ出した魔力に彼は行動を遅らす。確かにこれであれば彼は予測することはできないだろう。


(発想は悪くない。だが、悪くないだけだ。)


均等にするということは特化ではないということ、それすなわち攻めれないということ。負傷と魔力消耗を考えると長期決戦はバルドロの勝ち、結局のところ両者が強くなっただけで展開は最初と変わらない。


そして、その瞬間は何気ない一瞬で起きる。


(……上手いな。だが、相手が悪かったと思え。)


それは例え魔力感知が出来たと仮定して、なおかつ互いに静止していたとしても、並大抵の戦士では気付けない微弱な揺れ。それでも高速戦闘において彼は気付くことができる。


掬い上げによる斬り、と見せかけた左手の裾に隠された何か――を読んでいる想定の蹴り。フェイクにフェイクを重ねたネルカの渾身も、全てが彼に見透かされている。


鎌を弾き、左手を掴み、蹴りを躱す。

ガラ空きとなった彼女の正面へと、彼は剣を振る。


「終わりだ。小娘。」



しかし、この場面はネルカの想定通りだ。



彼女の体――ではなく弾かれた鎌に魔力が集まり、その刃が伸びる。湾となっている形状は、そのままバルドロの首元へと向かっていた。


そう、鎌も含めて黒衣なのだ。


魔力の流れを身体だけに集中してしまっていた彼は出遅れてしまう。それでも何とか対応しようと、最初にネルカに致命傷を与えた例の超速を繰り出して――



互いの刃が互いの首に刺さる――すなわち相討ち。

しかし、その刃が最後まで突き抜けたのはバルドロの剣だ。





ネルカの首は跳ね飛び、バルドロの首には刺さっただけ。





そして、彼女の頭部は()()()()()()()()、虚空へと消えていく。



「まさか…!?」



それはネルカを模した黒魔法の人形、すなわちダミー。


普通に見ていれば偽物と見破ることが可能なほど雑な人形であるが、魔力の流れだけを見ていた彼には気付くことができなかったのだ。意識の外になるようあえて本体の魔力を0に近くするというリスクに、若さゆえの柔軟さをバルドロは羨ましく感じた。


そして、自身の背後に微弱な人型の魔力があることに気付いた時――


「見事だ。」


――死神の鎌がすでに首の半分まで入っていた。




『愛しております。リーネット様。』




黒血卿の頭部が切り離された。




【皆さまへ】


コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。


そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。

なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。


よろしくお願いします!


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