21話:招集
ある日、エルスターの都内潜伏の際の作戦本部用である地下倉庫に、なかなかに珍しい組み合わせの人間が集まっていた。そこにいるのはデインとその側近たち、ネルカと長兄ソルヴィ、騎士団第二部隊の副隊長ベルナンドと一隊員ロルディン、そして王宮内で給仕をしているセオザという男だった。
「初めて会う人もいると思うから挨拶をしようか。私はデイン・ズ・ベルガー…皆をこの場に呼んだのは私だ。集まってくれて嬉しく思うよ。」
ネルカはデインとは教室が同じではあるが、このように直接的に関わることは初めてのことであった。しかし、普段の温和な雰囲気の彼と違って、今日はやけにピリピリと緊張感を醸し出していた。
「ハハッ、殿下の要望とあらばこの老体、どこへでも行きますぞ。それでは、最年長であるワシ、ベルナンドがまとめ役をいたしましょう。よろしいですかな?」
口ひげを擦りながらベルナンドが見渡すと全員が縦に首を振る。
その様子を見たデインは早速と、集まった理由について話し出す。
「用というのはね、来週の王城夜会についてなんだ。何人かは知っているかもしれないが、そこで私を暗殺する計画が出ているんだよ。」
「ふむ…よりにもよって…警備が手薄な時に…。おぉ、説明が必要ですな。」
現在、隣国との交流会のために国王陛下と正妃、第一王子と王子妃が遠出をしているのである。しかし、本来ならば夜会の前に帰ってくることができたはずだが、原因不明の土砂崩れにより足止めを食らってしまっている現状。これにより、貴族警備を主な仕事とする騎士団第二部隊が出払っており、残っているのは側妃派閥・通称『薔薇組』がほとんどで――信用できるのはベルナンドと彼の人選数名程度。
そして、魔物濫発の報告があったため討伐に出かけた騎士団第三部隊、大量殺害予告があり都内巡回を強化している騎士団第四部隊、それぞれの部隊に派遣される万能集団である騎士団第一部隊――これらすべてが自由に動けない状態なのである。
「これは…偶然…にしては出来過ぎていますなぁ…。」
「あぁ、言ってしまうが裏にいるのは、アランドロ公爵家だ。」
その名前にソルヴィが険しい顔をしてネルカを見る。それは『分かっていてバーティ家に行ったのか、なぜ相談しなかったのだ』といった類のものであるが、対する彼女は心配無用とばかりにそっぽを向いていた。
その横でこの中でもっとも場違いであるセオザが、右頬をポリポリと掻きながら挙手をする。デインはどうぞと促し発言の許可を出した。
「へぃ坊ちゃん。貴族様たちはとやかく…あっしにどうしろと?」
「おい貴様、殿下に失礼だぞ!」
「いやいいよ、エル。セオザには僕ら兄弟はいろいろとお世話になっているんだ。まぁ…話を戻すが、セオザには給仕として裏で探って欲しい。」
「ですが、あっしは夜会の担当から外されていますぜ。」
「そういう時こそ、セオザの得意分野じゃないのかい?」
セオザは観念したように両手を上げると、それ以上はもう何も言わなくなった。デインはその様子に頷くと周りを見渡し、「詳しい計画はこれから話すけど、何か今のうちに言いたい人は?」と確認するが反応はない。
「あらかじめ言っておく、私の生死は計画の優先順位には存在しない。」
その表情に籠るのは怒り。
今回だけでなく今までのことも含めて、自身の義母の勝手をここで清算させる。これまで何度ものらりくらりと逃げられてきたし、今回は持っている駒も少ない――しかし、事前情報は十分すぎるモノであり、駒の質も高い。
「これは王命だ――潰せ。」
― ― ― ― ― ―
ネルカとソルヴィは帰りの馬車で隣り合っていた。
すでに計画にどっぷり浸かっているネルカと違って、匂わせ程度しか知らなかったソルヴィは頭を抱えている。本来なら今この場所にいるのは父親であるアデルのはずなのに、ちょっとした計画の手違いがあって急遽に彼が配役されたのだ。
「妻とダーデキシュは自宅待機だね。だが、私の護衛としてナハスは連れて行くよ。まぁ、弟の婚活を手伝いに来た優しい兄…ってことにでもしておこうか。」
「ソルヴィお義兄様は何かお役目を?」
「う~ん、一応は父上の代わりと言われたけれども、もしかしたらお荷物になるかもしれないねぇ。父上も出席自体はするそうだし、そもそも私の得意分野は領政管理だからね。」
少しばかりおどけて見せるソルヴィだが、その表情は相変わらずに言葉のソレとは違うものだった。どう話を切り出そうか悩むネルカをよそに、彼はそのまま続けて話をする。
「お前が来てからもう半年…いや、されど半年。さっき睨みつけてしまったが、私たちにとってお前はもう家族だ。心配する気持ちを分かってほしい。うん、守らせてくれ。」
「あらっ! これはまたとんだすれ違いね。」
「ほぅ? すれ違いかい?」
「私だって家族を守りたいのよ。」
その言葉に目を見開いたソルヴィはしばらくネルカと見つめ合い、そして互いに口を開いて笑う。強く逞しく凛としている義妹に心を開いてほしかったが、彼が思っていた以上に彼女は心を開いていたのだ。
ただ彼女は表に出さないだけ、不器用なだけだったのだ。
顔は自分に似ているが、性格は末弟に似ているのだ。
「それでも、エルスターくんの言うことを聞くんだよ。」
「フフフ…さっきから会話の主語がチグハグね。」
「んん、主語? あぁ…アハハ! そうかそうか、チグハグか!」
「そうよ、主語がチグハグよ。」
(学園で良い出会いがあったみたいだね)、彼は目を細めて義妹の言葉を待つ。何となくで行動しているようだった出会った当初と違い、その表情はイキイキとしている。
「私が言うことを聞かせる側なのよ。」
この瞬間、二人は本当の兄妹になれた気がした。
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~~オマケの設定紹介~~
【ソルヴィ・コールマン】
コールマン伯爵家の長男。実質的な当主。
母の死をきっかけに父が酒浸りになった際に、長男の責として領地管理をするようになった。最初の頃は経験不足であったことと、学校生活の二足の草鞋であったため、あくまでできる限りの手伝いだった。
学校を卒業してからは領地管理の才を発揮し、妻と二人でコールマン家を支えた。父が宰相に引き抜かれた後は、完全にその権限は移されている。
初期年齢28歳。身長180台前半。
王都アルマ学園OB・三年間が普通科第三教室。
釣り目だが柔和な顔だとよく言われる・学生時代はモテモテ。
赤髪・ロン毛・手入れを頑張って真っ直ぐにしている
性格:愛妻家・ 物腰が柔らかい
好きな食べ物:まだ流行っていないが遠国の穀物から作れるお酒
嫌いな食べ物:甘味の強い酒
好きな人間:妻・次点でその他家族
嫌いな人間:妻を貶すもの