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その令嬢、危険にて  作者: ペン銀太郎
第一部:第4-3章:血の夜会(本番・後編)
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29話:VS バルドロ ①

【黒魔法】――それは裏家業を生業とする、とある一族専用の魔法。

通称『影の一族』――姓はない一族だ。


実のところ、準備不要のノーラグタイムで発動できる魔法は存在し、この黒魔法もその一種である。なぜそんなことが可能なのかは確定までは至っていないが、有力な説としては「人の体の何かの要素が魔法の設計図としての役割を担っている。そして、それは時として子孫と共有することがある。」ということである。



黒魔法はただ黒い物質を生み出すだけの魔法、ただそれだけ。

操作や放出ができないわけではないものの、本来に魔法が要求される『準備は必要だけど、それに見合った高威力』と呼べるほどのことはできない。



しかし、その生み出された黒い物質にこそ価値がある。


魔力阻害――それこそが黒魔法の神髄。



そもそも魔力というものは魔法や魔道具の恩恵よりも、身体強化と魔力膜の恩恵が大部分を占めている。それは身体的ピークである20代よりも、魔力的ピークである50代の方が戦士としては強いと言われるほど。


だからこそ、強き者は守りを魔力膜に任せるようになる。

だからこそ、強き者同士の戦いは斬撃戦ではなく打撃戦になる。

だからこそ、強き者は動きやすさを重視した軽装になりがちになる。


だからこそ、強き者は黒魔法に対して弱くなる。


叩けなくていい、爆ぜなくていい、吹き飛ばせなくていい。


当たれば斬れるのだから――。


「なるほどな…つまり俺は…貴様の天敵と言うわけか。」


強みを活かせない目の前の相手に、ネルカは心中で舌打ちをする。

黒血卿の強みは鎧への魔力膜付与、その防御に身を任せた特攻戦闘であることは彼女の目から見ても明らかだった。本来ならば生身だろうが鎧だろうが魔力である限り黒魔法の敵ではないはずだが、当てるだけ特化のネルカの戦闘スタイルではそもそも魔力膜関係なしに鎧を突破できないのだ。


ネルカでは攻撃の重みが足りない。

それにバルドロの鎧は何かが違う。


「あなたも攻め手がないんじゃない?」


「……減らず口を。」


しかしながら、鎧とて完璧な防具でもないため狙いどころがないわけではない。ネルカがその攻防の隙間を狙ってくるため、さしものバルドロも守りの行動を混ぜざるをえない状態だった。


それでいて相手の得物は今まで相対したことのない『大鎌』である。回し斬る・引き斬る・蹴り斬る・回り込み斬る・振り突くという独特な攻撃に加えて、ネルカには本来苦手な至近距離をカバーするための棒術と体術もある。


(でも、持久戦は私が不利だわ。それに私の動きが対応…いや、予想されている? まるでどう動くのか分かっているかのよう…これが年季の差ってやつ?)


互いに互いがやりにくい状況という意味では五分五分だが、純粋な強さの面ではバルドロの方に軍配が上がる。ネルカの体に殴打の痛みが生まれる間隔は、時間が経てば経つほど次第に短くなっていき、反対にバルドロにその黒い刃が近づく距離も次第に遠ざかっていく。


「チッ!」


ネルカは柄の部分で突きを一撃入れ、その反動を活かしたバックステップで距離を取る。バルドロはそれを逃がすまいと追撃のための突きを見舞うが、対する彼女は鎌を縦に回転させ弾くと、渾身の蹴りを放つことでバルドロを離す。


(ならば私がすべきは…短期決戦!)


バルドロはそれでも休憩の間を作らせないよう近づくが、鎌を片手サイズへと変形させて両手に持ち、体勢を極端に低くしたネルカに対し足を止める。徐々に増していく彼女の魔力の気配に、短期決戦の意図をバルドロは察したのだ。


「ハッ!」


見舞われた高速の一撃を防ぐバルドロであったが、身構えていなければやられていた事実に鉄面の下で苦渋の表情を作る。そして、息つく間もないまま掛かるラッシュと、鎧を込みでも伝わるようになってしまった衝撃に立場が反転したことを感じる。


この速さ――バルドロの知る限りでは国内最速か。


(しかし、いつまでも続くわけではなかろう。)


ここまでの猛攻を最初の段階からしなかったということは、これは言葉の通り短期決戦しか想定していない。それならば待てばいい、息が切れるその瞬間を。


「フッ! フッ! フッ!!」


「ぐぅぉ! ぬぬぅ!」


いつ終わるか分からない攻撃に、久しぶりに感じる死の接近――彼女は見目に違わず【死神鴉】。命を刈り取り、死を招き、生を奪う存在。この瞬間を味わうがためにリーネットに付き、ただひたすらに生きてきた彼は笑みを浮かべる。


(これぞ…生きるということ。)


そして、これからも生きる。


ここで死を享受しないのがバルドロと言う男、足掻いた先の死にしか興味がない男、この状況で渇きが潤っていく感覚を抱く男。このコンマ未満の戦闘駆け引きを前に、彼はそれでも予測能力を発揮して攻撃を捌き切る。


そして、ネルカの粗を――ついに見つけ出す。


「ぬんっ!」


一秒未満の疲労による揺らぎ、そこを見逃さない。

待ちに待った息が切れる瞬間に対し、彼は顔面に対して突きを放つ。






それを彼女はただ避けた。

ネルカは――加速――さらに速く。


(この女…どこまで速くッ!)


仮にそれまでの速度が出せたとしても避けることのできない一撃は、さらに高い速度を出したネルカによって紙一重で避けられる。突きの姿勢となったバルドロが守りに切り替えれるわけもなく、その左肩には黒い刃が差し迫り――鎧の隙間をかいくぐり――


その老兵の肉体に到達する。






「――若いな。」


次の瞬間、目の前の男から膨大な魔力があふれ出る。


それは、罠に対する罠。

彼の予測能力の前ではフェイントは通用しないのだ。


バルドロの剣がブレたかと思うと、その剣はネルカの正面腹に到達。

魔法を使ったのかと勘違いするほどの魔力を使った身体強化は、ネルカが鎌を振り下ろすよりも速く反撃したのだ。そして、吹っ飛ばされたネルカは木に叩きつけられて、地面に落ちた。


【皆さまへ】


コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。


そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。

なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。


よろしくお願いします!


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