185話:アリス オブ ワンダーランド③
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
真っ白な少女――アリス。
この異空間の主であるかのように、すべてが真っ白な少女。
そんな彼女はマエロという名前の女の子と『かくれんぼ』で遊んでいたのだが、どうしても見つからない状態になっていた。アリスの『友達』である皆からは「遊び上手すぎて絶対にアリスには敵わない」と言われているほどなのに、ここまで見つからないのはありえないことのはず。
だったら?
考えられるのは一つ。
遊びを放棄してどこかへ行ったのだ。
せっかくアリスが遊んであげているというのに、放棄するなんて邪悪にもほどがある。だから、優しくて賢くて良い子だと評される彼女は、マエロという少女に『罰』を与えないといけない――
――などと考えている、ちょうどその時だった。
「ア~リ~スちゃ~ん!」
声がした。マエロの声に似ている。
アリスは急いで声のする方へと向かった。
浮遊する体を飛ばし、勝手に開くドアをくぐっていく。
「ア~リ~スちゃ…っ…あっ、いた! アリスちゃん!」
『見ぃ~つ~けった♪ キャハハ♪』
三つの部屋が中途半端に合体された空間に、マエロは立っておりアリスを見つけると顔を綻ばせた。しかし、彼女の右手が繋がっている先に、知らない男も立っている。アリスの背後に控えていた紫色と黄色の球状の光が前に出て、彼女を守るように人型へと変形する。
そして、紫色の方から言葉が発せられた。
『男よ、我が娘アリスに何か用かな?』
その言葉に男はマエロから手を放すと、片膝を着いて礼の構えを取った。そして、敵意がないかのような柔らかい笑みを浮かべると、優しい声色で問いに応えるのだった。
「おや、そちらがアリスお嬢さんの御両親でしたか……お初にお目にかかります、私はエルスターという者なのですが、いえいえ、お節介とは承知なのですがねぇ、ちょいとばかし提案をしようかと思っておりまして。」
『『『…?』』』
「この広い屋敷において『かくれんぼ』で遊ぶとなると、そりゃもう大変だったのではないでしょうか? こちらのマエロさんが寂しくて寂しくて、泣いているところを偶然に私が見つけてしまったのですよ。そして、何があったのか話を聞いたのですが……遊ぶ場所と内容が『向いていなかった』と私は思うのです。」
『うん……うん! そう、そうなの! 向いてないから、アリスは見つけられなかった! だから仕方ないし、つまんないの! だから、かくれんぼは中止!』
「そうでしょうとも、そうでしょうとも。そこでですね、少しばかり小休憩も兼ねて、おしゃべり時間でも設けませんか? ……という提案でございますよ。あっ、いえ、別にいっぱい動く方が好きと言うのであれば、それはそれで構わないのですが……せっかくなら互いが気持ちの良い関係でいた方が楽しいでしょう?」
『お話する! マエロちゃんとも、お話したいこといっぱいあるの!』
嬉しそうなアリスの反応に対し、両親と思わしき二色の光は安心したのか後ろへ下がる。そして、いつのまにか部屋に入ってきていた白塗人間へと指示を出し、二つのテーブルにお茶会のためのセッティングが迅速になされるのだった。
片方のテーブルは二人用。
もう片方は三人用。
組み合わせは『マエロとアリス』と『エルスターとアリスの両親』。
今のところアリスとその両親はエルスターの想像通りの人物像であるし、マエロにお願いした「アリスとやらを両親から離す手伝いをしてくれ」という任務にも都合がいい展開ではある。それでも心配な彼はどうしても二人から目が離せなかった。
しかし、彼の心配は杞憂に終わる。
「ウフフッ!」
『キャハハッ!』
マエロは彼の依頼を忠実に果たそうとしたのだ。
一切の疑念も持たせぬよう、アリスと仲良くなっている演技。
むしろ、二人の様子をジッと見つめてしまうことになったエルスターの方が、よっぽどに怪しい状態になってしまっていた。彼はそのことに気付かないまま椅子へと座り込み、つい口から本音がこぼれてしまう。
「マエロさん、良かった、安心しました。」
だが、その反応こそが逆にリアルさを醸し出すことに成功し、アリスの両親は『エルスターはマエロのことを本気で心配している』と思い込むのだった。味も色もない紅茶を三人が飲み、今度はこちらのお茶会がスタートする。
『あなたは優しい方ですな。娘も喜んでいます。』
「ハッ…えっと、あぁ、そのように言われたのは…初めてですねぇ。」
『そんなご謙遜を。』
ボロは出してしまった。
だが、怪我の功名。
想定よりも容易に、心の懐に入り込めた。
気を入れ直したエルスターは、もうチャンスを逃さない。
だからこそ、早速に彼は話題を本筋へと突入させることにした。
この世界の壊すべき根幹への、探りの開始だ。
「謙遜ではありません。そもそも、私がアリスお嬢さんをお呼びしたのは、なにもマエロさんのためという理由だけではなかったのですよ。というのもですね、私は魔力を研究している者でして、『これだけの異空間は何をやったらできるのだろう?』と興味を抱いていたのです。だから、どちらかと言えば、あなたがたご両親とお話しするのが目的だったのですよ。」
『なるほど、そういうことだったのですな。なんだか警戒心が強そうな目をした人だな、と不安に思っていたのですが、あれはこの世界の仕組みに興味があっての目だったのですね。安心しましたな。ハッハッハ!』
「教えていただけないでしょうかねぇ。」
『えぇ、構いませんよ!』
アリスの父親は気持ちよく承諾すると、身を乗り出す。
エルスターも同じように身を乗り出した。
『では、お話ししましょう。この異空間の成り立ちを――』
二人の少女に聞こえぬよう、小さな声で語り出した。
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