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その令嬢、危険にて  作者: ペン銀太郎
第一部:第4-2章:血の夜会(本番・前編)
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23話:二度目の庇いと積み上げたモノ

西庭に向かう途中、ネルカは一人の男老人に呼び止められていた。

伸びた白ヒゲと皺だらけの顔、少しの猫背と痩せ細った手足――しかし、その目だけは獲物を見つけた獣のように爛々としていた。そしてすぐに、その男が誰なのかは判明する。


「ワシの娘の前で失礼な態度を取ったのは貴様じゃな?」


側妃の父であり公爵家当主――ガバカ・アランドロ。

ギロリと睨みつけるその様子に(完全に目を付けられたなぁ…)と心の中で苦笑いをしながらも、ネルカは悠然とした態度を崩さないようにしていた。と同時に、ここに来て何か違和感を覚えるようになった彼女だが、それの正体は分からないでいた。


「アランドロ公爵閣下、それは誤解でございます。」


「その誤解とやらは戦士がどうとかというじゃろ? ふんっ! 娘がその言葉に貴様を見逃しても、ワシは納得などしておらんわい。」


「納得…ですか。」


「貴様のような小娘が戦うなど、たかが知れているに決まっておるわい。あの憎きマクラン家の小僧に助けられていなければ、貴様などナスタ卿の前に伏していただろうにな!」


そうしてフンッと軽蔑するように鼻息を出す目の前の老人の姿に、ようやくネルカは覚えた違和感の正体を気付くことができた。


(ふ~ん…そんなに私から攻撃を受けたいのね。)


相手がそういう性癖の…などという勘違いはもちろん起きず、大義名分を得るために待っていること理解できた。ただ、問題はそれを実行しているのが側妃やガバカなどの、明らかに前線に立つべきではないメンツであるということだ。


(何があっても自分は大丈夫…傷付けられることはない…って感じね。)


そんな自信の理由が分からないことがあまりに不気味で、あの時に宰相たちが止めに入ったことは間違いではなかったのかもしれない。となれば、ここで彼女が行うべきは適当にやり過ごすことだが、目の前の爺から逃げ切れる気がしていなかった。


そんなとき、思わぬ味方が現れる。


「あらまぁ、従兄さんではございませんの。それに…ネルカちゃん?」


「ガバじーちゃ! かりうどのねーちゃ!」


その言葉にネルカとガバカが振り向くと、そこにいたのはバーベラとフランだった。さらに後ろには夫人のファンが控えており、彼女の服を着ているネルカの姿に興味津々といったようだった。


「おやおや、バーベラにフランか。このこむす…嬢ちゃんと知り合いかい?」


「えぇ、ネルカちゃんは私の友達なのよ。えぇっと…お取込みだったかしら? 彼女のことをファンの皆さんにご紹介しようと思っていたのよ。 ほら見て、私の服を着こなしてくれているでしょ?」


ガバカはチラッと背後にいる者たちを見やるが、彼にとって不信感を抱かれたくないメンツであることを確認すると、近くにいるネルカしか聞こえないような小さい舌打ちをする。


「それならしょうがないのぉ。ワシとてお前さんたちから恨まれたくはないからの。はぁ…バーベラは昔から服のことばかりなのに、人は後ろに付き従っていくのは誠に不思議じゃわい。」


「フフ…それを人は『無邪気』と言うのよ。黒い腹を隠すのもいいけど、たまには白い腹を見せつけるのも良いのではなくて…従兄さん?」


ネルカには睨んでバーベラには優しい目という、何とも器用に表情を変えるがガバカであったが、しばらく従兄妹間で話をしてから最終的に去っていった。その間、ネルカはバーベラのファンたちから質問攻めに遭っていたわけだが。


そして、バーベラが彼女たちの輪に戻ってくると、十分に話ができて満足気味なファンたちは空気を読んで解散していく。大量の話題に疲れていたネルカは、そのことにホッとして張った肩を緩める。


「ふぅ…お節介だったかしら? でも、殿下たちの計画としては従兄さんとの接触はよくないはずでしょう?」


「えっと…バーベラ様、どこまで知って…?」


「やぁねぇ、こんなおばさん…何となくしか知らないわよ。でも…あなたが私のファンではないってことは知ってるわ。」


「ッ!? それは…失礼しました。」


さすがのネルカもこのことには申し訳ないという気持ちが大きく、とっさに深く謝罪のお辞儀を行ったが、それに対してバーベラは肩に手を置いて顔を上げさせる。


「ねぇ? あなたが私のことをどう思っているか、裏でどんな事件が起きようとしているのか、あなたがどんな役割を担っているのかなんて…分からないわ。」


「…はい。」


「でも、私の服を着こなしてくれるモデルはあなたで、一緒に話をしてみて気が合ったのもあなた…それは分かることよ。嘘を吐かれたことなど気にならないぐらい、私はあなたのことを気に入っちゃってるの。ねぇ、ネルカちゃんは…私が嫌い?」


「い、いえ…確かに最初は打算がありましたけど…その…服は私の好みでしたし…バーベラ様とのお話は楽しかったです。それだけは…嘘じゃないです。」


「それならあなたと私は友達…それでいいじゃない。そうねぇ、強いてお詫びをってことなら…そうだわ! 私にも気兼ねない口調をして欲しいわ! 様付けもなしね!」


人差し指を口に当ててウィンクするその姿は、決して老いていくだけの女性などではなく、まるでネルカと同年代であるかのようだった。ネルカは少し呆気に取られていたが、その気持ちに応えるように微笑み返す。


「分かりま…いえ、分かったわ、バーベラさん。」


それから互いに気恥ずかしくなったのか、クスクスと笑い合い表情を誤魔化していたが、ふとあることを思い出したバーベラが「そう言えば」と話を切り出す。


「それにね、あなたが悪い人ではないことは、私に助けを求めた彼女の反応を見れば分かるもの。きっと積み上げてきたモノがあるのね。」


「え? 助け…?」


示された方をネルカが見てみると、そこには見たことない令嬢が食事をしており、その女性が彼女の視線に気づくと顔を赤くして慌てて寄ってきた。全身を赤茶系のドレスで着こんでおり、パッチリとした目と主張される豊満な胸が特徴的だった。


「ネ、ネルカ様! お久しぶりです!」


それは地味女子から一転、華やか女子となった――ローラだった。




【皆さまへ】


コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。


そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。

なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。


よろしくお願いします!






~~オマケの設定紹介~~


【バーベラ・メンシニカ】


立ち位置は準貴族だが、公爵家親族ゆえに権は高め。

また、服飾デザイナーとして有名である。


初期年齢75歳。身長150台中盤。


アランドロ公爵家には「まだ野心があるのね、呆れた」程度の認識。


本当は作りたい服を作りたいが、そういう服は批判を受けがち。

売れる服を作った時は超絶大人気となり、本人はちょっと不満気。

だからこそ、ネルカのことはお気に入りで友達と思っている。


歳ゆえに白髪だが、元は茶髪。

顔皺あるし腰は折れているが、声はハキハキ、目はパッチリ。


性格:元気があり優しいが、物事を見極める観察力は衰えていない


好きな食べ物:薄味のもの

嫌いな食べ物:濃い味のもの

好きな人間:服の話が弾めば、思惑とかそういうのはどうでもいい

嫌いな人間:服のことを軽んじる発言をする人


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