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その令嬢、危険にて  作者: ペン銀太郎
第二部:第2章:王宮騎士団第零部隊
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187話:アリス オブ ワンダーランド④

その話を聞き終わったエルスターは深い溜息を吐いた。


マエロから聞いたアリスの性格と、異空間を作り上げるほどの執念が関わっていることを考えれば、まともな過去話が出てこないことは覚悟していた。だが、覚悟していても嫌悪の気持ちが生まれないというわけではない。


エルスターも目的のためならば手段を選ばない人間ではあるし、性格が捻じ曲がっている自覚はあるけれど、それでもアリスの両親や使用人たちは狂っているようにしか見えない。惹きつけられた存在が王子か少女かだとか、個で動くか集団で動くかだとか、動機がコンプレックスか保護欲なのかだとか――その程度の理由だけではないと思えるほどに、大きな隔たりがある。


魅力というより魅了。


もっと近い表現は――洗脳。


(もしや…アリスとやらは…。)


桃色と金色と黒色の三名の女性の姿が、彼の脳裏をよぎる。

だが、確定の情報ではないと、彼は頭を横に振った。


「これは…あまりにもな話ですねぇ。」


『はい、あまりにも『アリスが可哀想』な話です。』


まだ感情的になってはいけない。

バレぬ程度に嫌味は混ぜるが、表向きは同情を装う。

そして、アリスの両親はそれに気付かない。


「であれば、この世界はアリス嬢にとって、さぞ暮らしやすい世界でしょうねぇ。」


『今は、ですがな。』


「昔は違った、と?」


『えぇ、最初は私たちでも一つの屋敷を模倣した空間しか、作れなかったのですよ。ですが、あるとき、魔法の研究者と『友達』になることができまして、魔力の制御の仕方を学べたのですな。おかげで、町を作ることができたのですが――』


「ですが?」


『一定以上の『友達』が増えてから、世界のコントロールがしにくくなってしまったのですぞ。原因は簡単な話…世界を大きくし過ぎてしまっただけ。『友達』ができるたび、初めて知る村や建物を再現していたので、当然と言えば当然ですがな、ハッハッハ!』


エルスターは屋敷の外を知らないため、その規模は全く分からない。

だが、『神隠し』は少なくとも百年近くは確認されている現象であるため、今できる想像以上に大きいのであろうとは推測できる。そんな大きさの空間を管理しようとなれば、本来ならばただ人数を揃えただけでは無理な話なのだ。


「なるほど。では、今はどうやって管理を?」


『えぇ、それがですな、思考を一つにまとめることにしましたのですよ。バラバラな思考は足し算にはなりませんが、連結させれば足すどころか乗算になる。問題として、連結する魂から『思考』と『自我』を切り離さなければならないということが発生しました。』


「なるほど、管理専用の思考回路……ということですか…理に適っていますねぇ。ん?……となればもしや、あの徘徊していた白い人っぽい何かは…この世界の維持には不必要な『自我』ということになるのですかな? これでようやく合点が行きました。」


『さすがは研究者様。ご理解が早い。……それでですね、話を戻しますが、『自我』を消すとは何も感じなくなる、つまりアリスを感じることができなくなってしまうのです。そしたら「あんたら夫婦はあの子の親だから残れ」と皆が言ってくれて…ほんと、献身的な者ばかりで…うぅ…アリスの為に『自我』を切り離し………今はもうこの世界を維持するだけの存在に…。』


かなり核心まで迫っている。

あともう一押し。


焦ってはいけないとエルスターは気を引き締めた。


アリスの父親の『心の隙』をもっと広げるためには、こちら側の『心の隙』を見せつける必要がある。ここで脇を閉めるような対応をしてはいけないのだ。そして、彼の経験則として手っ取り早いのは――涙。


エルスターの右目から、ツツッと涙が流れる。


殿下のための情報収集で身に着けた技術の『嘘泣き』だ。


「それはそれは、感動する話ですねぇ。すみません、私も涙が、うぅ…。」


『彼らのために泣いてくださると! なんと人情に篤いお方なんだ!』


涙まで見せられれば、アリスの両親も脇を緩める。

目の前の男は『優しいかも』という評価から、『優しい』に切り替わる。

だからこそ、彼らの中にある公開する情報の線引きが取り消された。


「本当に、その者たちが不憫で、健気で……。」


エルスターの王宮騎士団第零部隊におけるコードネームは――【蛇】。

狭い場所にするりと入り込むことができ、立てる音も小さく、時には尾を餌にして誘い出し、気が付けばそこはもう捕食の範囲。一度噛みつこうものなら毒が注入され、相手が弱るまでジッと待ち、隙を見ては絞め殺す。


――それが【蛇】という生き物。



『ですが、ご安心を!』



すでにエルスターは懐に入っている。

すでにアリスたちに毒は入っている。


すでに捕食計画の終盤へと入っている。



『私共は彼らの覚悟に報いるために、せめてアリスの近くにと――』



エルスターはひたすらに待つ。

待って待って待って、待ち続けた。

毒に気付かれぬよう、逃げられぬよう待った。


その結果――



『――『思考の集合体』は、アリスの心臓に宿しているのです!』



――来た。これだ。



致命的な情報を引き出してみせた。



――チェックメイトまであと一歩。



【皆さまへ】


コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。


そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。

なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。


よろしくお願いします!


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