189話:アリス オブ ワンダーランド⑥
作者は『ケイドロ』派です。
マリアンネの前世の遊びに『ケイドロ』というものがある。
警察と泥棒を略した呼び名の遊びである。
地域によっては『ドロケイ』だとか『どろじゅん』だとか『助け鬼』だとか呼び名は変わってくるが、そんなことは今はどうでもいい。そして、この国において警察に代わる存在は騎士――ゆえに『キシドロ』だ。
ルールはまず、逃げる陣営(泥棒)と追いかける陣営(騎士)に別れる。
泥棒は騎士に触れられると定めた区画(牢屋)に入り、身動きが取れなくなってしまう。そして、決められた人数の泥棒を牢屋にぶち込むと騎士の勝ちというわけになるのだが、泥棒は牢屋で捕まっている味方に触れることで脱獄が可能。泥棒の勝ち条件は時間経過である。
言ってしまえば、子供の遊び。
頭脳と体力と覚悟が要求される遊びである。
そう、これはあくまで遊びのはずなのだ。
しかし、この異世界においては騎士の訓練と捉えられてしまった。
こうして王宮騎士団の訓練の一つと化してしまっているのだ。
――逃げながらもカウンターを狙う泥棒。
――追いかけながらも陣地を守る騎士。
筋肉ムキムキで実践派の野郎共によって行われるキシドロは、遊びという言葉からは程遠いガチでおこなわれる。開始前にはブリーフィング時間が設けられ、身体強化を使って移動箇所は多岐にわたり、人数も数十人規模で実施されるのだ。
これには、王宮騎士団限定ルールとして制限が4つ存在する。
正確には、制限されなければならない者が4人存在する。
一人目、ネルカ。
魔力膜の応用による探知の禁止。
二人目、第四部隊隊長のルーベルト。
精神魔法による情報伝達および命令の禁止。
三人目、ギウスレア皇太子。
呪具等による空中移動の禁止。
これらはまだマシな部類だろう。
だって、制限されているのはあくまで技術や魔法によるもので、結果的に該当者がそれぞれに一人しかいないだけなのだから。個人に対しての制限と言うわけではなく、やむをえずルールに追加しただけである。
そこで、四人目だ。
技術や魔法によるものではなく、唯一である個人の制限。
その者がいるというだけでペナルティが添えられる。
何かに特化しているわけではない。
だが、勝ちを拾い続ける。
警戒していても意味をなさない。
その警戒すらも利用し、すべては彼の掌の上。
――その名は――エルスター・マクラン。
ベルガンテ王国においてキシドロ最強の男。
― ― ― ― ― ―
キシドロのルール説明を受けたアリスは、今までの遊びとの違いにワクワクを募らせていた。というのも、彼女は甘やかされて育ったため、いかなる遊びにおいても負けという感情を知る機会を得させてもらえず、だからこそ八百長がやりやすい『個 VS 個』あるいは『個 VS 集』の遊びしか知らないのだ。
それすらも、エルスターの予想の範疇。
アリスなら確実にキシドロを受ける。
そして、彼女の両親なら勝たせる作戦を練る。
思考は勝利へと向けられ――防衛意識は剥がれていく。
『いい! それ、キシドロ、遊びたい!』
アリスが乗った。
ならば、確定事項だ。
『じゃあ、お兄さんとマエロちゃんの二人チームね! アリスはパパやママ、それと友達の皆のチームで追っかけるから! ……みんな~、がんばろ~!』
「ん? 皆?」
アリスが手を二度叩くと、部屋のドアが開いてゾロゾロと入って来る。おそらく護衛目的として外に控えさせていたのだろう、5人ほどの白塗人間だった。どれだけの数になるのだろうかと冷や汗をかいていたエルスターは、ホッとして安堵の深呼吸をする。
この程度なら、計画に変更はない。
本当なら半々になるように人数振り分けしてくれるのがベストだったが、アリスに『平等』という言葉を期待してはいけない。打算も悪意もなく自身の有利しか考えられない、それが我儘。だが、マエロならエルスターの望む仕事をしてくれる肝を持っていて、だからこそベストでもベターでもなくともグッドの状況ではある。
勝ちの目はエルスターに――――
『アリスや、隣の部屋に控えさせてる人たちも、参加させよう。』
『うん♪ そうしよう、パパ!』
――――向いてなどいなかった。
「えっ? 隣の部屋…?」
一同は今いる部屋から出ると、隣へと移動。
開け放たれたドアの先の光景は、それはそれは白塗人間の壁とも言えるようなものだった。飽和状態でギュウギュウの詰め込みである。顔のパーツも存在しないのっぺらぼうの白塗人間だが、扉が開けられてしばらくすると一斉にアリスを見たような気がする。
説明されずとも簡単に理解できる。
これらすべてがアリスのチームに入るのだ。
まさに無遠慮、無配慮、無秩序。
「あー……なるほど、そう来ますか…。」
ここで一つ、キシドロ最強の肩書について説明をする必要がある。
騎士団内特別ルールでの彼は――禁止ではなくペナルティ付加。
内容は、エルスター陣営の人数比の減少である。
そう、人数不利ハンデがあると丁度良くなる程度の最強なのだ。
人海戦術の前では、無敗にはなれないということを意味する。
まぁ、この人数差ではそんな表現以前の問題ではあるが……。
「おやおや…こ、これは…計算違いですねぇ…。」
参加者追加――隣の部屋が満杯になるほどの白塗人間
――キシドロ最強 VS 数の暴力。
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