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その令嬢、危険にて  作者: ペン銀太郎
第二部:第2章:王宮騎士団第零部隊
181/206

181話:一方その頃、死神は

時間は少し遡って、現世の方では――


 ― ― ― ― ― ―


マックスは目の前で人が消えたのを見た。


ベルディゾ、マーカス、スィランの三名である。

つまり、主要人物の中で彼だけが神隠しに遭わなかったのだ。

ちなみに彼も神隠しの対象にはなってはいたのだが、所持している呪具の中の魔力も対象生物として扱われてしまい、人数オーバーで異世界に飛ばすことができなかっただけである。そんなことは、彼はあずかり知らないことである。


では、それが彼にとって幸運だったかと言えば――。



――一概にそうとは言えない。



「あら、少なくなっているわね。また『神隠し』が起きたのかしら。」


魔物を退治したネルカが戻って来た。

そう、死神はこっち側に残っているのだ。

つまり、順当にいけばマックスの対戦相手は死神鴉になる。


そんなネルカは戦場の分析をしている。

きっとすぐに、厄介な存在はマックスだけとなってしまっていることに気が付くだろう。しかし、呪具頼りなマックスにとって黒魔法はまともな戦闘にすらならず、まして相手がネルカならなおさらだ。


今なら、ゼノン教と王国側の騎士の陰に隠れてこっそり離脱できる。


だが、マックスの逃走判断は少し遅かったようで、目が合った。


「「ッ!」」


マックスは自身の肩が跳ね上がることを抑えられなかった。

心臓は体に警鐘を鳴らし、肺は怖気づいてしまう。


目が合って一秒にも満たない時間、殺意が彼に向けられたのだ。

彼女の中での優先事項は一瞬にして上書き。

見逃してくれるはずなどありえないと分からさせられる。


(このッ! バケモノがッ!)


呪具愛好家である彼は、今までの人生で死にかけたことなど何度もある。呪具を強奪するための作戦時であったり、未調査の危険地帯へと足を踏み入れたり、強力な呪具を取り扱うときであったりなどだ。また、最近はリーネットに協力していることもあって、さらに危険な目に遭う頻度が増えている。


だが、ネルカは違う。


死が恐ろしいことであると、本能に叩きこんでくる何かがある。

一瞬で切り替わった瞳、暗く冷たい世界を宿していた。


まさしく死の化身――死神の使徒――死神鴉の名にふさわしい。


(クソッ! 地獄に落とされる!)


多くの戦士は、この死の感覚に打ち勝つ。

トーハやセグは、この死の感覚が日常すぎて何も感じない。

バルドロやシュヒ―ヴルは、この死の感覚を楽しむ。

ハスディは、この死の感覚に歓喜した。


だが、マックスは『ただの人』だった。

思考で判断することなどできない精神状態となっていた。

生存本能に身をゆだね――彼は逃げの一手を選んだ。


「逃がさないわ」


その声に反応するかのように、マックスは着こんでいたインナー型の呪具に魔力を込めた。様々な生物種や人種の生きたまま剥いだ皮で作られたものである。すると、急激な空腹感と同時に足が変身し、すさまじい速度で後ろへと飛び退くのだった。


それでも、仮面の一部と頬の薄皮が斬られていた。


あとコンマ秒遅れていれば、彼の頭部は――


覚悟を決めた彼は、さらに呪具に魔力を込めていく。すると、彼の頭から触覚が生え、さらに目が複眼となる。そして、腰のホルダーから短剣を取り出すと、巨大化して剣のようになるのだった。


追撃の鎌を――彼は難なく剣で止めた。


(反応できる!)


インナー型の呪具の効果は『作製に使用された生命体の肉体を得る』というもの。呪具の中ではコントロールがしやすい部類であるのだが、使用者の生命力を糧にして発動するという欠点がある。


つまり、マックスの肉体はどんどん消費されていく。


「ねぇ、白仮面のあなた、何だか苦しそうね。」


「チッ!」


「私は長期戦は得意じゃないけど…あなたもかしら?」


「このバケモノがッ!」


手の平を変身させたマックスは、近くの壁に手を置いた。すると、ペタリとくっついて彼自身を持ち上げるほどの吸着力が発生する。彼はどんどん建物をよじ登っていった。しかし、対するネルカは黒魔法の大鎌を二振りの手鎌に変形させると、それを引っかけながら同じように壁を上るのだった。


屋上に着いたところで、マックスの体力の限界により変身が解除される。


(くそ、あの女が上って来るのも時間の問題。どうしたら…ッ!?)


彼は体に仕込んでいるいくつかの呪具を思考に入れるが、いずれもネルカに対しては一切の役にも立たないものばかり。だが、ふと触れた自身の胸ポケットの硬い感触に、唯一に可能性がある呪具を思い出したのだった。


取り出すと、それは指輪の呪具だった。


「これだけは使いたくなかったが…。」


かつて、双子の姉の夫に恋慕した女性がおり、姉を殺して成り代わったということがあった。そのときに指にはめられていた結婚指輪こそが、この呪具の誕生秘話である。ちなみに、その妹というのは、姉に成り代わっているうちに『自分こそが姉本人である』と思うようになり、最終的には完全に姉になった。


呪具の効果――他者の模倣。


インナー型の呪具が機能の一部変身であるのに対し、指輪型の呪具は全身だけでなく記憶すらコピーすることが可能だ。ただし、使用者と相手の精神力によっては、乗っ取られてしまうことがある。


(相手はイカレ死神女、クソクソクソッ! 俺も乗っ取られかねないが…あぁ、そうだ…死ぬよりかはマシだ! えぇい! やってやるよ! 黒魔法に対抗できるのは、黒魔法だけだ!)


彼はその指輪を、自身の左手の薬指に嵌めた。


それと同時に、ネルカが屋上に辿り着く。

しかし、彼女はすぐにマックスに攻撃はしなかった。



ネルカの目の前に、『ネルカ』が立っていたからだ。



「「フフッ、『私』って、こんなに怖いのね。」」



互いが互いの思考に植え付けるのは、『死』という言葉のイメージ。



【皆さまへ】


コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。


そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。

なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。


よろしくお願いします!


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