表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その令嬢、危険にて  作者: ペン銀太郎
第二部:第2章:王宮騎士団第零部隊
182/206

182話:豪運と適応力

黒衣をまとっているホンモノネルカ。

仮面の呪具を装着したニセモノネルカ。


本来だったら呪具を多く持っているニセモノに分があるところだが、黒魔法の前では無意味であるため状況は互角。つまり、勝敗は、どの要素が原因か分からぬほどの細かな差異によって決まる。


そのことが分かっているからこそ、両者は動かない。

背筋が冷え、指先は震え――そして、口角が上がるのを抑えられない。

これほどの殺気はネルカにとって久しぶりなのだ。


「「ふぅ…。」」


差異が生まれるまでは、動かない、動けない。

しかし、その差異が生まれるのも時間の問題であるということは、二人は薄々気づいていたことだった。大事なことは自身に向けられている外部からの敵意が、こちらに到達した時に何が起きるのかという、一種の運気の差がどちらに寄っているかが大事なのだ。


((そろそろ…ハッ! 来た!))


屋根上のやり取りに介入したのは――魔物2匹と、ゼノン教信者3人。


しかし、ニセモノネルカの方に近いのは信者がたった一人だけで、残り全てはネルカに向けられている。五分五分の勝敗が、二分八分の勝敗へと変化する、もちろん。だが、ホンモノがこの二分の勝ちを奪い取れる存在だとニセモノは知っているため、驕ることなく全力を持って八分の勝利を奪い取りに行く。


ニセモノは黒衣を展開――


その瞬間――




ニセモノネルカはマックスの姿に戻ってしまった。




あまりに予測外の展開に、仮面の下のマックスは茫然としたアホ面。

本物のネルカでさえも同様であり、教徒の剣を腕に受けたのだった。


「「え…?」」


ネルカをコピーするところまでは可能だった。

だが、黒魔法を行使しようとした瞬間、変身が解けた。

要するにそういうことなのだろう。


そもそも黒魔法は対象を選ぶことができない。

都合の良し悪しなどお構いなく、あらゆる他者の魔力を解除する。

そして、当然だが呪具の魔力は使用者の魔力ではない。


だから、黒魔法――それも黒衣のように纏えばコピーは解ける。


「クソがッ!」

「ハッ!?」


驚愕から復帰したのは二人同時だ。


ネルカは近くにいた信者の一人を斬り殺すと、他からの攻撃の隙間を抜けて駆け出す。こんなザコ共相手はいくらでも秒殺が可能だが、白仮面の男だけは対面有利である自分がいる間に殺さなくてはならない。


対するマックスはインナーの呪具を発動した。すでに体力を消耗している彼は、たったニ,三秒の間だけの発動に抑える。そして、そのたった数秒の間で、自身に迫っていた信者の首を片手で掴むと、ポケットから管に注射針が付いている呪具を取り出して、その信者の頸動脈に針を突き刺したのだった。


マックスは管の先をネルカに向けた。


「これでも食らいやがれ!」


管から何かが噴出。


噴出されたものは、赤い霧だった。

ネルカは黒衣に信頼を預けて、躊躇なく霧に突入。

だが、霧が消滅する様子は一切ない。


つまり、この霧は魔力によって発生したものだが、魔力そのものではないということになる。ならば、赤い霧の正体として予想できるのは――ただの血。目的はただの目くらましだと判断するのが妥当だろう。


だが、それが逆にネルカには効いた。


(クッ、視界がッ!)


黒魔法で消せるという前提で動いていたため、すれ違いざまに魔物を一匹斬り殺しながら、マックスが立っていたところに斬りかかるということしかできなかったのだ。空振り、そこにマックスはもういない。


遮られた視界に乗じて、襲い掛かって来ることを警戒。

だが、待てども待てども何も起きない。


そして、霧が晴れる。


「いない!?」


そこには仮面の男などいやしなかった。

血をすべて抜き取られたゼノン教信者が倒れているだけだ。

この状況から導かれる結論は一つ、逃げたのだ。


「…………やられたわ。」


ネルカは首を傾けて後ろを見た。

そこには残った信者と魔物がいる。


「逃がしたのは、あなたたちのせいよ。」


彼らに対し、マックスにしてやられたという怒りをすべてぶつける。

信仰心も、スィレンからの命令も、何もかもを『恐怖』へと塗りつぶす。

同時にその内にある魔王に近い力を感じ取り、『歓喜』に変換。


彼女は敵だ。


だが、なぜだろう、殺されたくなる。


全力で抗って、殺されたくなってしまう。



そして――



一分もしないような時間で、屋根上にはネルカしかいなくなった。



 ― ― ― ― ― ―



ガッベの街の壁門付近の裏路地にて、マックスは座り込んでいた。

今なら門番も少なく、余裕で混乱に乗じた脱出が出来る。

だが、手先や足が震えて、まともに動いてくれない。


「クソッ、あれは…ヤベェな。」


豪運と適応力によりなんとか助かったが、もしも次があったとしたら二度目はないのだろう。死神鴉とは彼自身もベルガンテ祭のときに表面上は親しくなったが、あまりにも日常と戦闘時が違い過ぎる。


あれが親友を斬った女。

あれが王都で英雄と持て囃される存在。

あれがリーネットとバルドロのお気に入り。


できることなら、もう会いたくない。


「ベルディゾ…あんたが今どこにいるかは知らねぇが、見捨てっからな。」


マックスはそう呟くと、何とか立ち上がる。

白仮面の呪具はネルカに斬られたことで、機能を失ってしまっているため、その場に脱ぎ捨てる。この呪具がなければ彼は大々的に行動はできなくなってしまうが、しばらくはメンタルを休ませたいとばかり望むのだった。


「じゃあな、あばよ。」


彼は大通りへと移動する。

そして、雑多の市民へと溶け込んだ。

商人息子のマックスと化しており、怪しまれない。


こうして彼はガッベの街から出て行ったのだった。


『ネルカ VS ネルカ』を期待していた人、すみませんでした!


一応ですね≪変身したらそれはもうネルカ本人だから、少なくとも自身の黒魔法の影響は受けない≫って設定にすれば、他者からの黒魔法の影響は受けるので,

トドメを刺さずとも3・4話ほど使って変身解除までは持っていけるんですよ。


それでも、今回の章はマーカスとエルスターをメインにしようと思っていたものですから、ここでネルカの大きな勝負を書いてしまうとダメだと判断しました。本当に期待していた方々には申し訳ございません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ